『緒方貴臣は、不思議な映画監督である。』


ogata001緒方貴臣は、不思議な映画監督である。

『終わらない青』(2009年)は、家族からの虐待と自傷(リストカット)。『体温』(2011年)は、コミュニケーション不全と人形偏愛症(ピグマリオン・コンプレックス)。『子宮に沈める』(2012年)は、シングルマザーの社会的孤立と育児放棄(ネグレクト)。表現者が忌避しそうなテーマを見付けることこそが、緒方監督が映画を撮るモチベーションなのではないか……そう邪推してしまいそうになる。
2014年3月22日名古屋のミニシアター・シネマスコーレ、『子宮に沈める』の公開初日は補助席を出すほどの盛況ぶりであった。今回、舞台挨拶で来名中の緒方貴臣監督とのコンタクトに成功。インタビューを敢行させて頂いたので、可能な限り再現したいと思う。

公平と言う名の 皮肉
--『終わらない青』について--

『終わらない青』(2009年 監督・脚本・撮影:緒方貴臣 66分)owaranaiao
Story:
欝気味な母、厳格なサラリーマンの父を持ち、来年に受験を控える高校生の楓(水井真希)。幼い頃から両親の求める「いい子」を演じていた。
父からの虐待。何も言わない母。虐待の傷跡を隠すためにメイクをして、学校では、優等生を演じている。日常的に行われる自傷行為は、楓にとって心のバランスを保つためのものだった。貧血で学校を遅刻しがちになる楓。数週間、生理が来ていない。しかし、家族や友人にも相談できないまま時間が経過する。

--お時間を頂き、ありがとうございます。どうぞ宜しくお願い致します

「こちらこそ、宜しくお願いします」

--まずは『終わらない青』についてお聞きします。この作品は、長短編含めての初監督作品なんですか?

「はい、そうです」

--ビデオカメラの取説を読みながら撮影に臨んだ…と何かで小耳に挟んだんですが、本当なんですか?

「本当の話です(笑)」

--『終わらない青』が生まれた経緯を教えてください

「映画学校を辞めて…辞めたきっかけが、学校で勉強するよりは自分で撮った方が早いんじゃないかって思ったことなんです。学校に払うなら、その学費で映画を作ろうと思って…機材調達したら、結局ほとんどお金無くて…でも、撮らなきゃ始まらないと思ってて…。とにかく最初は“自分が観たい映画”“自分が納得する映画”を撮りたいなと思って…「こういう風にしたら人が喜ぶ」とか、「評価されやすい」とか「売りやすい」とか、本当に全く考えずに撮りました。題材の性的虐待とリストカットですが、自分の無関心だったり、無知による偏見があって…でもそれって、僕だけじゃなくて一般的な見方と言うか。虐待に関しては、実の父親からの虐待が多くて…性的虐待もそうなんですけど…僕は、義理の父が多いと勝手に思ってたんですよね。テレビドラマなんかでも、義理の父親が新しく来て悪戯をしたなんて描かれ方をしてるんですけど、実際は実の父親が圧倒的に多くて。リストカットに関しても、死ぬためだったり、パフォーマンスとしての行為だと結構みんな思ってて…僕もそう思ってたんですよ。僕はリストカットってものは「死にたい」って言ってるけど死ぬ気なくて…「私こんなに死にたいくらい苦しんでるのよ」とアピールするためのものと思ってたんですよ。でも、そうではなくて、彼女たちは生きるためにやってて…見えない所でやってる人も結構多くて」

--あ、なるほど…他の誰かに知らせるためにやってる訳じゃなく…

「そうじゃなかったんですよ。本当に自分の心の痛みを肉体の痛みで紛らわせたり、自分の存在を確認するために切ってたりとか…様々理由はあるんですけど。アピールでやってる人も居るかも知れないけど、何れにせよそれは何か抱えてるからやってるので…そんな背景を見ずに上辺だけ見て批判してたり、嫌悪するって事に対して、自分を含めて怒りのようなものを感じました。そんな怒りの“塊り”があって、それを作品にぶつけた感じですね。技術とかも全然ないし、どう表現すれば良いのかも分からない…ただ、自分が今までたくさん観てきた映画から自然に学んでいたのかもしれません」

--主演の水井真希さんの存在が凄く大きかったです。ヒロインが水井さんに決まった経緯は?

