真実はいつもひとつ じゃない! 『STROBE LIGHT ストロボ ライト』鑑賞記


真実はいつもひとつ じゃない! ――『STROBE LIGHT ストロボ ライト』鑑賞記――

2015年8月29日、名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)で『ストロボ ライト』の上映が始まった。_1090056
伊丹市の後援を受けて関西で撮影されたにも関わらず物語の舞台は東京と言う異色の“関西発インディペンデント・ムービー”は、監督・出演者が全くの無名にも関わらず大変な評判を呼んでいる。伊丹から始まった“ストロボ ライト・ショック”は、関西を広く席捲し、東京をも巻き込む一大ムーブメントとなっている。そして今、満を持して名古屋で閃光を放たんとする片元 亮(監督・脚本・編集 画像︰右)、槇 徹(出演(官賢太郎役)・宣伝配給 画像︰左)両氏の舞台挨拶をレポートする。

槇「『ストロボ ライト』は、ずっと前途多難なんですよね」
片元「特に東京で公開された時は、ちょうど『ストロボ・エッジ』(監督:廣木隆一/116分)をやってまして。しかも、主演は、福士さん……」
槇「福士蒼汰さんが主演をしてたんですよね。僕らは、4月11日から東京K’s cinema(新宿区 新宿)で『ストロボ ライト』を上映したんですけど……こちらの主演は“フクチ”(福地教光)って言うんですね(場内笑)。誰か間違って来ないかな?って言ってたんですけどね(笑)」
片元「当時は、“映画 ストロボ”って検索すると、全部『エッジ』が出てきて(笑)。で、この間、下北沢でアンコール上映した時(下北沢Tollywood 8月1日より)は、『ストロボライト』って言うボカロ(ボーカロイド)の歌のタイトルが……。アンコール上映の宣伝をしましょうって言ってた矢先に、『ストロボライト』って曲を作った方が、20才と言う若さで亡くなられたと言うことで……タイトルでこんなに泣かされることってあるのかな、って思ったんですよね」
槇「あなたが悪いんですからね(笑)」
片元「でも、この映画を観ていただいて、『ストロボ ライト』以外のタイトルは付けられないですよね?『ストロボ ライト』じゃなかったら、変でしょう?」
槇「作る時に、『ストロボ ライト』って映画を作ろうと思ったことが始まりやったんですからね。今から何年くらい前でしたっけ?」
片元「10年以上前ですね。携帯電話がまだそこまで普及してない頃に、一回この脚本は書き上げて。自分が一世一代の勝負に出ようと思って、当時は現実的に撮れないと思った企画を出そうと言うことで、過去に書いた『ストロボ ライト』の脚本を出してみたら、全部家電(固定電話)なんですよ。これは駄目だと、携帯電話とか時代背景を合わせて書き直したんです。で、2010年に撮影をスタートしたんですけど……これが面白いもので、2010年から13年の間に、“スマホ”と言う物が出てくるんですね(場内笑)」
槇「劇中に出てくる携帯は、当時最新鋭の携帯だったんですけどね(笑)。わずか2年足らずで、全てスマホに……」
片元「時は流れますね(笑)。でも、映画とかドラマとかで最近スマートフォンで電話してるけど、デカいから顔全部隠れちゃうじゃないですか。映画とかにする上では、スマートではないなって……これ、シャレじゃないですよ(笑)!そう思ってますので、スマホ今後も使わんとこかな、と」

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謹慎が明けたばかりの捜査一課の刑事・小林 秀(福地教光)は、新たな事件を担当する。閑静な住宅街で起こった殺人事件だが、被害者の右手首が切り落とされていたことから、事件は猟奇殺人の様相を呈する。怪しげな被害者の身辺、複数の凶器、唯一の遺留品、足取りが掴めない参考人――23年前の事件との共通点に気付いた小林が捜査を進めるうち、同僚の刑事たち(木下聖浩・坂城 君)も違和感を覚え始める。奴の変調は、例の殺人教唆事件から始まったのか。それとも――。

