河瀬直美監督、真摯に作り続ける先に光がある。『光』初日舞台挨拶
河瀬直美監督が世界に送り出す『光』の初日舞台挨拶が行われ、水崎綾女、神野三鈴、藤竜也、樹木希林が登壇した。『第70回カンヌ国際映画祭』コンペティション部門に選出されているため、河瀬直美監督と主演の永瀬正敏は中継での参加となった。(2017年5月27日 新宿バルト9)
前作『あん』に続き、河瀬監督と永瀬正敏が再タッグで挑んでいる本作は、視覚障がい者に向けた映画の音声ガイドの仕事をする美佐子(水崎綾女)と、天才写真家と呼ばれた弱視の雅哉(永瀬正敏)が1枚の写真をきっかけに、大切なモノを失う尊さと希望を描いたラブストーリー。
MC おひとりずつ、ご挨拶をお願いします。
水崎綾女 河瀬組に入って、すごく素敵なみなさんと一緒に撮ることができてとても嬉しく思っています。みなさんがどういう感想を持ったのが不安ですけど、楽しんで行ってください。
神野三鈴 『光』をやっとみなさんにお届けすることができて嬉しく思っています。みなさんが受け取ってくださった『光』が、みなさんの中で大きく育ってくれることを心から祈っております。
藤竜也 劇中の映画『その砂の行方』が、もうしばらくすると本編と併映されるようなので、そちらの方も宜しくお願いします。
MC 河瀨監督と永瀬さんがカンヌにいるため「それでは私が参りましょう」と仰ってくださった樹木希林さんが駆けつけてくれました。
樹木希林 「(河瀬監督風に)あのな〜、河瀨直美なんやけど。カンヌのコンペに選ばれたんやて。ほんでな、最後まで私と永瀬くんはカンヌにおりたいんや。東京の初日舞台挨拶に行かれへんねん。代わりに行ってくれへん?」「(樹木)なんで私が行くんですか?よっぽどもの好きなおばあさんだと思われるじゃないですか」「(河瀬監督風に)でもな、音声ガイドの声やってるやろ?」「(樹木)あれはタダじゃないですか、無料じゃないですか。その時にこれで最後と言ったでしょ。困った時の樹木希林というのはナシよ」とお断りしましたが、強引な宣伝部に言われてきました。結局。
MC 河瀬監督との一部始終を聞かせていただきました、樹木希林さんです。
樹木 2人がいない分を埋めろということでございます。河瀬さんはとっても成長した気がしましたね。(水崎さん)どうでした?消えてなくなりたいと思わなかった?
水崎 大丈夫です。必死に喰らいついて行こうと思って。
樹木 それだけの値打ちはあったわね。
MC みなさんにとっての『光』とはなんでしょうか?
水崎 「底にあるもの」この作品を通して心の底、根底にある光を見つけていただけたらと思って。
神野 「人間だけじゃなく命あるすべてのもの」そこに光があると思いました。
樹木 光とは「闇」がなければ存在しないので、闇との裏表だと思います。
藤 「世界で一番美しい言葉」今のカンヌにはこの映画が必要だとフランスの記者が言いました。
MC カンヌにいる河瀨直美監督、永瀬正敏さんにSkypeで繋げます。
藤 永瀬さん、元気?飲んでる?直美さん、明日(受賞式)ですね。永瀬さんもそうですけど、上映後に見せた時よりも、さらに大きな涙と笑顔をもう1回見られることを期待しています。
樹木 何か賞を頂戴できれば、幸せなことはないです。でも何かを作っている時って、一心で色んなものを犠牲にして作るんですけど、脚光を浴びた時に一変するんですよ。変わることによって潰れるか、花開くかもその人の器量です。河瀬さんはもともとちょっと勘違いしているところもありますから(笑)どの女優よりも素敵な洋服着ていて。そのへこたれなさがあれば、賞をもらおうがそうでなかろうが、変わらずコツコツといい映画を作ってもらえれば。私はどっちでもいいと思ってる。
樹木 そっちでどんどん喋って(笑)
河瀬直美監督 街を歩いていても、「すごくよかったです」「私のパルムよ」と言ってくれるんですね。私がこの映画を作って、暗闇の中で映画を観終わった人たちと一体になれる瞬間、それがすごく嬉しい。映画っていうのは一体感なんです。人と人が繋がっていく瞬間の出会いを作ってくれるものであって、エンターテインメントの要素もあるけど、私たちが生きる上での力になる要素もあって。カンヌで(上映後の)瞬間を迎えた時に感じたことです。
藤 映画って観た人の数だけ映画があると思うんです。あそこ(カンヌの上映会場)でひとりひとりの胸の中で作れたことを目の当たりにしました。ありがとう。
河瀬監督 樹木さんから「賞が問題じゃないんだよ」と言っていただけて、すごくグッとくるものがあります。私たち映画人はその思いを繋ぎながら、真摯に作り続けていく先に『光』があるんだなって実感できたんです。
樹木 河瀨さんは、なんでこんなにカンヌに可愛がられるの?