「オーディションをやりまして。最初は色んな人のプロフィールが集まる中、見た目のイメージに合う人と一人ずつ面談したんです。水井さんは、抜群に僕のイメージ通りだったんですね。それでもう決定ではあったんですけど、彼女自身がリストカットをしてたっていうのをその時聞いて、決めたところはあります。「僕のイメージは間違いなかった」と、そこで確信になったんです。最初に会った時に強烈なインパクトがあったと言うか…僕が見る側だったんですけど、逆に僕が面談されるみたいな形になったんですよ(笑)」

--言い方は悪いですが、“値踏み”をされたと言うか?(笑)

「そうです、はい(笑)それまでにも多くの役者さんに会ってはいたんですが、そういう人はいなかったので、そこで非常に印象に残ったというか…。でも、何で決めたかって言えば、一番は幸の薄い顔ですよね。顔がもう僕のイメージ通りだったので」

--「ここを是非観て欲しい!」と言うシーンを、未鑑賞のお客様に向けてどうぞ

「ラストシーンですかね…。ラストシーンと、間にちょこちょこ入る青い空かな」

--タイトル『終わらない青』に込めた思いを聞かせてください

「空は誰にでも共通じゃないですか、みんな同じ空の下に生きてる訳で。でも自分が悲しいからと言って悲しい天気になる訳でもなく…そんな皮肉を込めたんです。主人公にとって、空が晴れていることは残酷なことなんです。自分の心と同じような天気になってくれればいいのに…けれどそんなことはあり得ない。『終わらない青』は、そんなタイトルです」

--青い空と対比するように、赤い雨傘が出てきますね

「僕、小学生の時いじめられてたんですよ。親にも先生にも友達にも相談できなくて…自傷に走ることも出来ずに…身体に何かできものが出来て、入院したりとか。どこにも捌け口が無ければ、身体に出てくる…人間の身体ってよく出来てるから、そういう風になっちゃうんですよね。その当時、僕自身が傘差してたんです…今考えると、何かのサインだったように思います。それを、そのまま入れたって感じですかね」

主人公・楓が、他者を“盾”で衛る場面がある。ほんの短いシーンだが、是非観逃さないでいただきたいと思う。そして、観終わった後、ファーストシーンを思い返してほしいのだ。インパクトの強い映像が続く『終わらない青』のこと、思い出すのも困難かも知れないが、是非反芻していただきたいと思う。

緒方監督は、徐ろに窓の外の晴れ渡る空へ視線を移した。インタビュー会場のスコーレカフェのガラス戸は木枠が赤く塗られており、監督が架ける眼鏡のレンズを光の屈折で真っ赤に染めた。

沈黙に込められた 情熱Body Temperature main
--『体温』について--

『体温』(2011年 監督・脚本:緒方貴臣 72分)
Story:
工場で働く倫太郎(石崎チャベ太郎)は、言葉を発しない、身動きもないイブキと外の世界を遮断しての生活している。ある日、イブキとそっくりなキャバクラで働く倫子(桜木凛)と出会う。 本名“倫子”と源氏名“アスカ”の間で自分を見失いそうになっている倫子。
自分たちだけの世界で生きる男とキャバ嬢という出会うことのない2人が出会い互いの孤独を少しずつ埋めていき、距離は縮まっていくが倫太郎の思い通りに倫子は自分だけを見てくれない。倫太郎は、イブキにドレスを着せ、髪型を変え、化粧をして「倫子」と呼びかける。しかし、イブキの正体は、実際の人間から型取りされた人形だった。

--では、『体温』について教えてください。『終わらない青』は2009年、『体温』は2011年の作品ですよね…この期間で、映画に対する思いに何か変化はあったんですか?

「最初の『終わらない青』は、本当に無我夢中で撮り終えて…映画祭に出品してみると、夕張(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2010年)で絶賛してくれる人がいたり、その後も賞を獲ったこともあり、自分の中で自信が出来たんです。けれど、他の映画と比べて技術的な未熟さを痛感して…もちろん、それは当たり前の話なんですよ…スタッフ、いなかったんです。本当にド素人の集まりで撮った物だったんで。映画祭で僕の作品観てくれて方々が、次回作のスタッフに立候補してくれたり、紹介してくれて、技術的にはとても上がったのかなと言うのはありますね。元々『体温』は、『終わらない青』よりも前に撮ろうと思ってたんですけど、その当時、同じラブドールを題材に扱った『空気人形』(2009年 是枝裕和監督)と『ラースと、その彼女』(2007年 クレイグ・ギレスピー監督)が公開されることを知って、企画をお蔵入りにしました。その後、『終わらない青』を撮り終えて『空気人形』と『ラースと、その彼女』を劇場で観た時、自分が撮ろうと思ってたものとは全く違うものだったので、それなら撮ってみようかなと思って撮りました」

--『体温』が生まれたのは、『終わらない青』の前だったんですね。そもそも、どう言う所から着想されたんですか?

