松永監督、観て救われる人がいると信じて『ハナレイ・ベイ』ハルキスト試写会
映画『ハナレイ・ベイ』ハルキスト試写会が行われ、監督を務めた松永大司、ハルキストの聖地であるブックカフェ「六次元」の店主であり、『村上春樹語辞典』(誠文堂新光社)の著者として自身も生粋のハルキストであるナカムラクニオが登壇した。(2018年10月12日 神楽座)
2005年に発表され単行本、文庫本あわせ累計70万部を超えるロングセラーとなっている作家・村上春樹の短編小説集『東京奇譚集』(新潮文庫刊)の一篇である「ハナレイ・ベイ」を映画化した本作。
シングルマザーのサチ(吉田羊)は、息子タカシ(佐野玲於)がハワイのカウアイ島にあるハナレイ・ベイでサーフィン中に大きなサメに襲われて亡くなったという知らせを受ける。ハナレイ・ベイに向かい、タカシと無言の対面を果たしたサチは息子が命を落とした海岸へ向かい、海を前にチェアに座り、本を読んで過ごした。それ以来、タカシの命日の時期になると、ハナレイ・ベイを毎年訪れ、同じ場所にチェアを置いて数週間を過ごすようになった。あの日から10年、サチは日本人サーファーの高橋(村上虹郎)と三宅(佐藤魁)と出会い、「赤いサーフボードを持った、片脚の日本人サーファーを何度も見た」という話を耳にする。
ハルキスト試写会と題したイベントということで、客席にいる大勢のファンを交えてトークショーがスタート。ナカムラの顔見知りのファンの方もしばしば。ナカムラから短編であるハナレイ・ベイを長編映画にする難しさを問われると、松永監督は「短いシナリオで長編を撮りたいと思ったんです。現場で起こることを逆に取り入れてくものにしたいなと。シナリオは短くてちょうどよかった。足りないというよりもこれはすごいテーマとしてもすごく普遍的だし、自分としてもいろんな要素で挑戦のし甲斐がありました。海外で撮るということ。もう一つは村上春樹さんであるということ。あとは自然とどう自分が向き合うかということもあって、非常に映像に向いている気がした」と短編で撮ることの意義を語った。
またティーチイン形式で行われ、観客から映画にしか出来ないことを問われると、松永監督は「それが本当に一番苦しみだったと思います」と明かし、「読めば読むほど、すごい良い話だと思いました。短編だからこそ削ぎ落とされてる分、無駄が無さ過ぎて。(原作と)向き合えば向き合うほど、身動きができなくなってしまった時があり、捉われてしまって、知れば知るほどすごさを感じました」と苦悩を吐露。
一方で「村上さんの小説の面白さって僕は語り口調が独特…そこに面白さがあると思いました。それを外すのは意外と怖かったです。でも、実際に役者が喋ると不自然になってしまう部分もあるので、そこから(村上)虹郎のキャラクターは原作からかなり大きく変えて。本質的なものは残しつつ、彼がやることに一番やりやすいものにしました。あと音ですね。体感するということは“言葉にできないもの”だなと思って、体感する映画にしようと画と音にこだわってやりました」と自身の挑戦を語った。
続いて、原作を6回読んだという観客から監督の作風が色濃く出ているように感じたと感想を受けて、「誤解を恐れずに言うならば、自分のモノにしなければダメだと思いました。原作に対しての僕が感じた本当に作りたいと思う想いとリスペクトは持ったまま、勇気を持って一つの映画として“中途半端なものにしない”という覚悟を持ちました。原作にリスペクトを持って原作通りに撮るということをするのであれば、映画撮る必要ないんじゃないかと思ったんです。小説って小説で完結しているから。僕がここから拾ったものを映画にすることで、もっと何か別のものを生み出すことができるというチャレンジングが無い限り、原作というものにトライしちゃいけないんじゃないかと思ったんです」と並々ならぬ想いがあったことを告白。
また、サチのある映画オリジナルの台詞について観客から新鮮という感想が寄せられると、松永監督は「吉田(羊)さんも絞り出すように演じてくれた」と語っていた。
最後に松永監督は「村上春樹さんの原作だということは映画を知ってもらう入口として良くも悪くもすごく大きいです。でも、僕自身が作りたいと思った理由は原作のファンの方のためだとか映画ファンのためとかではなくて、本当に理想論ですけど、映画を観て救われる人がいると信じて自分が映画で救われたように映画ってすごい力があると思っていて誰か本当にこれを必要としている方に届けばいいという想いで作りました。いろんな方がいろんなアプローチでこの映画に触れて欲しいと思う中で、今回こういう形で村上春樹さんを愛している方たちに観てもらうことはすごく大きかったです」と映画をアピールし、ハルキストたちに感謝の気持ちを述べた。
取材 本郷美亜
『ハナレイ・ベイ』
10月19日より全国公開