音の中に、真実が見える『THE GUILTY/ギルティ』レビュー
誘拐された人物からの電話を受け、電話の声と音を頼りに犯人を追うーー。手に汗握るスリリングでスピーディーなストーリー、そんなハリウッド的な展開を自然と予想してしまうのだが、本作はきっと、あなたの予想とは違う。
デンマーク。緊急ダイヤルのオペレーターとして勤務するアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は、ある事件をきっかけに警官の第一線を退き、今は救急車両やパトカーの手配を行う毎日だ。ある日彼がとった一本の電話ーー、それは、誘拐されたという女性本人からの助けを求める電話だった。女性は誘拐犯と共におり、自由に話すことが出来ない。手がかりは電話から聞こえる話し声と音のみ。アスガーは電話を駆使し、職務の範疇を越えてまで女性を救おうとするのだがーー。
スウェーデン出身の新鋭監督グスタフ・モーラーの長編デビューとなった本作は各国の映画祭で絶賛され、観客賞を総なめ、さらに第91回アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表に選出された。面白さの理由は、人間の心理を巧みに利用したプロットの緻密さと、北欧の作品ならではのリアリスティックな厳しさにある。
誘拐事件の解決に乗り出す男には、「こうあるべき」救済者の姿を期待してしまうのだが、主人公のオペレーター、アスガーの職場での横柄な態度や、緊急通報者への荒い対応に少しずつ違和感を感じ始める。
アスガーが警官の現場を退くきっかけとなった事件について明日裁判が開かれ、同僚が証言をするらしい。
そんな中、誘拐事件に直面したアスガーは、電話を使い職務外の捜査活動を開始する。被害女性を励まし続け、自宅に残された幼い娘に母の帰宅を約束し、犯人と目される人物に接触を試みる。純粋な人命救助の使命ともとらえられるが、どこか執着に近い高揚感も拭えない。アスガーへの複雑な感情をもちつつも、観る者は被害者の無事保護と犯人逮捕に希望を託すのだが、この作品は、そう一筋縄ではいかない。
電話の声と音のみで状況判断せざるを得なくなった時、人は自然と「こうあるべき」状況を頭の中で、作り出しているのではないか。いや、情報源が豊富な場合でも、人間は自分の「こうあるべき」思いに囚われているのではないか?真実が明らかになり、思い込みと偏見に気づかされた時、一瞬、視界がブラックアウトする。果たしてアスガーがたどり着いた真実とは?彼は女性を無事救い出せるのか?
勝手な決めつけをする者を容赦なくぶったぎる、今までにない視点の、隙のない脚本である。
若干30歳の監督が、デンマーク国立映画学校出身の同世代の製作陣と作り上げた本作は、北欧映画の限り無い可能性を指し示している。
冷徹で現実的な作品であるが、その結末をハッピーエンドとするか否かは、これもまた観客の解釈に委ねられるだろう。ラストシーン、アスガーがかける最後の電話が誰につながるかは観る者の気持ち次第だ。
文:小林サク
『THE GUILTY/ギルティ』
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
© 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
2019年2月22日(金)新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開