令和の乱『半狂乱』レビュー
2018年に旋風を巻き起こした映画 『カメラを止めるな!』は記憶にあたらしいところであり、いわばクチコミのチカラが1つの小さな作品を大きく羽ばたかせた。その期待値は本作にもおおいに通じることをまずはお伝えしたい。
とある劇団の舞台公演がはじまる直前。開演を待つ客がロビーに群がり、舞台裏では出番を待つ役者たちが準備に追われている。そんな中、劇団員のカバンから謎の100万円が見つかり、慌てたのは座長の将(越智貴広)だった。その金に思い当たる節があるようす。物語は現在と過去が交差しながら進んでゆく。
時は数ヶ月前。役者志望の2人の青年がクローズアップされており、夢を抱きながらも熱意だけで押し切っている現実とのギャップに苦しみ、先の見えない可能性に苛立つ姿は青春そのもの。舞台にこだわる樹志(工藤トシキ)と映画で一発勝負に出たい将は、衝突しながらも互いに成功を模索していた。
ある時、踏切の前で樹志は思いつめた表情で線路内に入ろうとするが、偶然通りかかったコンビニバイトの同僚・雪乃に止められ、一旦は落ち着く。その後、何気なくこうつぶやかれる。「先が見えたらつまんないよ」と。この言葉に筆者はずっとひっかかっていた。そう、予兆ともとらえていただきたい。
舞台とその裏側を映画として撮る同時進行で大きな勝負をかけることになるが、大金が必要になった。どうにか金を集めるために2人は危険な道を選ぼうとする。一方、現在に戻ったスクリーンに映っているのは、舞台袖で起きた事故、舞台中止、日本刀を手にしている樹志、監禁状態で逃げられない客たち。一体どういうことなのか……。
映画の中で起きているはずの出来事にもかかわらず、観ている我々も戸惑い、逃げることができない。手に汗にぎるという薄っぺらい表現では足りない緊迫感と熱量に圧倒され、なにがリアルでどこまでがフェイクなのかが混ざり合う中、狂い乱れた波が容赦なく襲いかかる。
舞台ならではの臨場感と映画の客観性をうまく融合させた展開と、現在と過去の時間差を徐々に埋めていくことで予想外の伏線回収を成り立たせているが、目を伏せたくなるシーンも正直ある。しかし、きれいごとや爽快さを描けば納得するだろうか。真正面から欲望や人間の闇を突きつけ、えぐられるような錯覚に陥ってしまう挑戦的な作品を、人はどこかしらで求めていることは間違いないはずだ。
まるで怒りと哀しみをすべて映画にぶつけたような思いが、悪夢のような衝撃が、いまだに脳裏に焼きついて離れない。真実として言えるのは唯一、とんでもないものを観てしまった。
文 南野こずえ
『半狂乱』R15
2021©POP CO., LTD.
2021年11月12日 ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開