カメラ片手に好奇心を『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』レビュー



「この写真で、僕はギターをはじめた」「全部この写真のせいですから」故・マーク・ボランの写真を見上げながら笑顔を見せるのは、日本を代表する唯一無二のギタリスト・布袋寅泰。彼のライブでカメラを構える男性の表情は、まるで少年のように目を輝やかせていた。

男の名は、鋤田正義(すきた まさよし)。今は亡きデヴィッド・ボウイをはじめ、世界的に活躍するアーティストのポートレートやジャケット写真を手掛けてきた人物であり、本作『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』の主人公。音楽の歴史と共に歩んできた、一人の写真家の軌跡を追ったドキュメンタリーである。

海外でも名声を得ているミュージシャンのMIYAVIは、鋤田との撮影現場を「魂のぶつかり合い」と言いあらわし、写真家としても活動する俳優の永瀬正敏は、当時の思い出を嬉しそうに話す。そのほかにも糸井重里、リリー・フランキー、山本寛斎、坂本龍一など、彼をとり巻く著名人が次々と登場し、一人の人間を語っていく。

撮る者が撮られることは比較的少ない。追うことはあっても、追われる立場になることも滅多にない。同時に人を語ることも語られることも、好意がないと成り立たない。鋤田の技術以上に「この人となら」という安心感が誰からもにじみ出ており、どんなことに置いても重要な基盤になるのは、やはり揺るがない信頼である。

買ってもらったカメラで母親や家族を撮っていたことがはじまりだったと言い、無数の撮影をこなしてきた上で「自分のやりたいことを押しつけるのが全てではない」と鋤田は振り返る。わずかな時間のなかで、互いへの尊重がない関係では“いい表情”を出せないのは、写真だけに留まらないはず。CDに収められた音楽がジャケット写真込みで存在に意味を持ち、音だけでは伝わらないものを物語ってくれるように。

写真家が常に大きなカメラを握っているとは限らないし、今や誰もが手にしている小さなデジカメやスマートフォンであっても、瞬間を切り取るツールには変わらない。独創的であり、表現力さえあれば人を惹きつける。しかし、それが一番難しい。

一瞬を永遠に残す、写真という芸術を自然体で楽しむからこそ生み出せる作品たち。慣れほど歪みを伴いがちだが、今年で80歳を迎える鋤田のカッコ良さを一言に託すならば、いくつになっても好奇心を忘れない少年である。

文 南野こずえ

『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』
配給:パラダイス・カフェ フィルムズ (c)2018「SUKITA」パートナーズ
5月19日(土)より新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国ロードショー!

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