鈴木タカラのお宝映画Vol.2『ロボット・ドリームズ』レビュー


「なんか疲れちゃったなぁ…」そんな時に。
過去も今も、全てを包み込んでくれるような大人のアニメ『ロボット・ドリームズ』

舞台は1980年代ニューヨーク。
家に帰ったらテレビをつけてザッピング。ストックの冷凍食品をチンして食べて、眠くなるまでゲームをして、主人公のドッグはひとり気ままな生活を送っている。しかし、そんな代わり映えのしない日々は孤独でもあり、ある時ドッグは深夜のテレビCMに惹きつけられる。数日後、家に届く大きな箱。中の部品を組み立てて完成したのは、指先まで器用に動かし、ユーモアも持ち合わせた、素敵な『友達ロボット』だった。

一人では出向くことのなかったニューヨークの名所を巡り、一緒にご飯を食べ、踊り、仲を深めるふたり。
しかし夏の終わり。海水浴に出掛けると、ロボットは錆びて動かなくなってしまう。シーズンが終わり、ビーチは封鎖される。
夏になったら必ず助けに行くことを誓い、離れ離れになったドッグとロボットは、次の夏までそれぞれの時間を過ごす…

登場するのは擬人化された動物とロボット。
コミカルな動きや表情、軽快な音楽で映画を楽しんでいたが、ある時ふと気づく「そういえば、セリフがない」。本作は、セリフのないアニメーション映画だ。しかし、そのように多くを語らずとも、キャラクターたちの感情や思惑、置かれた状況など、あらゆることが伝わってくる。

サラ・バロンの同名のコミックを原作に、映画化したのはアニメーション映画初挑戦のスペイン人監督、パブロ・ベルヘル。「制約のないアニメーションで、物語を描く無限の可能性を探求したかった」とのコメントの通り、自由でポップな演出に、笑って、共感して、そして胸が苦しくなる。

離れ離れになったドッグとロボットは、夜を迎えるたびに夢を見る。
ロボットを助けることができる夢、身体が動くようになる夢、思わぬ助っ人が来る夢…アニメの持つ無限の自由さが、夢の世界の切なさを助長させる。

大事な人や、大切な何かがなくなった時。
悲しくて、それが自分の全てであるような気がして、もう人生で笑うことなんてないんじゃないかと思う。楽しそうな人たちを見る、思い出の曲が流れてくる、懐かしいにおいがする、ふとしたきっかけで、簡単に苦しくなる。それでも、生きているとそれなりに新しい出会いがあって、会話をしたり、愛着が湧いたり、ちょっと何かの歯車が合って笑ったり驚いたり心が動いて、少し罪悪感も覚えたりして、そして少しずつ日常に戻ってゆく。
再び、大事なものが生まれたりもする。

ファンタジーのはずが、いつの間にか「私の話」になっていた。
きっと、誰の人生にも転がっている物語。
大事なものを思い続けることも、大事なものが変わることも、どんな選択も正しかったんだと思わせてくれる。これまでの自分を、まるごと包み込んでくれる。

第96回米国アカデミー賞長編アニメーション映画賞ノミネートほか、名だたる映画祭を席巻し、世界中を虜にした本作。寒くなるこれからの季節、年末に向けて慌ただしくなる時期、「最近疲れてるなぁ」という大人の人にこそオススメの1本。102分という時間も、ちょうど良いよね◎

『ロボット・ドリームズ』
配給:クロックワークス

© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
2024年11月8日(金)公開

■鈴木タカラ(女優/ライター)映像作品を中心に女優として活動しながら、執筆もおこなう。主演作の『莉の対』(2024年)が第53回ロッテルダム国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。

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