会うことで上書きされるキズナ『くれなずめ』レビュー



「じゃあ、また明日!」
社会人になってから学生時代の友人に久々に会うと、去り際の言葉が「お疲れ!」になっていることにずっと違和感を覚えていた。小さな抵抗をするように「また明日!」と再会を宣言し、微笑み返す顔を見ては、毎日会う日常はもう来ないんだと、何とも言えない寂しさを仕方なく受け入れているように思う。今でも。

高校時代に帰宅部だった、吉尾(成田凌)、欽一(高良健吾)明石(若葉竜也)、ソース(浜野謙太)、大成(藤原季節)、ネジ(目次立樹)の6人が5年振りに集まった。数日後に控えた友人の結婚式で余興を任され、赤いふんどしでダンスを披露することになり、会場の下見がてら近況報告に花を咲かせて盛り上がる夜。

迎えた結婚式の当日。そして見事に惨敗。悪ふざけ的な余興はウケるかスベるかのどちらかしかないが、言うまでもなく落ちこむ一同。いったい誰が赤フンなんて言い出したのだろう。

大人になり環境が変わると、必然的に関わる人たちも変わっていく。普段はスーツを着ていようが白衣を着ていようが、会えばあの頃に巻き戻されるように、瞬間的に素直なバカでいられる友達こそ、人生でもっとも尊い絆ではないだろうか。本作ではまさに絵に描いたような彼ら。いくつになってもどんなに離れても、また会えるという確証のない自信。

劇中、登場シーンは僅かであるにもかかわらず非常に強い印象を残す存在がいる。前田敦子演じるミキエだ。二次会に向かう彼女を呼び止め、周囲にはやし立てられながら思い切って告白する吉尾。そんなやりとりの中で「死んでても死んでなくても変わんないんだよ!」とミキエが言い放つ――。

友がいた頃といなくなった過去を振り返りながら、6人の空白を埋めるようなバカバカしくて切ない青春物語がここからはじまる!

『スマホを落としただけなのに』、『まともじゃないのは君も一緒』など、猟奇的な殺人鬼から風変わりな青年役まで幅広い演技力と安定感のある成田凌が主人公・吉尾を演じ、高良健吾、若葉竜也、藤原季節といった注目の若手実力派が揃い、男性というより男子のノリで見事なチームワークを発揮する。

日が暮れそうでなかなか暮れない状態を表す「暮れなずむ」を変化させ、命令形にした造語がタイトルとなっており物語を象徴している。監督を務めるのは、大人になりきれない子供っぽさを面白おかしく描くことに定評のある松居大悟。自身の経験をもとにして舞台化した作品を、豪華なキャスト陣を迎えて映画へと昇華させた。

ハッキリさせるよりもヘラヘラすることでしか後悔を誤魔化せないのは、自分への憤りと悲しさの裏返し。いつかとか次とか、そんなの誰もわからない。会える時に会って上書きしつづけようぜと言わんばかりに、くだらない泣き笑いで背中を押してくれる、優しさの詰まった本作。

文 南野こずえ

『くれなずめ』
5月12日より公開
(C)2020「くれなずめ」製作委員会

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