片元「『ストロボ ライト』はとてもリピーターの多い映画で本当に有り難いんですけど、今お話聞いていただいてる中にも、この映画を観て「俺は納得できない!」「なんだ、この映画は!?」と言う方ももちろんおられると思うんです。うちの映画は本当に面白くて、「なかなか良かったよ」って言う人が全然いなくて、「つまんないッ!!」って言う方と「面白いッ!!」って言う方にパッカリ分かれるんですよ……零か、百か」
槇「今日は、当時のシナリオを持ってきたんですよ。僕この『ストロボ ライト』が、7年振りくらいのお芝居だったんです。大学を卒業してすぐにサラリーマンをしてたんですけど、「一緒に映画を撮れたらいいね」って話はずっとしてて……この話が来て、僕にとっても凄い想い出になるなって、サラリーマン辞めちゃったんですよね。この人が人生勝負に出るんで(笑)」
片元「映画は撮影する時は祭ですけどね。編集って多分ほっといたら誰かが勝手にやってくれて、上映ってほっといたら誰かが勝手にやってくれるんだって思ってる人が多いところはあるんですよね(笑)」
槇「それを、監督に聞いたんですよ、どうするの?って。そうしたら、「やって行くしかないか、二人で」って言うことで、大阪から始めて、関西廻って、東京行って、名古屋に来て……3年掛かりましたね。僕らは大手さんのようにCMとか雑誌に載せたりとかってことが出来ないので、一つ一つ劇場に行ってお願いして……やっぱり、凄く遅いんですよ」
片元「サンプルを送っても観てもらえてないのが結構多いですから……自分たちで行って、想いを伝えて、せめて観る順番を少しでも上げてもらおう、みたいなね。せっかく自分たちが人生賭けて撮った映画、自信を持ってお送りする映画ならば、やっぱり少しでも多くの人に届けたい……映画は、観てもらってなんぼなので。舞台挨拶も、せっかく上映されるなら、その場所に来て、その人たちに御礼を伝える意味でも顔を出したいってことで、全国に……バンドマンみたいだよね(笑)。ついこないだまで東京にいたしね」
槇「6時間くらい前まで東京にいました(笑)」
片元「他の所でも上映していただけないかって、色々廻ったりしながらやってます」

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秀と暮らす松岡美咲(宮緒舞子)は、美容師を目指しながら多忙なパートナーを支える。思い出が詰まった段ボール箱を開けた時から始まった彼の変調は、次第に彼女自身の心をも蝕み始める。旧い写真、姉の存在、秀の怪我、途切れる記憶――大いなる苦悩に寄り添う術を見付けるべく、美咲は彼の故郷を訪ねる。精神科医の兄・新一(松本壮一郎)が辿り着いた戦慄のプロファイリングは、真実なのか。それとも――。

片元「人間だったり報道だったり、全てを理屈付けて、理由付けて、関連付けて物語を語ろうとするのを強く感じるんです。この映画は、“偶然を必然にしてしまった話”です。観てる人ひとり一人が違う感想を持ってもらえる、考えてもらえる映画にしたいと思って作りました。「自分の中でもうちょっと咀嚼したい」「もっと確かめたい、確認したい」って、劇場にもう一度足を運んでくださる方が結構おられます。自分の中で腑に落ちた方や、何度観ても解らないって方が、語り合うと、お互いに意見が違うんですよね。その人にとっての物語の真実って、一つに決められないものなので。部分部分に違和感を感じるようなカットを入れてますので、そう言う部分を感じ取ってもらえたら嬉しいです」
槇「『ストロボ ライト』のパンフレットの中には、【事件調書】と言うものを書きました。この映画がどう言う形で進行して行ったのか、丁寧に一日ずつ書いてます。買ってくださいとは言いません。一度手に取って見ていただくと、作品がより深くなると思います。そう言うところまで拘って、僕らはやって行きたいと思ってるので」

濃密な推理劇と、静謐な恋愛劇――ミステリーとラブストーリーが閃き合う衝撃の120分を、どうかご堪能あれ。
時間を、拘りを、人生を注ぎ込んだ作品は、知名度を、予算を、上映規模を超えた“真実”を銀幕に映すのだ。

取材︰高橋アツシ

映画『STROBE LIGHT』公式サイト
名古屋シネマテーク公式サイト

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