井上肇、役者生命をかけベトナム語に挑戦『その花は夜に咲く』ワールドプレミア記念舞台挨拶
『その花は夜に咲く』のワールドプレミア記念舞台挨拶が行われ、アッシュ・メイフェア監督、井上肇が登壇した。(2025年3月22日 シネマート新宿)
1998年のサイゴンを舞台にタブーとも言えるテーマに挑んだのは、ベトナムの新鋭アッシュ・メイフェア監督。望まぬ性に生まれたサンと、ボクサーであるナムとの愛の軌跡を、監督自身の中学時代の経験や記憶、トランスジェンダーの友人をモデルに、鮮烈なラブストーリーに創り上げた。
1年10ヶ月振りの再会となる2人は開始早々に壇上でハグ。井上が着用している服は実は劇中の衣装であり、撮影後にアッシュ・メイフェア監督からプレゼントされたことが明かされた。
俳優歴43年となる井上は、「役者生命をかけるつもりでやりました」と語り、愛し合う若いふたりを夜の闇へと飲み込んでゆく、サイゴンの街を取り仕切るミスター・ヴーン役を圧倒的な存在感で演じきった。本作の公開前には「ベトナム語を駆使し完璧な気持ち悪さで演じている」と『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督もコメントを寄せている。
客席からの質疑が行われ、ベトナムのトランスジェンダーの状況について質問が挙がると、アッシュ監督は「本作はベトナムでは公開が未定。ベトナムの若いトランスジェンダーの方々へのメッセージとなれば。自分たちに価値があると感じていただきたい」と語った。
また、井上はどのように役作りをしたのか?との質問では「脚本をもらってベトナム人ではないことはわかった。アッシュ監督のイメージするブーンという人物が脚本を通して伝わってきたので集中して役に入れた。でも普段の僕はあの役のような感じではないので(笑)」と笑顔で補足。
数々の映画やドラマに出演する名バイプレイヤーであり、「第48回日本アカデミー賞」にて最優秀作品賞を受賞した『侍タイムスリッパー』では、生粋の江戸っ子でありながらも違和感のない関西弁を披露した井上。本作では撮影のために単身ベトナムへ渡り、初挑戦となるベトナム語で全編を見事にこなした。セリフのニュアンスについてアッシュ監督からの録音音声を聞いて覚えたそうで、「イノウエサン、スバラシイ!」とほめてもらっていたが、撮影に入ると「もっと速く!もっと流暢に!」との指示があり、苦労したと振り返った。
最後の挨拶で井上は「エネルギッシュで切ないのが僕の感想。なにか忘れかけている物をこの映画でもう一度感じてもらいたい。映画というものはクチコミが大事でございます。多くの方に宣伝していただいて、ひとりでも多くの方に観ていただきたい」と呼びかけた。
【ストーリー】
1998年のサイゴン。都会の片隅に貧しくもつつましく、愛し合いながら生きる恋人たち。望まぬ性に生まれたサンはナイトクラブで歌い、ナムはボクサーとして懸命に暮らしていた。ある日、街のフィクサー・ヴーンがナイトクラブに現れ、ステージで妖しくも華麗に歌うサンに目が釘付けになる。手術費用のため、ヴーンと逢瀬を重ねるサン。彼女を愛し、その思いを知るナムは、より稼ぎの良い闇の地下格闘技に手を染めてゆく…。容赦のない夜の世界に飲まれてゆく二人。
取材・撮影 南野こずえ
『その花は夜に咲く』
配給:ビターズ・エンド
ⓒAn Nam Productions, Đông A Films, Akanga Film Asia, Bitters End, Mayfair Pictures