今夜を特別にしてしまえ!『14の夜』先行上映会舞台挨拶


_1120880少年が大人になる時、誰もが特別な瞬間を体験する。
“特別”といっても、非凡な経験という意味ではない。別に、友人と連れ立って死体を探しに行く必要はないし、旅発ちの前夜に愛する人を探して夜通しホット・ロッド車を走らせなくても良い。
いつもと同じだと思っていた或る日常が、決して掛け替えの出来ない特別な一瞬であったと、後から述懐して漸く気付く……そういうものだ。

思えば、少年時代は全能感が溢れていた。
2灯ライトでセミドロップ・ハンドルのスポーツサイクルに跨れば何処へでも行けると思っていたし、VHSテープを巻きあげるデッキの起動音は素晴らしい時間が始まるファンファーレだった。映画スターに憧れただけで人としてワンランク上がった気になれたし、部活を始めたならば頂点までの道程を歩むものと信じていた。
大人になるにつれ覚えてしまう無力感に支配されるまでの束の間の季節を、ひとは青春と呼ぶのだろう。

だが、覚えてしまった無力感を、全能感が凌駕する一瞬が、あるのだ。
その幻にも等しい刹那を、ひとは呼びたくなるのだ……“特別な瞬間”と。

そんな甘くて痛い青春の一コマ、“若さ=バカさ”が光り輝くほんの一時を、見事に描ききった映画が12月24日(土)から公開される。
第39回日本アカデミー賞で最優秀脚本賞を受賞した『百円の恋』(監督:武正晴/2014年/113分/R15+)で、負け犬の青春を活き活きと書きあげた脚本家・足立紳の初監督作品『14の夜(じゅうしのよる)』である。

_1120869「実は僕の中学時代の実体験が6割くらいの話なんです。僕が中学2年の時、初めて住んでた鳥取の田舎町にレンタルビデオ屋が出来まして、中3の頃オープン1周年記念で……当時“AV”って言葉は無かったと思うんですけど、今で言うAV女優の方が来て、サイン会をするという噂がありまして(笑)。いつかこの話を脚色して、映画かドラマにしたいとずっと思っていたんですが……ようやく叶いました(笑)」

2016年12月6日シネマスコーレ(名古屋市 中村区)で行われた先行試写会に登壇した足立紳監督は、『14の夜』がどんな映画かと問われると、そう答えた。

MC. この作品を作ることになった切っ掛けを教えていただけますか?
直井卓俊プロデューサー これが初監督作品ですよね?
足立紳監督 はい、そうです。元々僕は監督志望で、この映画の元ネタ自体は『百円の恋』と同じように、8年くらい前にはもう書いてあったんです。『百円の恋』がちょっと評判になったんで、自主映画でやってみるかと思って去年準備してたんですが……『百円の恋』の佐藤(現)プロデューサーが声を掛けてくれて、台本を読んでもらったところ「一緒にやろうよ」という事になり、こういう形で世に出ることになりました。
直井 『百円の恋』より前に、脚本の原型はあったんですか?
足立監督 ありましたね。それが、まさかこういう形で……本当にラッキーでした(笑)。
MC. じゃあ、劇場公開に繋がったのは、『百円の恋』のおかげもあるんですね?
足立監督 そうなんです。
直井 『お盆の弟』(監督:大崎章/脚本:足立紳/2015年/107分)も、ありましたよね?
足立監督 『百円』のおかげで、色々眠ってた奴が形になったんですよね……『百円』様さまです(笑)。ただ、『百円』のプロデューサーからも「『百円』が無ければ、『14の夜』は企画として絶対成立しなかったと思いますよ」って言われましたけど(場内爆笑)。
直井 日本アカデミー賞で最優秀脚本賞を獲った後ですからね(笑)。
MC. 監督としては、渾身の作品なんですよね?
足立監督 もう、『百円の恋』以上に渾身です(一同笑)。
直井 今回が初監督ですが、学生時代に撮ったことはあるんですよね?
足立監督 日本映画学校の卒業制作以来……22年ぶりの監督作品です(笑)。「監督としての能力はゼロ」って太鼓判を捺されて卒業したんですけどね(一同笑)。

『14の夜』ストーリー:
14noyoru_main-2大山タカシ(犬飼直紀)にとって、中学最後の夏が来た。とは言え、柔道部の同級生たち(青木柚、中島来星、河口瑛将)と連れ立って町で一軒のレンタルビデオ屋・ワールドへ行き、帰りにガラの悪い先輩・金田(健太郎)に因縁を付けられ……といった、冴えない毎日を送っている。最近めっきり大人っぽくなった幼馴染・メグミ(浅川梨奈)が眩しくて仕方がない。
休職中の為ずっと家にいる父・忠雄(光石研)のことが、タカシは大嫌いだ。今日も姉・春子(門脇麦)が婚約者・前田(和田正人)を連れて帰ってきているというのに、父の情けない行動に母・佳子(濱田マリ)も祖母・ウメ(稲川実代子)も苛立っている。だが、タカシにはもう一つ落ち着かない理由があった。その日は【ワールド】にAV女優・よくしまる今日子(沖田杏梨)がサイン会にやってくるという、特別な夜なのだ――。

