丸山ゴンザレス×ギンティ小林が対談『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』トークイベント


11月16日公開予定の映画『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の試写会が行われ、上映後のトークイベントにジャーナリストの丸山ゴンザレスとフリーライターのギンティ小林が登壇した。(2018年11月7日 神楽座)

危険地帯の取材を数多く手掛け劇中に登場するメキシコ麻薬カルテルにも詳しい丸山と、雑誌『映画秘宝』の名物ライターであり本作主演のベニチオ・デル・トロに直接インタビューを行った小林。この二人ならではの見識で、本作の魅力を深掘りした。

■本編を見終えた感想
小林 脚本がテイラー・シェリダンじゃないですか。彼は本当に、まったく予想のつかない物語を作ります。本作もシェリダン節がきいていて、(劇中のあるシーンで)マジかと思いました。
丸山 やられましたね。随所に予想を裏切る展開が数多くあったと思います。
小林 これは三部作だから、早く先が見たい。あと、一作目の時はアレハンドロのキャラクターがミステリアスだったじゃないですか?今作は、見たあとに一作目を見返すとアレハンドロがより深く見えてくる作りになっていて、そこもとても好きでした。
丸山 僕も脚本とかキャラクターとかにも、おもしろかったところも、見て思うところもいっぱいあるんですけど、一応僕に求められているであろう感想でいうと「現実の映し鏡」って部分が多かったかなって思います。リアリティがありすぎて、もしかしたら嘘っぽく思われるかもしれないなーって。
小林 すごい話だから、創作だと思っちゃいますよね。
丸山 (劇中に)少年がアルバイト帰りに国境を渡るときに、川を渡っていくシーンがあるんですが、実際アメリカ・メキシコの国境ってすごく長いので、ああいう風に柵のないところってけっこうあります。
小林 入れるところあるんですね。

丸山 あります、あります。壁、フェンスのあるところばっかり注目されているけど、テキサス州とかは農地・農場がかぶっていて私有地になっているところが、国境近くにあったりするので。すべてじゃないですけど、そういうところが狙われたりするようです。
(本作は)本当に現実に即していて、即しすぎて「嘘だろ?」って思われるところがあるかもしれない。
ちょっと事情があってまだ言えないんですが、つい先日、ある国のとある組織……というか、特殊部隊と取材で行動することがありました。あれって襲撃とかされると、本当にこう(映画の中で)“バンッ”と運転手が踏み抜く、あの感じで踏み抜いていくみたいです。
小林 今回の映画でも襲われたときに……

■麻薬戦争のど真ん中にいる人たちは、何が起きているかわからない
丸山 冒頭の方で「9.11以降コカインの値段が高騰している」「厳しくなれば根が上がる」って言ってたじゃないですか。あれってどういうことなのか、ちょっと解説的に感想的に伝えるとですね、結局アンダーグラウンドの市場に定価ってないんですよ。言い値なんです、基本的に。だから、入ってくるルートを潰されたら、次に入ってきたやつに値段が上乗せされて販売される。だから値段が上がるんです。「今、動かすと一番お金になるのは人」ってセリフも出てきますけど、あれもその通りで、人に付随して乗っけて運ぶのが一番大きいって、現地の取材のときに聞きましたね。
そんなに前ではないんですけど、僕はメキシコの麻薬戦争を取材したことがありまして。まあ今も地続きになっているんですけど。その時現場でいろいろ聞いてまわったなかに、ちょっとあの、なんでしたっけ、ドキュメンタリーの……

小林 『カルテル・ランド』?
丸山 そう。地元の人とかカルテルからみの自警団とかに『カルテル・ランド』や『ボーダーライン』を見た?って聞いたら、「『カルテル・ランド』は眠くなって最後まで見てない」って(笑)「ドキュメンタリーは辛い、やっぱ『ボーダーライン』の方がいいよね」って言ってました。
小林 すごい冷めてますね(笑)

丸山 あとは『ブレイキング・バッド』が大人気でした。笑って見るドラマじゃないだろと思いますけど(笑)そんなことは言ってましたね、麻薬戦争のど真ん中にいる現地の人たちが。
小林 『カルテル・ランド』って、日本人から見たら衝撃の事実のオンパレードじゃないですか?