「新聞を読んでて、ラブドールと言うかダッチワイフの歴史を書いた本の紹介レビューがあったんですよ。レビューでは、凄く精巧なダッチワイフ…高級ラブドールがあると書いてあって、その後調べたら本当に信じられない精巧なもので…。ダッチワイフって、空気で膨らませた安っぽい物をイメージするじゃないですか。それが全然違って、本当に可愛いなと思ったんですよ。こんな人形はどういう人が買うんだろうと思ったんですが、性的な物…性処理として使うだけじゃなくて、恋人として家族として購入される人が結構いるって知ったんですよ。最初はやっぱり気持ち悪いって思うじゃないですか。でも考えてみると、アイドルを追っ掛けている人やフィギュアを集めてる人はいっぱいいますが、そういう人と何も変わらないんじゃないか…ただダッチワイフってものがネガティブなイメージがあって、性処理の道具としての認識が強いから気持ち悪いと思うのかな、と。それで、映画にしたいなと思いました」

--石崎チャベ太郎さんの倫太郎と桜木凛さんの倫子が、凄くハマってました。キャスティングは監督ご自身で?

「そうですね」

--こちらも、オーディションで?

Body Temperature_sub1「チャベ太郎さんに関しては、『終わらない青』の時に夕張に行って、そこで会ったんですよ。他の作品と比べて予算規模やクオリティが劣っていると感じていて、僕は自信が無かったんです…僕の作品だけ、なんか高校生が創ったようで浮いてて…そんな時に、チャベ太郎さんが「他のどの作品より『終わらない青』が良い!」って言ってくれたんですよ。お世辞じゃなく心から言ってくれてると僕は感じ、「こういう役者と一緒に映画を撮りたい」って思ったんです。『体温』のキャスティングを進めて中々僕の思うような人が見付からなくて…って言う時で、チャベ太郎さんは僕のイメージに合ったこともあり、ちょっと内容を話したんですよ。そうしたら、この倫太郎って言う役と自分が重なるって話もしてくれて…ちょうどチャベ太郎さんが女性と上手く行ってない時だったんですね。ちょうど合致したんで、このまま新しい彼女が出来ないうちに撮れば凄くいいんじゃないかと思って(笑)それで、お願いしたと言うか。

Body Temperature_sub2桜木凛さんに関しては、直前だったんですよ、決まったのが。実は他に決まってる人がいて…事務所に所属してない、一般公募で集まった人からオーディションで決めた人で。そしたら、撮影の1週間前とかに連絡取れなくなっちゃって。実を言うと、本当にその人で良いのかって言うと、ちょっと妥協してる部分はあったんですよね。けど、とてもやる気がある子だったんで…。結構ハードな演技が必要な役なんですけど、僕も実績のない監督なのでそういうことをお願いできる人も中々いないんですよ。そんな中で決まった人と連絡取れなくなってしまったんで、急遽タレント事務所3社ほど問い合わせてみたら最初に返答が来たのが桜木さんの事務所で。ちょっと話したら、「ウチの桜木、いいよ」って推薦してくれて。取り敢えず会わせてくださいってお願いして会ったんですが、僕のイメージとは正直違ったんですよ。声が高い…ちょっとアニメっぽい声で、顔も僕のイメージとは違うなと思ったんです。けれど、言葉では説明できない何かを感じて。本当にもうクランクイン3日前とか4日前とかだったんで、とにかくお願いするしか無い状況でしたので、台本を渡して、急いで読んでもらい、スケジュール調整してもらったって感じです。けれど、結果的にはとても良かったと思います。今では桜木さん抜きの「体温」は考えられませんね」

--撮影日数はどのくらいだったんですか?

「10日くらいです」

--撮影が一番大変だったシーンは?

「ラブドールが高価なものじゃないですか。美術で協力してもらったオリエント工業さんにお借りしてたんですけど出鱈目には扱えないんで、そこのケアが大変でした。あと、外に持っていくと注目を浴びる訳ですよ。しかも、カメラは遠くから狙っているんで…チャベ太郎さんが変質者に見られちゃって」

--劇中、桜木さんが瞬きをしない場面があるじゃないですか。あれ、凄く大変だったのでは?