MC. キャスティングに関して聞かせていただけますか?
足立監督 主演の男の子たち4人、本当に無名の子なんで……普通に考えたら、興行的に厳しいかと(場内爆笑)……
直井 いやいやいやいや(笑)!オーディションから勝ち抜いた、本当に素晴らしい子たちなんです。
足立監督 主役の犬飼直紀くんは、ほぼ演技経験ゼロなんです。それを頭に入れて観ていただきたいんですけど……余りにも良いので、観た方は皆忘れちゃうんですよね、経験ないってことを。で、「良い子役見つけてきたじゃん」みたいなことを言われるんですけど……見つけたんじゃなくて、僕が鍛えたとは言わないですけど、一緒に頑張ったんですよ(笑)。
直井 結構リハーサルを重ねましたよね。
_p0a1414足立監督 そうですね、ひと月くらいですか。4人は本当に出し切ってくれたので、心の底から売れてほしいなと思います。あと、浅川梨奈さんという17歳の女の子が、本当に素晴らしい芝居をしてくれました。それから、ヤンキーグループのリーダー格の健太郎くんも素晴らしかったです。僕にとっては、若い子との出会いが沢山あった映画でした。
直井 それと、光石研さんですよね。
足立監督 そうですね。思う存分笑ってもらえると思います(笑)。
MC. 脇の脇まで、いい役者陣が入ってますよね。
直井 日本映画界の名バイプレイヤー達が揃ってますからね。
MC. 音楽も良いです。
直井 音楽は、『百円の恋』と同じく海田(庄吾)さんですよね。
足立監督 素晴らしい音楽を付けていただきました。
直井 主題歌(キュウソネコカミ『わかってんだよ』)も素晴らしいんで、是非エンドロールも最後までご覧ください。

MC. これから作品を観るお客様に、何か一言お願いします。
_1120876足立監督 8割笑って、2割切なくなるような物になってれば良いなと思ってます。楽しんでいただけたら、本当に幸いです。
直井 男性と女性では、観方が……見守り方が違うでしょうね(一同笑)。
MC. 1987年を舞台にしたことって、大きなポイントですよね。
足立監督 例えば現在にすると、もう今の子ってエッチな女優さんのサイン会に行かないと思うんですよね。
直井 インターネットなんかがありますからね。
足立監督 今日のお客様は、若い人はいらっしゃらないようなので(場内笑)……
MC. 監督!今日名古屋で初めて観るお客様ですよ(笑)!
直井 今日のお客様の口コミが、今後に関わってくるんですよ(笑)。
足立監督 どうか皆さん、今日からTwitterとか始めていただいて(場内爆笑)……
直井 ちなみに真夏の話ですけど、Xm­asイブ公開ですね……セイなる夜から(笑)­。
足立監督 本当に大至急(笑)、「クリ­スマスにぴったりのお話だ!」って周りの方に­薦めてください!

14%e3%81%ae%e5%a4%9csub6青春映画であるが、オトナたちの演技が、何しろ素晴らしい。濱田マリ、稲川実代子が少年を優しく見守り、門脇麦、和田正人、内田慈らが少々乱暴に迷う背中を押す。また、要所に配役された宇野祥平、後藤ユウミ、駒木根隆介の存在感がピリリと利いている。
そして何より、光石研のダメ父っぷりが、凄まじい。これぞ正しく、タカシにとって“越えねばならぬ壁”である……逆説的な意味で。

そんなオトナたちの好演に引っ張られてか、少年たちも熱演を以て応える。オーディションで選ばれた新人たちは、青木柚がナイーブな弟分を、中島来星が背伸びしたイケメン未満を、河口瑛将がへたれなリーダー格を、確りと演じてみせる。健太郎は先輩風を吹かせる小悪党を茶目っ気たっぷりに演じ切り、【SUPER☆GiRLS】の浅川梨奈は可愛いだけじゃない“じゃじゃ馬ヒロイン”をキュートに表現する。
そしてそして……タカシ役の犬飼直紀が、堂々の主人公っぷりを見せる。また一人、凄い新人に出会ってしまった……光石研と一対一でがっぷり渡り合う、凄まじい才能に。

出口の見えない熱帯夜、さあ少年たちよ、ぶっ放つのだ。
汗を!血を!リビドーを!夢を!

特別な瞬間とは、後から考えれば何の変哲もない時間である。
しかし、何時までも忘れ得ぬ下らない一瞬を思い返す度、それが如何に大切な一時だったのかを思い知るのだ。
筆者も、生まれて初めて徹夜を経験した夏の早朝4時FMラジオから流れてきた『東京Sugar Town』を、今でも明瞭に脳内再生できる。
あれは思えば、14の夜ではなかったか――。

取材・文:高橋アツシ

『14の夜』(2016年/114分/PG-12)
監督・脚本:足立紳(『百円の恋』)
出演:犬飼直紀 濱田マリ 門脇 麦 和田正人 浅川梨奈(SUPER☆GiRLS) 健太郎 青木柚 中島来星 河口瑛将 稲川実代子 後藤ユウミ 駒木根隆介 内田慈 坂田聡 宇野祥平 ガダルカナル・タカ / 光石研
12月24日(土)よりテアトル新宿、シネマスコーレほか全国順次公開
公式HP http://14-noyoru.com
©2016「14の夜」製作委員会

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