丸山 そうですね、ひっくり返ってひっくり返って。
小林 それが鈍くなるんですね。

丸山 はい。やっぱりよくわかんないっていう。
メキシコに限らないんですけど、そういう事件とか大きなムーブメントとかが起きている場所って、地元の人たちって意外とわからない。何が起きているのか全然わからないってことが多いと思います。映画では俯瞰して、整理して見られるからカッチリわかるんですけど、混乱の最中にいると何が起きているのか全然わからない。

小林 「そんなこと起きてんの、今?」みたいな?
丸山 はい。大体こういうのって、10はいかないって程度の9割方の人たちは普通の一般市民で、かつ被害者ですから。

■地縁血縁が強靭な、アルバイト感覚の警察官
小林 僕は丸山さんと違ってそういう危険地帯へ行くジャーナリストじゃないから、自分が行く精一杯の、危険なメキシコの情報を知れる人っていうと、日本人のプロレスラー。聖地じゃないですか、プロレスの。で、向こうで遠征とか修行したレスラーの方2人に聞いたときに印象深かったのが、現地の人たちってカルテルとかマフィア、その名前は絶対呼ばないし、みんな言いたがらないって。

丸山 そうですね、こっちがインタビューでカルテルって単語を出すと(怯えたように)首を振って、それだけで答えない人もいる。街中で「ちょっとカルテルについてお伺いしたいんですけど」って声をかけると、けっこう素通りされます。
メキシコを舞台にするこういう麻薬ものの映画って、撮影場所がメキシコじゃなく、アメリカ南部の方だったりするじゃないですか。実際、メキシコでは本当にタブーなんだと思いますね。

小林 ちょっと一作目に絡んだ情報なんですけど、このシリーズってメキシコの郡警察とか出てくるじゃないですか?だけど、まあいとも簡単にカルテルに寝返る。一作目でも麻薬の運び屋やるおまわりさんが出てきたじゃないですか。
さっきのプロレスラーの話ですけど、チャンピオン戦で勝った帰りにいきなりパトロール中の警察官に呼び止められて、ホードアップになって、身体検査受けて、そのまま全部金持って行かれたんですって。
さっき僕、楽屋で(丸山さんから)聞いておもしろかったので是非みなさんにと思ったのですが、おまわりさんの感覚がちょっと日本と違うんですって?

丸山 日本だと試験をちゃんと受けて、公務員であり法の番人として活動するじゃないですか。それが警察官として当たり前だと思っているから、こういう映画を見ると少し違和感があると思うんです。「そんな簡単にワイロもらってやるか?」って。
実際、日本みたいに試験をちゃんと受けて訓練された警察官はメキシコにもいます。そういうきちんと採用された警察官っていうのは、わりと世界中いるんですね。そういう警察官の部隊はすごく強いし、統率もとれてます。腐敗もそれほど多くはないと思います。機能はしています。そいつらが動くと、麻薬カルテル側も逃げ腰になります。

そういうエリート部隊に対していわゆる制服警官っていうのは、地元採用なんですよ。警察署で採用してるようなもので、言い方は悪いですけど、警察職員のアルバイトみたいな感じ。感覚としては、交通取り締まりしてる人たちくらいな、緑のおじさんみたいな採用だって言ってました。緑のおじさんの話はさすがに出なかったけど……簡単に地元で雇ってる人たちだから、っていうようなことを、取材したときに警察官から教えてもらいまして。実際調べてみたらそういう採用なんです。
それの何がよくないかって、地元採用ってことは地縁血縁がすごいある。本作の冒頭でもあるけど、少年を悪いことに誘うのって、大体いとこですよね。

小林 実感がこもった言い方で……
丸山 ヒスパニックの子や中南米の子たちに「なんでこの道に入ったの?」って聞くと、「いとこが」って。一言めにいとこが出てくる。地縁血縁の強いエリアですよね。だから地元採用の警察も断りづらい。
小林 カルテルも血の繋がりだし、おまわりさんたちも血の繋がり。厄介ですね。

