悪であり続けるための覚悟『悪と仮面のルール』レビュー



「人間を殺すことを世界は悪だと言うだろう。だとしても、僕は悪で構わないと思った」
ウォール・ストリート・ジャーナルの「ベストミステリー10小説」に選出された傑作小説が、玉木宏を主演に迎えてついに映画化!

“悪”とはいったい何を指すのだろう。本作では殺人を意味しており、無論悪である。だが、背景やその先には大きな違いがあるはずだ。一部を切り取れば悪となり、別の一部を切り取れば幸福と捉えられることもある。完全な悪は皆無である。

この世で絶対的な“邪”になるために創られた少年は父を殺し、新しい顔の仮面をかぶって別人として生きることを決めた新谷浩一(玉木宏)。探偵に一人の女性・久喜香織(新木優子)を追ってほしいと依頼する。生きることに怯えている香織に詐欺師の男が付きまとっていると知り、徐々に彼女へと近づいていく新谷。香織は新谷にとって初恋の人だったが……。

拭い去れない過ちや懺悔は心のトゲとなって人間を虫ばみ、ふとした瞬間に思い出す優しい時が眠剤となる。自分自身に言い聞かせるように新谷が悪になった理由、同時にどこまで貫くのかが物語のカギとなっている。

芥川賞作家・中村文則が2010年に発表した同名小説を映画化した本作。爽やかな青年からコミカルな役まで着実にこなしてきた玉木宏が、これまでにない静かなダークヒーローを演じる。仮面をかぶった男と仮面を外した表情にはまぎれもない体温を感じさせ、実力派のストイックな役作りには圧巻。

また、探偵役の光石研や刑事役の柄本明らがしっかりと脇を固め、新谷とゆすろうとするテログループ役の吉沢亮との関係にも注目していただきたい。多くのミュージックビデオやCMを手掛けてきた中村哲平が初の長編監督として違和感なくメガホンを取り、丁寧に作り上げたサスペンスとなっている。

人はどんな理由があったら悪であり続けられるのだろうか。善を描くことで浮き彫りになるのが悪。哀しい宿命に立ち向かうかのごとく、仮面の内側から溢れるクライマックスに優しく切なく締めつけられ、スクリーンに深く刻み込まれるだろう。

文 南野こずえ

『悪と仮面のルール』
2018年1月13日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー
(C)中村文則/講談社 (C)2017「悪と仮面のルール」製作委員会

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