それでもなお、人生は美しい『カプチーノはお熱いうちに』レビュー
南イタリアの美しい街、レッチェ。
エレナ(カシア・スムトゥニアク)は、カフェで働きながら、自分の店を開くことを夢見る25歳。
ゲイの青年ファビオ(フィリッポ・シッキターノ)と、奔放なシルヴィア(カロリーナ・クレシェンティーニ)とは同僚であり大の親友だ。
恋人ジョルジョ(フランチェスコ・シャンナ)との関係も良好、充実した日々を送るエレナは、ある雨の日アントニオ(フランチェスコ・アルカ)という粗野な青年と出会う。
正反対の性格の二人はお互い最悪の印象を抱くのだが、後日エレナがシルヴィアに恋人を紹介されると、なんとそれはアントニオだった。
犬猿の仲だったエレナとアントニオだが、いつしかお互い強く惹かれ合うようになり、周囲を巻き込んだ熱烈な恋に落ちてしまう。
ーそれから13年。
アントニオと結婚したエレナは二児の母になり、ファビオと経営する店も13年目を迎え多忙な毎日を送っている。アントニオとの間にはかつての情熱はなく、二人の仲は冷えきっていた。そんな時、叔母に付き合って受けた検診でエレナに乳ガンが見つかってしまう。
タイトルに誘われ、陽気で明るいイタリア映画を期待すると、見事に予想を裏切られる。
物語は二部に分かれており、前半はエレナとアントニオの出会いと恋、後半は13年後の二人を描く。
周囲を巻き込む熱烈な恋で結ばれた男女、しかしそこで人生は終わりではない。日常生活を続けるうち、妻エレナは仕事に埋没し、すっかり中年体型になった夫アントニオは浮気をしているようで、二人とも昔の情熱はどこへやら。
若い二人の恋のきらめきが眩しいほど13年後の結婚生活はあまりにも、現実だ。
そんな時に突きつけられたエレナの乳ガン宣告。
エレナは事態を受け止め、前向きに治療に取り組むが、アントニオはエレナにどう接していいか分からない。お互い必要としているくせ素直になれないのだが、これが二人が本当の意味で夫婦になるための試練なのだ。
病でやつれ、かつての美しさが失われていくエレナと、頭髪は禿げ上がり、でっぷりした中年になったアントニオ、外見的な魅力に捕らわれず、二人は初めて本当に心を通い合わせる。
動物的、肉体的な愛が消え去った後、精神的な愛情によってより深く繋がれる、男女の愛が夫婦愛へ変化する過程を過酷だが真摯に描いている。
また、エレナを見守る周囲の人間模様が本作の大きな魅力だ。
女手一つでエレナをせ母と自由奔放に生きる叔母、親友でビジネスパートナーのファビオ。
カフェのバイト時代のお客、医学生のディアーナ(ジュリア・ミケリーニ)は後にエレナの主治医となり、同室の患者エグレ(パオラ・ミナッチョーニ)は底抜けの明るさでエレナを励ます。
様々な形で自分と関わり、愛してくれる人々周囲の存在がどんなに力を与えてくれるか、エレナは身をもって体感するのだ。
過酷な物語ではあるが、どのような場面でもはっとするようなユーモアに出くわすー、例えばエレナが夫の浮気相手と対峙する場面や、同室の患者エグレがエレナとアントニオの愛の行為を目撃してしまった場面などー。
人生の辛く苦しい局面にあっても、小さな幸福の要素を見つけ出すことができる、そんな人間の逞しさがここにはある。
イタリアのアカデミー賞、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で11部門にノミネートされた本作の監督は『あしたのパスタはアルデンテ』のフェルザン・オズペテク監督。
13年の時の流れを体現するため、物語の前半と後半を挟み、エレナ役のカシア・スムトゥニアクは8キロ減量、一方アントニオ役のフランチェスコ・アルカは13キロ増量して役作りに臨んだという。
注目して欲しいのは、エレナとアントニオの過去と現在の場面が切り替わるシーン。
切なさのような不思議な感覚を覚える演出が印象的で、忘れられない余韻を残す。
「陽気で明るいイタリア映画」ではないが、生きる歓びと愛する歓びを力一杯に訴えかけてくる、その点で本作も、まごうことなきイタリア映画の真髄を見せつけてくれる。
文 小林サク
『カプチーノはお熱いうちに』
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