希林さんのように優しい目で観ていただけたら『日日是好日』初日舞台挨拶
茶道を通してひとりの女性が成長する姿を描く『日日是好日』の初日舞台挨拶が行われ、黒木華、多部未華子、鶴田真由、森下典子(原作)、大森立嗣監督が登壇した。 (2018年10月13日 新宿ピカデリー)
原作者の森下典子が茶道教室に通う20年をつづったロングセラーを映画化した本作は、真面目でちょっとおっちょこちょいな主人公・典子(黒木華)とともに茶道教室に通う従姉妹の美智子(多部未華子)が、武田先生(樹木希林)とお茶の稽古をしながら過ごす時のなかで、長い時間をかけて得られる気づきや“日日是好日”の意味をかみしめて成長していく。
茶道教室に通う主人公・典子を演じた黒木は「色んな経験をした映画ですし、森下さんと一緒に初日を迎えられて本当に幸せです」と喜びを語り、典子の従姉妹を演じた多部は「こんなに沢山の方に観ていただくことができて嬉しいです」と満席の場内にホッとしたようす。茶道教室の先輩役を演じた鶴田は「樹木さんともご一緒できて、とても思い出深い作品になりました」と思いを馳せた。
9月15日に亡くなった樹木希林について、大森監督は「京都(完成披露)でお会いして、ずいぶんお痩せになっているなと。今日お会いできると思っていたので残念です。僕はこの映画で初めてお会いして、ひと言で言うのは難しいんですけど、出会えてよかったと。僕の財産になっていくんじゃないかと思っています」と感慨深い表情。続けて「希林さんが、何を思っていらっしゃるのかを感じたいと思いながら現場でやっていました」と当時を振り返った。
樹木と初共演した黒木は「本当にご一緒できて良かったなと思います。いつかは一緒にと思っていた女優さんなので。お茶室という空間のなかで2人でいる芝居もあったので、なんて有り難い時間なんだろうと思いながら過ごしていたことを覚えています」と思い返しつつも、言葉にできない気持ちにうーんと悩みながら「人間性として格好いいなと思うところが多かったので、自分が役者としてやらなければいけないことが沢山あると感じました」と成長を誓った。
さらに樹木に伝えたいことを聞かれると「初日迎えましたよー!って。たぶん一緒にいると思います」と黒木は天を仰いだ。
1日だけ撮影に参加した鶴田も「ご一緒できて本当に良かったなと思います。樹木さんはご自分に嘘をつかない方だなとすごく思っていて。筋が通っているといいますか、その佇まいにいつも教えていただくことが沢山あった。出会えて良かったなと思う女優さんのひとりです」と改めて生きざまに憧れを抱いたようす。
「ご一緒する前は恐れ多いというか、こわいイメージが強くて」と吐露したのは多部。「撮影中に必ず愛があるというか、必ずひとりひとりと向き合ってお話をしていて。お芝居や作品に対する姿勢を感じることが沢山でき、貴重な経験だったとより強く思います。貴重な時間をありがとうございましたとお伝えしたい」と共に過ごせた時間に敬意を表した。
「初日はきっと一緒に並んでご挨拶ができると思っていたので、訃報を聞いた瞬間は時間が止まったような感じがしました。ふっと思い出したのは樹木さんの指の感触で。撮影現場でいつも荷物を抱えてうろちょろしていたら、樹木さんが気を使ってよく声をかけてくださり、手を引っ張ってくださったんです」と森下は現場でのエピソードを披露。
「注目して観ると面白いところは?」という質問に対して黒木は「樹木さんとのインタビューで“本物を知ることが大事”と仰っていて。この映画に関わっていないと触ることのできない茶器や掛け軸、お茶菓子など色んな物を観ていただけるんじゃないかなと。監督が風の音や水の音にも注視して撮られているので、そういうところを楽しんでいただけたら」と見どころを語った。
同じ質問について多部は「黒木さんと樹木さんがすごく素晴らしくて。それをとらえた大森監督もすごいなぁと。すごいなという言葉にはまる」と絶賛すると、鶴田も「余裕がない時は色んなことに気づけないけれど、余裕ができた時に感じられることが感覚的に描かれている素晴らしい映画。黒木さんはその場の空気と一体化していて、お芝居が上手なのはこういうところにあるんだなと感じました」と褒め、隣にいた黒木は「もう私には一切ふれないでください(笑)」と照れくさそうに笑顔を見せた。
「撮影がはじまる前に心配になりました。スタッフの中にお茶の経験者がひとりもいらっしゃらなかったので」と不安だった森下は、監督とプロデューサーにお茶の稽古をしたといい、完成した作品を観て「ちゃんとお茶の映画になっている!」と感動したことを明かした。また「1か月くらいの撮影なのに、秋の長い日差しが畳の上にさし込むシーンや、夏の強い光が庭を照らす景色など、季節の移り変わりが表現されていて映画ってすごいなって思いました」と感激を告白した。
世の中には、“すぐわかるもの”と“すぐわからないもの”の2種類があるという本作のテーマにかけて、「大人になってようやく気づいたこと、わかったこと」を問われた黒木は「休むのって大事だなと思いました。仕事がないと不安なんですよ。疲れて休みを3週間くらいいただいてロンドンに行ったりしていましたが、帰ってきてからは新たに頑張れました。劇中で典子さんがお茶をたてるように、休んで何も考えず好きなことをすると吸収ができて。自分にとっては大切だなと最近気づきました」と自身の経験から得たことを述べた。
最後の挨拶で黒木が「青春映画でもあり、家族の映画でもあり、人生の気づきに満ちた映画だと思います。樹木さん演じる武田先生のお茶室を感じて帰っていただけたらなと思います」と呼びかけ、大森監督は「お茶を通して、人間を描くようにと思って映画を作りました。希林さんのように優しい目で観ていただけたら嬉しいです。この間、希林さんの膝枕で寝ていた夢を見ました。本当に好きです」と樹木への思いに溢れた舞台挨拶となった。
取材・撮影 南野こずえ
『日日是好日』
配給 東京テアトル、ヨアケ
(C)2018「日日是好日」製作委員会
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