■ベニチオ・デル・トロ、三船敏郎のにわかファン疑惑?
小林 この作品の魅力って、題材やリアリティもあると思うんですけど、(主演)二人の説得力もあるじゃないですか。僕、この二人の生まれる時代間違えた感が本当に好きで(笑)70年代に生まれていたらサム・ペキンパーの映画に出れていたような……。
特に最近のジョシュ・ブローリン、本当に映画で大暴れしてますけど、全盛期のニック・ノルティ枠を引き受けているような感じで。
この二人、おもしろいのが、デル・トロって別作品でパブロ・エスコバル(実在の麻薬王)役をやってるんですよね。ブローリンは『ノーカントリー』ではカルテルのお金くすねて必死で逃げる役とかやってる。今回の映画ではカルテルを潰す側ですけど。説得力があって、そういう題材にぴったり。

丸山 そうですよね。実際のカルテルのメンバーってこんな悪い顔してませんからね。普通のおっちゃんですから(笑)でもギンティさん、今回の映画で、あれどうでした?ギンティさん好きな感じというか、打ち方なんですけど。
小林 あれですよね。デル・トロが最初ベレッタ92Fをこう片手で持って、人差し指でこうバババババって打って。
丸山 あれカッコよかったですね!

小林 (デル・トロにインタビューしたときに)最初は役について真面目な質問をしたんですけど、どうしても聞きたいじゃないですか。あの打ち方はどうやって生まれたんですかって。
したらデル・トロ、電話インタビューなんですけど、ノリノリで「俺のアイディアだ!」って言い出して。しかもすごいのが、昨日今日思いついたアイディアじゃなくて、ずっとやろうと温めていたものらしいんですよ。昔、友達だか仲間だかと射撃場に行ったとき、横でいきなりその仲間があの打ち方したんですって。それを見て「あ、かっこいい!」って思ったって。
デル・トロの言葉を使うと「まるでエレキギターを引くような感じ」。かっこいいけど遠くの相手を打つのには使えないと思っていたら、近距離のやつを打つときがあって「今だ!」と。それでそのシーンを撮影する前に、身内だけでiPhoneで撮影し、監督に「僕にいいプランあるんですけどどうですか」って見せて、採用をもらったんですって。どうしてもやりたかったんですね。

丸山 でもあれ、実際すごいかっこよかったですよ。
小林 予告編が出たときに、みんなあれでハート掴まれたじゃないですか。デルトロ打ちとかいろんな名前が出て。それで、こっちも聞いたら嬉しくなっちゃって「日本のファンは不謹慎かもしれないですけど、予告編のあなたの打ち方、真似してますよ」って言ったら、電話の向こうでデル・トロが「オッケィ!」って(笑)
丸山 日本好きなんですね(笑)

小林 日本好きって言えば、僕は一作目のときもデル・トロにインタビューしてるんですけど、一作目でカルテルの家族を殺すとき、まず子どもから殺すじゃないですか。その辺をデル・トロは「日本の侍とかでもそういうのあるよね」って。相手の子どもを殺すとかって。
僕、それを聞いたときにパッと浮かんだのが、宮本武蔵の吉岡一門との決闘で。まず一番幼い子どもをパッと殺してから大勢と戦うじゃないですか。それで「デル・トロさんの話を聞いていると宮本武蔵の話を思い出します」って言ったら、デル・トロが「ムサシ?ミヤモト?誰それ」って。あ、すみませんって流しました。

で、今作のインタビューのときに「一作目ではデル・トロさんは、侍を役のイメージにされているとおっしゃってましたけど、今回も何かイメージにしているものはありますか?」って聞いたら、「俺はいつだって演じるときは、特にアレハンドロを演じるときは、ミフネトシロウが頭の中にいるぜ!」って。
最高な人ですけど、でも僕、若干腑に落ちないのがね。三船敏郎って宮本武蔵の映画出て、海外ですごい賞もらってるんですよ。もしかしたらにわかファンかもしれない……って(笑)

丸山 もしかしたら好きな作品しか見てないかも……(笑)
小林 『用心棒』くらいな(笑)
丸山 いや、まあそれくらいでもいいですけどね。でも本当にサムライ感ありましたね。
小林 ありますよね、このストイックさとか。

■随所に散りばめれらたリアリティ
丸山 一作目もそうだったんですけど、このシリーズって、主人公とかデル・トロとか演じてる主軸のパートに、サイドストーリーが絡んでくるけど、サイドストーリーの方は現実まんまだなって感じがします。主軸の方はエンターテインメントの量が多いけど。

