一粒の愛、山をも動かす『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』レビュー
第二次世界大戦中のアメリカ、カリフォルニアの小さな街。
8歳の少年ペッパー・フリント・バズビー(ジェイコブ・サルヴァーティ)は、身長がとても低いことから、いじめっ子たちに“リトル・ボーイ”とバカにされていた。
しかしペッパーには誰よりも自分を理解してくれる最高の相棒、父親のジェイムズ(マイケル・ラパポート)がいた。
二人で空想の中で冒険遊びをし、父の大好きな奇術師ベン・イーグル(ベン・チャップリン)のマジックを一緒に見ることが楽しみだった。
ペッパーの兄、ロンドン(デヴィッド・ヘンリー)は入隊検査を受けるものの、偏平足を理由に不合格になり、その代わりにジェイムズが徴兵されてしまう。
父の帰りを待つペッパーに非情な連絡が届くーー、フィリピンで日本軍に襲撃され、父は捕虜になったという。
失意の中、ベン・イーグルのマジック・ショーを見に行ったペッパー。舞台に上げられ、手を触れずビンを動かすことに成功する。もし自分にもベンのような力があるのなら、父を奪還できるかもしれない!その日以来、ペッパーは父に向かって念を送り始める。
ある日ペッパーは、日系人のハシモト(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)と出会う。アメリカに忠誠を誓った日系人は収容所から釈放されたが、周囲から激しい差別を受けていた。
日本への怒りにまかせ、ハシモトの家にいやがらせをしたペッパーは教会でオリバー司祭(トム・ウィルキンソン)に呼び出される。
司祭はキリスト教に伝わる善き行いのリストを渡し、最後に「ハシモトに親切にすること」と書き加え、リストを達成すると願いが叶うかもしれないと言った。
大好きな父親のため、しぶしぶハシモトに親切にしようとするペッパー。願いは叶い、父を取り戻せるのかーー?
どこかファンタジックな少年時代の記憶、家族愛、日系人の苦難、戦争で傷ついたアメリカと日本…多様なモチーフが見事に調和し、美しい物語が描かれる。
迷惑がるハシモトの自宅に押し掛け「親切に」しようと奮闘するペッパー。
初老の日系人とアメリカ人の少年は何度も言い争いながら、リストの項目を一緒に達成し、次第に年齢や国を越えた友情が芽生え始める。
長年アメリカに住むハシモトだが、心には日本の精神が息づいている。ハシモトが話してくれた、小兵ながら勇ましい侍「マサオ・クメ」の物語はペッパーを勇気づけ、いじめっ子に立ち向かうパワーをくれた。
直接触れ合えば、お互いもその文化も理解できるのに、戦争は敵と味方の二つしか作り出さない。
原子爆弾が広島に投下された日、戦勝を確信し沸き立つアメリカの人々。ペッパーもこれで父が帰ってくると喜びに満ち溢れていた。
しかし、そのきのこ雲の下にはアメリカの人々と同じく、日々を懸命に生きる日本人の暮らしがあった。
戦争に翻弄される日米どちらの国にも暮らす人々がおり、それぞれの人生があり、愛がある。
被害者と加害者という二極では決して割り切れないのだ。また、ハシモトのように、二国の狭間にいた日系人たちの苦難の歴史にも思いを馳せずにいられない。
メキシコ出身のアレハンドロ・モンテヴェルデ監督は、広島に投下された原子爆弾が“LITTLE BOY”と呼ばれていたことを知り、本作の脚本を書き始めた。
主人公ペッパーを演じたのは、演技がほぼ未経験のジェイコブ・サルヴァーティ。
小さな体で大きな愛をもち、父のために諦めず努力する姿に胸を打たれる。ペッパーと心を通わせる日系人・ハシモトに『47RONIN』などのケイリー=ヒロユキ・タガワ。
ペッパーの母親には『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』のエミリー・ワトソン、ペッパーに道を示す司祭役に名優トム・ウィルキンソンが名を連ねる。
少年の目を通し戦争をありのままに見つめた本作は、どの国も、誰をも責めず、賛美もしない。
ただ戦争とは、平和とは何なのかを我々に問うて来るのだ。そして、厳しい問いのヒントをくれるのは、少年のひたむきな愛に他ならない。
文:小林サク
『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』(原題:LITTLE BOY)
8月27日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
9月10日(土)より名演小劇場にて公開
(C)2014 Little Boy Production,LLC.All Rights Reserved.
監督:アレハンドロ・モンテヴェルデ
脚本:アレハンドロ・モンテヴェルデ、ペペ・ポーティーロ
出演:ジェイコブ・サルヴァーティ エミリー・ワトソン ケイリー=ヒロユキ・タガワ マイケル・ラパポート デヴィッド・ヘンリー エデゥアルド・ヴェラステーギ ベン・チャップリン/トム・ウィルキンソン