骨の髄までビートに人生を委ねて『EDEN』×フランス映画祭2015
音楽さえあれば、僕らの楽園は永遠に続くと思っていた―
90年代フレンチ・エレクトロ・シーンを舞台に描くDJポールの成功と挫折
滅多に会うことの出来ない来日ゲストと、観客が直接質問投げかけて対話を楽しむことができる『フランス映画祭2015』。9月5日(土)公開『EDEN』の先行上映に、主演のフェリックス・ド・ジヴリと監督の実兄でDJ・本作の共同脚本家のスヴェン・ハンセン=ラヴが来日してトークショーが行われました。(2015年6月27日 フランス映画祭2015 有楽町朝日ホール)
Q:初めにご挨拶をお願い致します。
フェリックス:みなさんこんにちは!フェリックスです。23歳です。私は明日、日本を去らなくてはならないのがとても悲しいです。
スヴェン:みなさんこんにちは!私はスヴェンです。ミアの兄です。42歳です。前回日本に来たのは15年前なので、またここに戻って来れてとても嬉しく思っております。
-フェリックスさんのジーンズは、今日買いたてと伺っておりますが
フェリックス:非常に履きやすくて、気持ちがいいジーンズです。
-ブランドはどちらですか??
フェリックス:Edwinです(笑)。
-スヴェンは、日本でお買い物する機会はありましたか??
フェリックス:同じマークのジーンズを買いました(笑)。
Q:23歳の若さで、ポールの役を十年間以上演じられて、難しかったところがあれば教えてください。
フェリックス:元々モデルになっているのがスヴェンで、そんなに年も取っていないので問題はありませんでした。それにミア(監督)と話して、年を経るに従って、相応するようなメイクで歳を取ったようにみせることはやめようと決めていました。
Q:フェリックスさんの英語がとても素晴らしかったのですが、どちらかで習っていたのですか??
フェリックス:一年間ロサンゼルスに住んで、オーストラリアにも住んでいたので、フランス語と同じように話せます。
Q:最後に出てくる素敵な詩が、とても大切なものではないかと思います。十年の歳月を書くにあたって、この映画が持つリズムについて教えてください。
スヴェン:凄く大好きなこの詩は、アメリカのロバルト・クリーニーという詩人が書いたものです。私は随分前からこの詩を知っていて、妹のミアにも話していました。ミアとは音楽の嗜好が割と似ていて、彼女もこの詩を頭に描いていたんだと思います。なぜなら、映画で扱っている様々なテーマに合っていたからです。例えば、過ぎゆく時、このテーマはミアが何度も扱っているものです。そしてもちろん、音楽のリズムも変わりゆく人生という意味でもあります。
Q:ポールのアメリカ人の恋人役が、『フランシス・ハ』のグレタ・ガーウィグさんだったのでびっくりしました。彼女を起用するに至った経緯があれば教えてください。
スヴェン:元々私もミアも大好きで、彼女の映画はいくつもみていて、出演してもらうことはひとつの夢でもありました。実際にエージェントを通してコンタクトしてみると、やはり彼女は大スターだったので、役が小さすぎるといわれてしまいました。しかし偶然にも、彼女はミアの映画が凄く好きで、提案するとすぐにやりたいと答えてくれました。彼女のとても軽い感じが、面白味が少ない中で温かみを与えてくれました。
Q:クラブダンスミュージックが大好きなので、特に九十年代後半の盛り上がり方が、とても羨ましいと思ってみていました。今、ディスコやガラージが再び盛り上がってきていると思いますが、当時と比べて何か思うことがあれば教えてください。
スヴェン:今と昔の盛り上がりで一番大きく違うところは、昔は骨のあるクラブミュージックを聞いていた若者が、今に比べて人数が少ない点にあると思います。以前は、凄いオーラのとても新しい音楽を発見したと彼らは感じていました。でも今の若者たちはガラージに限らず、色々な種類の音楽を聞いています。そして彼らは、自分たちが聞いている音楽の根っこが、ずっと昔にあることも知っています。でも私たちにとっては、あの音楽が凄く新しいものだったんです。
Q:どうして自身の人生をモデルにしながら、シナリオを書こうと思ったのですか??そして主役を、フェリックスさんにしようと思った決め手を教えてください。
スヴェン:この映画は、私の人生を語るために作られた訳ではありません。私の人生を映画にしても、そんなに面白くないと思います。元々ミアが、音楽と九十年代の若者たちについて映画を撮りたいと考えていました。ミア自身もその時代のことを再発見してみたかったんだと思います。そしてたまたま、私がその時代のある音楽シーンの中で、ある意味ひとつの役割を担っていたので、ミアにその当時起こっていたエピソードを語っていたのです。それから徐々に、一緒に脚本を書くということになりました。
フェリックスを選んだのは、私は立ち会っていませんが、ミアとキャスティングディレクターがオーディションを行ないました。そして、フェリックスをみて、すぐ彼がいいと思いました。もちろん彼は演技が上手です。そして割とすぐに気が合いました。また、それだけではなく、当時の若者の中にあったエネルギーを彼の中に感じたからです。彼は音楽が好きで、ある程度音楽のことも知っていました。全く音楽を知らない俳優は選びたくなったのです。なので、彼を選ぶことは明らかでした。
-フェリックスさんは俳優が専業ではなく、他にお仕事をなさっているそうですが、どんなことをされているのですか??