小林 ちょっとドキュメンタリーを見ているような感じ。
丸山 そうそう。バスで運んで行くとき「羊だと思え」とか。密入国業者のことを現地の人はコヨーテとかいうんですよ。まあいろんな呼び方があるらしいんですけど。もしかしたらそういう感じなのかな?って。羊に対してコヨーテなのかなって。

小林 すごくチャイルディッシュ(幼稚な)ことを言うと、そういう言葉ってかっこいいですよね。
丸山 まあ、悪いことが魅力的に映るっていうのは、14歳の少年いたじゃないですか、あの子がまさにそうでしたよね。
小林 憧れて入って少年でも、なかなか打てないもんなんですね。いざ殺せっって言われると。

丸山 難しいと思いますよ。銃って持ったときの存在感とか、圧倒的だと思うんです。デルトロ打ちはやっぱりできる人はできるんだろうけど、普通できないと思うんですよね。銃を撃ち慣れている人はすごい筋力があるんです。それくらい筋力を使う作業なんです、銃って。銃撃戦で車を見たことがあるんですけど、貫通してましたから、ドアを。普通に。

小林 映画とかで車の後ろに身を隠してってよくありますけど、無理なんですね。
丸山 ライフル弾とか、全然貫通しますよ。

小林 日本公開していない映画なんですけど、メキシコの映画で『MISS BALA』って映画があって。麻薬カルテルで運び屋をやらされるミスコンの女性の話。ミスコンの人って税関を通るのが楽らしいんですよ。だから運び屋をやらされる羽目になってしまった。
この映画に本作は影響を受けてるなって思うんです。マフィアの娘の少女、いるじゃないですか。あの子が銃撃戦に巻き込まれるシーンとか、ちょっと『MISS BALA』っぽいなと。

僕がその映画を知ったきっかけはデヴィッド・エアー監督。『トレーニングデイ』とか、最近だと『スーサイド・スクワッド』ですとか、リアルな犯罪描写や銃撃戦描写に定評のある監督で。実際やんちゃだった頃があって、銃撃戦に巻き込まれたこともあるんですよ。「そんなあなたから見た、説得力のある銃撃戦ってなんですか?」って聞いたら、『MISS BALA』だって。「銃撃戦に巻き込まれた時を思い出す」って。
それで見たら本当に、打ってくる奴は見えないんですけど、車の中でうずくまっているとバンバンバンって弾が飛んでくるなんとも言えない圧迫感とか逃げ場のなさとかを取り入れていて。

丸山 確かに銃声がしたときに、銃声の方向なんて見ている余裕ないと思う。
小林 やっぱね、打ったり打たれたりしている丸山さんだから……(笑)

丸山 いやいやいや(笑)でも銃声って反響するから、どっから打ったのかなんてわからない。だから実際、本作の中で女の子がこわばるじゃないですか、あんな感じになると思います。みんな動けない。
本作は随所にリアリティがありますよね。そういうおもしろさがあると思います、この映画って。

■これから『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』を見る人へ
丸山 (劇中に)いくつか軸がある中で、大きくメインの話の軸と、サブの軸があって。サブの軸にはドキュメンタリーだと思うくらい現実に即した部分があります。もちろんストーリーとしておもしろくするためにやや改ざんしているところはあるのかもしれない。実際あります。でも決して作り話だと思わずに、ここに描かれている要素っていうのは必ずどこかで起きたことなんです。おもしろいなと思う反面、ああこういうこともあるんだ、恐ろしいなって思ってくれると、よりいいんじゃないかと思ったりします。
小林 本作に関してもうちょっと余韻に浸りたいなと思ったら、『ボーダーライン』とかテイラー・シェリダンの作品もそうですけど、今回の監督(ステファノ・ソッリマ)の旧作とかも見るとすごくおもしろいです。イタリアの監督なんですけど実話ベースの犯罪映画・犯罪ドラマとかを得意としている監督で、『暗黒街』って映画がイタリアで本当に起きた政界とマフィアの癒着とか描いたもので、あまりにもおもしろいからNetflixでドラマになったりとか。ちょっとこの監督にもこの後注目するのもいいと思います。

取材 澤田絵里

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
11月16日より全国ロードショー

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