あの人から目が離せない!『のぼる小寺さん』レビュー
何かに立ち向かう人を見ると、こぶしを握りしめて「ガンバレ!」と声をかけたくなる。
それは世界で戦うスポーツ選手であったり、バッターボックスに立つ少年野球であったり、受験会場に向かう高校生であったり、ケガと向き合う友人であったりと様々。そして人を応援したくなる瞬間の後に訪れるのは、どこからともなく湧き上がる勇気。なんとも不思議なものだ。
ボルダリング部に所属し、真剣な眼差しで高い壁と向き合っている小寺(工藤遥)。その横で卓球部の練習にいまいち身が入らない近藤(伊藤健太郎)。対照的なふたり。進路調査票に白紙で出した近藤や小寺をはじめとした数名が教室に残され、先生から「決めた自分を大事にしたくなる」と目標を持つことへのアドバイスを受ける。
その後、“クライマー”と書き「まずは目指してみます!」とキッパリな表情の小寺に対して、何も言えない先生。何事にも一直線な彼女を中心に、その懸命な姿に触発されるかのごとく、漠然とした将来に悩みながらも小さな可能性を見つけては一歩を踏み出そうとする高校生たちを軽やかに描いている。
元「モーニング娘。」10期メンバーである工藤遥が、映画初主演を務める本作でたくましいボルダリングを披露。礼儀正しく清々しい姿には誰もが目が離せなくなるはずだ。小寺をいつも見つめ、淡い恋心を抱く近藤役には、映画やドラマをはじめ、活躍の幅を広げている伊藤健太郎。『惡の華』では見事な変態っぷりを貫いたが、今回は正統派の青春物語となっているので、ある意味ご安心を(笑)
さらには『小さな恋のうた』にて華麗なベースさばきで魅了した鈴木仁が、小寺に憧れてボルダリングをはじめる四条を演じる。爽やかさもキザさもない、少し地味なキャラは新境地とも言える。また、学校にあまり興味がない倉田役を吉川愛、カメラ女子の田崎役には小野花梨と、フレッシュで勢いのあるキャスト陣によって、誰かしらに重ねてしまうような設定がされている。
進むことを恐れずに目の前の壁をのぼる小寺をスクリーンから観ていると、何かにチャレンジしたい感情が芽生えて背中を押してくれるだろう。そしてあの頃に何を考え、どんな未来を描いていたのか、ぜひ思いを馳せていただきたい。
文 南野こずえ
『のぼる小寺さん』
Ⓒ2020「のぼる小寺さん」製作委員会 Ⓒ珈琲/講談社
7月3日(金)より、新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!