8本の手が、今日も世界を魅了する-『影たちの祭り』鑑賞記-
8本の手が、今日も世界を魅了する
--『影たちの祭り』鑑賞記--
ドキュメンタリー映画を観ると決める時、記者は先ず作品のモチーフで判断する。どんな事実・事象がスクリーンに映し出されるのか、それが最初の判断材料になる。
ただ、その事柄について肯定的に捉えるのか否定的に成るのかは、作品を観るまでわからない。
機械的に記録された映像素材は編集により大いなる“意志”を持ち、そこに監督の“作家性”が如実に発揮される。そして、そんな監督の意志が如何に届くかの決め手は、結局のところ登場人物次第である点が、何より面白いと思う。カメラが追う人物の心情を通して、観客は映画館の暗闇の中で一喜一憂する。敬遠される向きも多いドキュメンタリー映画だが、特別な鑑賞法がある訳ではない。記者は、一般に好んで観られるドラマ映画と同じように劇場のシートに身を沈める。
『影たちの祭り』は、記者が観た一番新しいドキュメンタリー映画である。
日本初の影絵専門劇団『かかし座』に、“手影絵(てかげえ)”に特化した公演がある。『影たちの祭り』は、そんな手影絵パフォーマンス『Hand Shadows ANIMARE(ハンド・シャドウズ・アニマーレ)』の“かかし座60周年記念公演”を追った作品である。
「観ての通り、東京・大阪・名古屋の三大都市で『ハンド・シャドウズ・アニマーレ』をやったんですけれども、その時はただ記録映像として(カメラを)回してるだけの感じだったので、まさか一年後にその東京・大阪・名古屋の三都市で映画として上映出来るとは思っていませんでした」
名古屋シネマテーク公開初日、舞台挨拶に立った監督の大嶋拓さんは、弾んだ声で話し始めた。
「去年の6月、友人に『ハンド・シャドウズ・アニマーレ』のチラシを見せてもらったのが切っ掛けで、これを追い掛けたら相当面白いんじゃないかと思いまして。
『撮らせてください』とお願いしたら意外にアッサリ『どうぞ』と言ってもらえまして…すぐにステージ裏へ回って、裏から撮ったんですよ。初めて観る『Hand Shadows ANIMARE』は、表からでなく裏からだったと言う…」
まさに“裏話”を聞かせてくれた大嶋監督は、『Hand Shadows ANIMARE』について語ってくれた。
「“手影絵”を一時間以上のステージにしてしまうと言うのは例が無いので、世界的にも国内でも引っ張り凧になってるんですよ」すっかり“手影絵”に魅せられた監督の“意志”はスクリーンに如実に顕れ、映画にとしてリスキーな作品になっている…と、筆者は要らぬ心配をしてしまう。
この映画を観た客の何割かは、映画館を離れ『かかし座』の追っ掛けになってしまうのではないか、と。それほどまでに、作品に登場する『Hand Shadows ANIMARE』は素晴らしい。
そしてそして…『影たちの祭り』は、映画に、演劇に、内包する本質の一つに到達してしまうのだ。
「映画って凄く“過去回想”的なメディアだと思うんですけど、お芝居は常に何処かで演っている…感傷に浸っている暇はないんですよね」
素晴らしい“回想”を観返すため、『影たちの祭り』をリピート鑑賞するのか…
過去に飽き足らず、『Hand Shadows ANIMARE』の公演を追い掛けるようになるか…
観客に次のアクションを強いる、罪な作品と出会ってしまった。
2013.8.24@名古屋シネマテーク 取材:高橋アツシ
『影たちの祭り』公式HP http://www.kagetachi.com/
劇団かかし座 公式HP http://www.kakashiza.co.jp/