河瀬監督 本当に映画が好きな人がいます、カンヌの中に。その人たちが、私がまっすぐに作っていることを大事にしてくれる。自分たちが見たことのない日本の風景とか心模様を抱きしめようとしてくれる。デコボコしている作品でも、次の先も見つめたいと思ってくれている気がします。
樹木 今回の手応えはどうですか?
永瀬正敏 希林さん、直にお会いしたかったです。今日もノーギャラでありがとうございます(笑)できれば毎回共演させて頂きたいと思っています。人種は違うんだけど深く理解されていて「すべての人々に対してのラブレターだ」と言ったスペインの記者もいたんです。みなさんにも希林さんにも、直接言葉を聞いていただきたかったくらいです。
樹木 希林さんはいいの!音声ガイドをやった時も台本も読まずに出たぐらいで。本当にごめんなさいね。
永瀬 希林さんの声に雅哉は救われて、『光』に連れて行ってもらったので。
樹木 上手に言いますねー。この手で再婚を是非よろしくお願いします!(会場笑)
MC 最後に河瀬監督と永瀬さん、ひと言ずつお願いします。
河瀬監督 映画ってなんだろう、光ってなんだろうって思います。カンヌの一番メインの会場が、ルミエール「光」という名前で、この映画祭が人類を救うのかなって。大きなことを言っているようだけど、身近なところで映画を愛して、観た人たちの心に豊かなものが刻まれているかもしれないと思うと、とても素晴らしいことです。カンヌはいつも進化していて、その映画祭のコンペティションに選ばれて、映画をまた好きになりました。私たちは完璧じゃないから何かを失っていく生き物でもあるけど、その寂しさのなかに埋没して日々を過ごすのではなく、雅哉のようにかすかな光を見つけるような人生でいたいと思っています。
永瀬 監督は苦労を人に見せずに作られ、しかも僕をカンヌに連れてきていただけたので本当に感謝しています。「役者ってなんだ。人ってなんだ」を学ばせていただいた現場でした。みなさんに『光』が届きますように!
舞台挨拶後に囲み取材が行われ、水崎綾女、神野三鈴、樹木希林、藤竜也が応じた。
カンヌに行った感想について、現地で河瀬監督と間違えられた神野は「直美!」と声を掛けられ、カンヌ4度目の藤は「エンドロールから拍手が波のようにはじまった」ことに感動を覚えたという。ヒロインを演じた水崎は「私なんかが行っていいのかな」という不安を抱えていたが、藤から「何もなくていい、からっぽでいい。相手が注いでくれるから」との言葉に救われたことを明かした。また、河瀬から電話で音声ガイドの依頼があった樹木は「困ったときの樹木希林なんです。タダだからね」と笑顔でこぼした。
取材・スチール撮影 南野こずえ
『光』
配給:キノフィルムズ/木下グループ
©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS 、KUMIE
5⽉27⽇(⼟)より新宿バルト9、丸の内TOEIほか全国公開中