「皆さんそう言われます。僕もそう思うんですよね。大変だなと、大変だろうなと思うんです。けれど彼女は、「そんなに大変じゃないですよ」って言うんですよ。実際、瞬きのNGは一回も無いんですよ。彼女がそれだけプロ意識が強いと言うか…セクシー系の女優さんって言うと映画に出る女優とは違うって思われがちなんですけれど、彼女は仕事意識をちゃんと持ってやってる方で、映画でもそれが出てると思います」

--監督の好きなシーンを一つ挙げるとしたら?

「そうですね…。この映画は、ラブドールを通して人間とセックスの関係性を描いた作品です。人間とのセックスとラブドールとのセックスと言うものの対比というか違いというか、そこを観て感じてほしいなと思います。僕も好きなシーンですし」

魂を持たないラブドールが、登場人物たちの心象を見透かす。そんな繊細な画面演出に、目を奪われるといい。そして、観客の心情を映すかのような“飢餓感”溢れる倫太郎と倫子に、心を奪われるといい。

スコーレカフェは、シネマスコーレの向かいのビルの1階にある。映画館の様子が良く見えるため、普段は観客がコーヒーやドーナツを口に運びつつ上映時間を待つ。ファンからサインを求められ笑顔で応じると、緒方監督は視線を道路の向こうに向けた。映画館の入口は、『子宮に沈める』の開場を待つ観客でごった返していた。

執着? 否、愛着!
--映画について--

--映画を撮りたいと思うきっかけになった出来事ってありましたか?

「題材をですか、映画をですか?」ogata002

--映画自体を、です

「もう、ただ映画が好きだったんですよね…本当に、小学生の時から。そうしたら、映画を撮りたいって言うか、映画監督になりたいって言うか、自然と思っちゃいましたね。…皆さん、思わないんですかね?(笑)映画、本当に大好きだったんですよ。凄い観てて。そうしたらやっぱり、映画で一番偉い人って監督…創ってるのが監督ですから、ただもう漠然と「監督になりたい!」って思っちゃいましたね。どうやったらなれるのかとか分かってなかったですけど…小学生の頃には、映画監督になりたいって思ってました」
(画像:『子宮に沈める』シネマスコーレ初日に登壇した、緒方監督と主演の伊澤恵美子)

--監督の作品は、ワンカットごとが長い印象を受けます。その辺り、拘りはありますか?

「長めにしてるのが全部同じ理由ではないんですけど…例えば、登場人物が居る世界の時間をそのまま感じてほしいから切らない場合もあるし、考える時間を与えたいなど色々なんです。カットを割って表現も出来るんですけど…観客が意識しているかは別にして、ワンカットである方がリアリティは増すと思うんですよ、僕は。そう言う理由ですかね」

--劇中、音楽を廃することに意図はありますか?

「一般的な映画で、音楽の使い方がとてもあざといなって僕は思っていて…。特に登場人物の悲しい出来事が起こる場面だと必ずと言っていいほど「ここで泣け!」ってタイミングのところで悲しい音楽を乗せてボリュームを上げていくって言う…僕は本当に、嫌いなんですよ。映像で魅せてほしいなって言うか…音楽の力ってとても大きいんで、それに乗っかりすぎてるなって言うところがあるんですよね。だから、僕はそういうものを使いたくないなって言うのがあります。あと、日常には音楽が無くても様々な音が溢れている訳じゃないですか。場面にあった音楽は、観客それぞれの頭の中で流せば良いと思っています」

--逆に、自然音に対して拘りがあるんじゃないですか?

「そうですね。僕らが普通の日常で聞く音とか幸せな音楽が、状況が変われば凄く残酷に聞こえることもある訳じゃないですか。一般的に幸せと思われてるものが僕の映画で、例えば悲しい時に使われてて…日常に戻った時、今まで幸せだと思って聞いてた音や音楽が、そう言う風に聴こえなくなる瞬間って多分あると思うんですよ。それを狙ってると言うか…。日常に戻った時に僕の映画がどう残るか…残したい、そう考えてるんで」

--監督ご自身が投影されたキャラクターは、いますか?

「『終わらない青』の主人公は僕をちょっと意識してますし、『体温』だったら倫太郎は僕の様子も入ってますし…自分で経験したこととか思ったことって、やっぱり出ちゃいますよね。だけど、自分をモデルにしては今までやったこと無いですし、やりたくも無いと言うか…出来るだけ客観的に見たいんで…客観的に見れなくなっちゃうじゃないですか、自分の経験をそのまま入れちゃうと。どこかしらには出てると思いますけど、全部が全部って言うものは一切無いです。むしろ、経験したことの無いものを描きたいと思ってます」

--製作費は全て自費だと聞きました

「そうですね、全て自費です」

--そこまでして映画を撮り続けるって言う思いを、聞かせていただけますか?

