Deradany青春時代に抱いた夢や希望を、同じまま持ち続けるのは難しい。経験を積むに従い、心はすりきれ、いつしか惰性に任す日々…。ベテラン歌手ダニー・コリンズ(アル・パチーノ)の日々もまさに惰性のカタマリだ。人気歌手として名を馳せたダニーだが、もう何年も新曲を書いていない。往年のヒット曲を歌っていればコンサートは大盛況、リッチな生活を続けられるし、おまけに若い恋人もいるー、しかし、内心ダニーはそんな毎日にうんざりしていた。

親友であり敏腕マネージャーのフランク(クリストファー・プラマー)にコンサートの出来栄えを誉められても、空しさが募るばかり。ある日ダニーの誕生日パーティーが盛大に催され、ひとしきり騒いだ後、フランクがダニーに渡したのは一通の手紙。それはなんと、憧れのジョン・レノンがダニーへ書いた手紙だった。ダニーが新人歌手だった43年前、雑誌のインタビューで語った不安に対し、ジョンが激励の手紙を書いてくれていたのだ。手紙はダニーに届くことはなく、フランクがコレクターから入手してくれたのだった。

「富と名声を手にしたからって、君の音楽は堕落しない。ダニー、君はどう思う?」
憧れの人から43年ぶりに届いたメッセージに強く心を揺さぶられたダニーは、人生を変える決意をする。ツアーはキャンセル、30年ぶりに新曲を書くことにし、そして、一度も会ったことのない息子に会いに行くことに決めたー。

一通の手紙をきっかけに生き方を変えようともがくダニーを演じるのは、名優アル・パチーノ。『ゴッドファーザー』に代表されるいかついイメージとは正反対の、いい加減だが憎めないダメ男を茶目っ気たっぷりに演じており、とにかくダニーの強烈なキャラクターで物語に引き込まれる。
恋人と暮らした豪邸を去り、自家用ジェットに飛び乗ったダニーが降り立ったのは、息子の住むニュージャージー。息子の自宅近くのホテルに長期滞在を決め込み、作曲用にピアノを搬入までする熱の入れようで、ついでに美人で知的なホテル支配人のメアリー(アネット・ベニング)をナンパすることも忘れない。

息子の家を訪れると、息子の妻サマンサ(ジェニファー・ガーナー)と、可愛い孫娘ホープ(ジゼル・アイゼンバーグ)に出迎えられるものの、息子のトム(ボビー・カナベイル)は突然現れたダニーに激怒し、あっという間に追い返されてしまう。
予想はしていたがさすがに落ち込み、ホテルのバーでヤケ酒をあおるダニーに声をかけたのは支配人のメアリーだった。息子について語るダニーに対し、メアリーも自身の離婚経験を語り、ユーモアを交えた小気味良いやり取りで二人は大いに盛り上がるのだった。
メアリーに励まされたダニーは翌日から再び息子一家を訪れ、愛情を注ぎまくる。必死で一家に尽くすダニーの姿に、トムの頑なな心も和らぎはじめるのだが、実はトムが深刻な病に侵されていることが明らかになるー。

自分勝手に生きてきた男が、本当に生き方を変えられるのか?
いや、残念ながら人はそんなに簡単に変われないのだ。変化に怖気づき、愛する人たちの前で尻尾をまいて逃げ出すダニーを、だらしないと責められはしない。情けなさを噛みしめ、それでもダニーは、これまでの空白を埋めるように息子に向き合い続ける。

変わることの難しさ、変わることを諦めない大切さ、そして、時に情けない自分を見守ってくれる人達の優しさ、、様々な想いがしみじみと胸に去来する。ダニーの新曲と息子の病にはどんな結末が待つのか、ダニーが息子と共に迎えるラストシーンには一抹の希望を持たずにはいられない。

キャスト陣が豪華で、ダニーを厳しく優しく見守るメアリーをアネット・ベニングが魅力的に演じ、男の友情を渋く魅せるマネージャー、フランク役にクリストファー・プラマーと、名優二人がパチーノの熱演を盛り立てる。ダニーの息子トムにはボビー・カナベイル、トムの妻サマンサにジェニファー・ガーナーと実力派俳優が揃いぶみした。

なんと本作は実話に基づいており、かつてジョン・レノンが新人ミュージシャン宛に書いた激励の手紙が数十年後にようやく本人に届いたのだ。そんな温かいエピソードが映画化されるにあたり、レノン財団から異例の許可が下り、作中でジョンが歌うオリジナル・マスターの使用が可能となった。
初秋の空の下、ジョン・レノンの名曲に彩られた人生と愛の物語を堪能してみてはいかがだろうか?

文 小林サク

『Dearダニー 君へのうた』
配給 KADOKAWA (C)2015 Danny Collins Productions LLC.
9月5日(土)角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開!