フェリックス:レコードレーベルも持っていますし、色々なイベントの企画もしています。近々、服のブランドも作る予定です。
-とても実業家の側面もお持ちで、「ELLE FRANCE」誌でも“フランスを動かす50人の若者”のひとりに選ばれたそうです。
フェリックス:そうなんですか?!
-プロフィールにそう書いてありました。覚えて帰ってください(笑)。
Q:私はとても痛い映画だなと思ってみてしまいました。色々成功されているフェリックスさんは、役柄を演じるにあたって、この人物に共感出来るのか、それともこれは演技だからと割り切ってやるのか、その辺はいかがでしょうか??
フェリックス:私は成功と挫折の映画とはあまり考えていなくて、夢に向かって何処まで持続していけるか、そして困難にどこまで抵抗していけるかという話だと感じています。人々は日々、失敗を繰り返しています。そこで社会が成功失敗と判断したりしますが、要は目的に対して、どこまで自分で突き進んでいけるかだと思います。私はどちらかというと、スヴェンのように心配性ではなく、プラグマティック(実利的)なところがあるので、彼を理解することは決して難しくはありませんでした。
Q:本作はアメリカ文化をフランスに伝えていく役割を描いたように感じています。また以前は、生身になれない抽象的な存在を描いているのがフランス映画という印象でしたが、最近は生身のとても痛い感じの映画が多いような気がしています。フランスの中での変化があれば教えてください。
スヴェン:確かにアメリカ文化にも触れていますが、フレンチタッチを紹介する映画でもあります。フレンチタッチとは、フランスとアメリカの深い繋がりによって生まれた音楽です。フランスには昔から、特にアメリカの黒人音楽に対する根強い愛着がありました。例えば、ジャズやソウルやブルースに対する愛です。そしてこの映画は、ふたつの伝統の絆がいかに美しいものであると示しています。私が好きなシーンで、主人公がシカゴに行ってアメリカのDJに会うシーンがあります。全く違う文化を持ったDJの間に、素晴らしい絆が生まれて、DJ同士はお互いに違わないことが分かります。
最近のフランス映画は確かに、作家主義よりはリアルな人間の弱さを表すことが多くなっていると思います。もし今そういう映画が増えてきているのだとすれば、やはりフランスも難しい時代を生きているからかもしれません。
Q:フェリックスさんは今後、どのように映画と関わっていきたいですか??また、主演する可能性はありますでしょうか??
フェリックス:もちろん今後も、映画の中で仕事は続けていきたいと思います。フランスではすぐラベルを貼りたくなる傾向があります。彼は役者である、監督であると枠にはめたがります。きっと税金の関係でそれの方がいいのかもしれませんが(笑)、私はまだこの若さを利用して、色々なことに挑戦していきたいと考えています。この作品のおかげで、映画の世界と私の人生には大きな関係が出来ました。これからも続けていき、もしかしたら俳優かも監督かもわからないですが、出来るだけ多くのことをやっていきたいと思います。
Q:スヴェンさんも、映画の世界に今後も関わっていきたいと思われますか??
スヴェン:もちろん私は映画が大好きで、シネフィルです。けれども、映画(制作)はやりたいことではなくて、私が本当にやりたいことは文学です。実際に今、執筆もしています。
Q:フランス映画ファンのみなさまに、おふたりから最後に一言ずつお願い致します。
フェリックス:最近私は、とても素晴らしい映画をみました。公開されたところですが、アルノー・デプレシャン監督の『僕の青春の三つの思い出』です。フランス映画は、非常に普遍的であると思います。今後も日本で、どんどん公開されると思うので、ぜひみてください。
スヴェン:私はフェリックスよりもちょっと歳なので、ちょっと古い映画のことについて話したいと思います。あまり知られていないですが、アラン・カヴァリエという監督の初期の一作目二作目は非常に素晴らしく、フランスの専門家たちも、もっとも美しい映画だと仰っているので、ぜひみてみてください。
足が、身体が、リズムを刻みたくて、うずうずする
音楽と人の海に身を投じて、いっそのこと、ビートの一部になって燃え尽きられたらいいのに
いったい、どのポイントで引き返すのが正解だったのか
責任も取らずに、楽しみだけを追求した代償は、息苦しくて、先の見えないどんずまりの現実
そんな時ですらキミを救うのは、音楽しかないのかもしれない
取材:佐藤ありす
【STORY】
大学生のポール(フェリックス・ド・ジヴリ)は音楽、とりわけガラージにはまっている。親友とDJデュオ“Cheers”を結成するやいなやパリの熱いクラブシーンで人気となり、あっという間に成功の階段を駆け上がってゆく。エレクトロなビートに満ちたパラダイスで、仲間とはしゃぐ楽しい時間。しかしそんな“甘い生活”は少しずつポールの人生を狂わせ始める。まわりが少しずつ大人になってゆく中、酒とドラッグに溺れ、借金をくり返し、恋人との関係も破綻してばかり。やがてポールの生み出す音楽も少しずつ最先端のクラブシーンから遠ざかってゆく―。
『EDEN』
監督:ミア・ハンセン=ラヴ
出演:フェリックス・ド・ジヴリ、ポーリーヌ・エチエンヌ、ヴァンサン・マケーニュ
配給:ミモザフィルムズ
© 2014 CG CINEMA – FRANCE 2 CINEMA – BLUE FILM PROD– YUNDAL FILMS
9月5日(土)より新宿シネマカリテ、
特製ポストカード付き、前売り券も要チェック♪