「今まで実際そう言うお仕事的な話とかも来てたんですけど、全部断ってるんですよ。小さい頃から観てきた好きな映画監督が大作映画に走っちゃったり…好きな監督の作品はやっぱり初期がいいねってなったりするのって、自分はそうなりたくないなって…。僕は27で上京して映画を撮り始めて、色んなものを捨ててきたと自分の中では思ってて。そこまでして来たのに、結局お金って言うのは…。お金に走るんならもっと別のことでやりたいんですよ、前働いてた仕事の方が全然収入いいですし。お金じゃ幸せになれなかったから、僕は映画を撮ってるんで。だから、好きなものを撮る…でも、僕の好きなものには誰もお金を出してくれない…ってことは、自分で出すしかないじゃないですか。あと、口出しをされたくないって言うのもあります、はい」

--次回作について教えてください (どこよりも早い次回作情報!)

「今、『脳に青が刺さる』と言うドキュメンタリーを撮ってます…仮タイトルですけど。自傷行為をする少女に密着して撮影しています。撮影自体は今年の2月くらいから始めて…まだ実際あんまり撮れてないんですけど、今後しばらく撮り続けます。本当にノープランで撮り始めてるんで、結末も、そこまでどう言う風に持っていくかも全く考えずに…取り敢えず、撮りながらやっていこうかなって。あと、『受胎告知』と言う劇映画です…これも、仮タイトルですけど」

--今まで観てきた映画作品の中で監督に最も影響を与えた“生涯の1本”は何ですか?

「1本じゃなくて、2本になってもいいですか?『ゴダールの映画史』は、初めて観た時衝撃を受けたんですよ。大好きな一本です。それと、キェシロフスキの『デカローグ』と言う、ポーランドのドラマなんですけど…50分の説話が10話あるんですよね。モーゼの十戒があるじゃないですか。あれを現代に置き換えて、戒めを1話ずつに分けて全部で10話あると言う。その2作品ですね」

--映画以外のものではありますか?例えば、“生涯の1冊”とか、“生涯の1枚”とか…

「そうですね…“生涯の1曲”で言うと、モーツァルトの『レクイエム』が大好きで…指揮者違いとかでたくさん持ってます。“1枚”は…絵は、好きなのいっぱいあるんですけど…ムンクが大好きです。特に『思春期』」

--緒方監督にとって、“映画”とは何ですか?

「映画は一つのツールとしか考えてないんですよ。映画よりも上手く自分のことが表現できるものがあったら、それでもいいかなと思ってて…。ただ、映画は昔っから大好きです。今は映画が一番自分の伝えたいことを表現するのには向いてるとは思ってるんですけど。なので、僕の中で映画はそんなに大きいものじゃないと言うか…」

--“ファースト”とか“マスト”ではない?

「そうですね。でも映画ってまだまだ発展すると思うんですよ。まだ出来て100年ちょっとじゃないですか。絵画とか音楽とかもっと歴史が長くて、今もどんどん発展してる。映画はもっと表現の可能性があるんじゃないかと思っています。ゴダールなんて凄いじゃないですか、映画そのものを発展させていってると言うか…今3D撮ってるらしいんですけど…。僕も、映画の可能性を広げる作品を作っていきたいと思ってます」

--本日はお忙しい中お時間を割いていただき、本当にありがとうございました

「ありがとうございます」

緒方監督の視線を追い掛けて、向かいのビルに目を移してみた。シネマスコーレの入るアートビルは黄色い外壁で、晴れ渡った早春の空に浮かび上がっていたはずの色彩が、暮れなずむ朱穹に同化しつつあった。

今回じっくりとお話して頂いた緒方貴臣監督『終わらない青』・『体温』は、4月26日より名古屋 大須・シアターカフェで観ることができる。2作品とも名古屋初上映なので、どうぞお観逃しなきよう。

『子宮に沈める』公開記念 緒方貴臣監督特集上映:http://www.theatercafe.jp/schedule/screening/icalrepeat.detail/2014/04/26/855/-/
シアターカフェ公式HP:http://www.theatercafe.jp/

『体温』公式HP:http://paranoidkitchen.com/movie/bodytemperature/main.html
『終わらない青』公式HP:http://neverendingblue.paranoidkitchen.com
『子宮に沈める』公式HP:http://sunkintothewomb.paranoidkitchen.com/
©2009 paranoidkitchen/©paranoidkitchen

取材:高橋アツシ

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