見よ、欲望に囚われし女たちを『五日物語-3つの王国と3人の女-』レビュー
「白雪姫」「シンデレラ」など、誰もが知る物語には原形と考えられる作品がある。17世紀初頭、ナポリ王国のジャンバティスタ・バジーレによって執筆された民話集「五日物語」だ。
ナポリ方言で書かれていたため、長い間原典を読むことが困難であったが、20世紀初頭に現代イタリア語に翻訳されて以後内容が知られるようになった。収録された多数の作品から、関連したテーマのもと、3作品が400年の時を経て鮮やかにスクリーンに蘇った。作品のテーマは、今昔変わらぬ「女の性(さが)」!さあ、美しくもおぞましいおとぎ話の世界へようこそーー。
三つの王国が栄える世界。
ロングトレリス国の女王(サルマ・ハエック)は子宝を熱望していた。怪物の心臓を食せば子を授かると聞き、王(ジョン・C・ライリー)は命と引き換えに心臓を手に入れる。男の子を産み幸せに震える女王だが、王子が成長し親離れする時期を迎えると強い苛立ちを感じるーー。
ストロングクリフ国にひっそり暮らす年老いた姉妹。姉の美しい歌声を若い美女のものと思い込んだ王(ヴァンサン・カッセル)は、彼女に求愛する。チャンスを逃すまいと画策する姉は、偶然出会った魔法使いの力で美しく若返る。姉は王妃の座を掴むが、取り残された妹も若さと美を熱望するーー。
ハイヒルズ国の王女は外の世界に憧れ、理想的な男性が連れ出してくれることを夢見ていた。しかし、父親の王(トビー・ジョーンズ)が決めた娘婿は、なんと凶暴で醜い鬼だった。鬼と暮らしながら、王女は密かに脱出の機会を伺うがーー。
子を産み、子を支配したい母親、若さと美を求める老婆、狭い世界から連れ出してくれる男を待望する娘…。どのエピソードも女の欲望をあからさまに底意地悪く描いており、それは建前一切なしの、剥き出しのグロテスクな欲望だ。あまりにも欲望に執着し、依存するために、女たちには次々と皮肉な結末がもたらされる。
しかし、それをうかつにあざ笑うことはできない。なぜなら、その欲望は、特に女性ならば多少なりとも思い当たるものだから。呆れながら、ふと、自分の身を省みてドキッとさせられるのだ。登場する男たちが、どこか直情的に描かれているのも、女性がもつ複雑怪奇さやグロテスクさをより際立たせている。全編通じて匂い立つようなエロスが漂う、ぞくぞくするような大人のおとぎ話なのだ。
監督は『ゴモラ』、『リアリティー』で2度カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリに輝いた、マッテオ・ガローネ。元々画家だった彼が生み出した幻想的な映像は、イタリアを縦断しての撮影の賜物だ。世界遺産のデル・モンテ城、アブルッツォ州のロッカスカレーニャ城、シチリアにあるドンナフガータ城などの名城に加え、中部イタリアのサッセートの森やソヴァーナの洞窟、シチリアのアルカンタラ渓谷など、イタリアの自然美が残る地も数々登場する。
キャストには、サルマ・ハエック、ジョン・C・ライリー、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズなどの豪華俳優たちが作品を彩る。
女の欲望は400年前も現代も変わらぬものーー愚かさや滑稽さ、執着を捨てきれぬが、それこそが生の人間の姿なのだ。どこか共感めいた想いを抱きつつ、おとぎ話の世界へといつしか迷いこんでいく。
文:小林サク
『五日物語-3つの王国と3人の女-』【PG12】
監督・製作・脚本:マッテオ・ガローネ
キャスト:サルマ・ハエック、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズ、ジョン・C・ライリー他
配給:東北新社 STAR CHANNNEL MOVIES
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2016年11月25日(土)~全国順次ロードショー