“言葉”が愛おしい残像へと変わる『四月の永い夢』レビュー



満開に咲き誇る桜とまぶしく光る菜の花を背にして、喪服姿の女性がたたずむ。
アンバランスなはずのものが絶妙に重なりあったビジュアルに、何とも言えず心奪われる。物語はそのようなシーンからはじまる。

四月。それはとても穏やかで温かい、陽だまりの時間。留まっていたい気持ちとは裏腹に、どうやらずっとは続かないのである。人生にも四季があるように、遅かれ早かれ季節が移りゆくことはどうにも止めらない。

3年前に恋人を亡くした初海(朝倉あき)は教師を辞め、蕎麦屋でバイトをしながら静かな日々を送っていた。彼女にとって居心地のいい場所だった蕎麦屋が閉店することになってしまい、店主の娘・忍(高橋由美子)からも背中を押され、職探しを考えるようになる。昔の教え子との再会、店の常連だった志熊(三浦貴大)との距離、亡き恋人からの手紙・・・。初海の時間が緩やかに動きだそうとしている。

初海は歩く。そして立ち止まる。
一人で楽しげに夜道を散歩する姿も、寝転んで見ると幻想的な瞬間さえも、まるで彼女の心境をそのまま映し出すかのごとく、丁寧に作り上げられており、さらにはありふれた日常を切り取りながらも、どこかノスタルジーな昭和っぽさをあちこちに覗かせる本作のロケ地は『おおかみこどもの雨と雪』でも舞台になったとされている国立市。劇中の世界観と見事にマッチして描かれている。

とてつもない大きな壁にぶち当たり、焦りと同じくらいの失意を抱えてしまった時。まるで雨宿りをするかのように“急がずに時を待つことも必要”と、本作は優しく語りかけてくれるだろう。向き合わないと進めない痛みがなじむまで、長い道のりにはそういう時もあっていいのだから。

『かぐや姫の物語』で注目を浴びた朝倉あきが、消し去ることのできない影の狭間で揺れる主人公・初海を等身大で表現し、染物工場で働く青年・志熊を三浦貴大が真っ直ぐに演じている。脇を固めている高橋由美子、高橋恵子、志賀廣太郎の実力派が贅沢にも揃っており、決して派手ではない物語にそっと華を添えてくれる。

不思議と訪れる転機が重なると、自らの足で小さな一歩を踏み出す力が湧いてくる。その歩幅が徐々に徐々に大きくなって、自然と回りはじめるもの。さらには誰かの言葉に気づかされ、誰かに向けたはずの言葉は、実は自分への忠告だったりもする。ためらっている思いの答えさえ、本当はとっくに出ているように。

ゆったりと心地よく流れる時間のなかで、“言葉”の存在が愛おしい残像へと変わるだろう。

文 南野こずえ

『四月の永い夢』
出演:朝倉あき 三浦貴大 川崎ゆり子 高橋由美子 青柳文子 森次晃嗣/志賀廣太郎 高橋惠子
監督・脚本:中川龍太郎『走れ、絶望に追いつかれない速さで』
製作:WIT STUDIO 制作:Tokyo New Cinema
配給:ギャガ・プラス (c)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
5月12日(土) 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

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