悲しみは優しさに似ている『blank13』レビュー



2016年の『したまちコメディ映画祭』で制作発表を行い、1年後に同映画祭のオープニング作品として披露された本作。俳優の齋藤工が「齊藤工」名義で監督を務めており、放送作家・はしもとこうじによる実話を基に、どこか他人事じゃなく心当たりのある要素に惹かれて制作に至っている。

斎藤が俳優としてブレイクする前から映画に対する姿勢は一目置かれており、映画祭には頻繁に登場し、発言すればスタンスにとらわれない映画業界のあり方を唱え、移動映画館をも主催するなど、“俳優”という一言では片付けられない存在感を放ち続けている。これまでにも短編は手がけていたが満を持しての初長編となる。

大きな「松田家」の葬儀の隣で行われる小さな「松田家」の葬儀。小さな「松田家」に訪れた数名の参列者の前には、嫌いだった父との思い出を回想するコウジ(高橋一生)、兄のヨシユキ(齋藤工)、コウジの彼女(松岡茉優)の3人。失踪していた父の葬儀で、空白だった13年間の姿を知っていくストーリー。

しかーーーし!
不思議なことに数名の参列者が数百名に見えてしまう破壊力が炸裂する!
麻雀仲間の佐藤二朗、突然歌いだす村上淳をはじめ、川瀬陽太や伊藤沙莉などなど、強烈すぎる個性派キャラクターが揃いも揃っており、正直ろくでもない仲間からろくでもない13年間が赤裸々に語られていき、リリー・フランキー演じるだらしない父らしさが隅々に感じられるだろう。

声を出して笑う。恥じらいが先行してしまって抑えがちだが「思い切り声を出して笑って泣いて。それこそ映画!」という本来許されることを訴えている気がしてならない。何よりも、参列者たちの言動がアドリブ全開であることを忘れないでいただきたい。空白は誰かの言葉でそれなりに埋められ、腑に落ちるように色づいていくことも。

まるで葬儀の概念を取っ払うかのごとく、笑わずにいられない理不尽。キッチリ笑わせつつも、さらには寄り添う静寂や哀愁とのメリハリの効かせ方は映画ならではの醍醐味を存分に活かしており、映画を愛し映画に愛される齊藤監督だからこそ作り出せた、実にお見事な一本!と言いきれる。

じんわりと温かい余韻に浸りながら、観終わった誰もが「自分の葬儀について」を考えるはずだ。もし筆者なら、見ず知らず同士でドンチャン騒ぎで送りだしてほしいと願わずにいられなかった。
深刻な状況でも明るく振る舞う人がいるように、悲しみはきっと優しさに似ている。

文 南野こずえ

『blank13』
(C)2017「blank13」製作委員会
2月3日(土)シネマート新宿にて先行公開、2月24(土)より全国ロードショー

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