まぎれもない未来への爪痕『高崎グラフィティ。』レビュー



観たい映画を探すときの決め手になるのは、世界観をとらえやすい予告映像だという人も多いはずだが、「未完成映画予告編大賞」というものをご存じだろうか。

3分以内の予告映像を基に映画化への道が開かれる同賞は、作品の舞台となる地名をタイトルにすることを条件に、まだ制作されていない本編の断片として予告だけで競い合うというもの。応募数285作品の中から第1回グランプリを受賞したことにより『高崎グラフィティ。』は制作された。

タイトルのごとく舞台は高崎。群馬県最大の繁華街を象徴する駅前をはじめ、ぼんやりと故郷を彷彿させる景色など、知られざる高崎の魅力を背景に、高校卒業直後の子どもでもなく大人にもなりきれない5人の、僅かな数日間を映し出している青春群像劇である。

彼氏との結婚を宣言する寛子(岡野真也)、東大に進学する秀才の康太(三河悠冴)、気ままに過ごそうとするお調子者の直樹(中島広稀)。卒業式を終えたばかりの教室で生徒たちが未来への抱負を語っており、誰もが懐かしさを重ねたくなるシーンから幕が開く。

何も決まっていない優斗(萩原利久)は先輩から怪しい仕事の誘いを受け、東京の専門学校へと進む美紀(佐藤玲)は、入学金が支払われていないことを知り、さらには支払ったはずの父(渋川清彦)が失踪。動揺したまま卒業パーティーに向かうのだが――。

美紀の父を探し出すという目標を掲げる仲間たち。街を走りぬけたり、朝まで語り明かしたり、大声を上げたりと、青春要素を惜しげもなく思いっきり詰め込んでくれている反面、誰かには残酷を突きつけ、誰かの心の叫びはもどかしい現実も十分に描いている。そして、ここぞとばかりに次々に本音をぶちまけていく展開は非常に面白く、上辺だけの友達ごっこも卒業か、さらなる深い絆に分かれる。グレーがないのが清い。

戻れない時間を噛みしめるように、抱えた不安や迷いにもがく姿。感情を素直にぶつけられることが若さゆえだと決めつけたのはいつからだろう。見て見ぬふりをするように、熱を冷ますことが大人という履き違えを痛感する。

本作でメガホンを取った川島直人監督が、日本大学藝術学部の同期である主演の佐藤玲から「同期で何か作品を作りたい」と投げかけられたことが全てのはじまりとなり、しっかり爪痕を残す約束をしたことがきっかけで『未完成映画予告編大賞』に応募したという。そうした強い思いで制作されたからこそ、劇中ではその破片が形を変えて散りばめられていることがひしひしと伝わってくる。

また、キャスト陣には今後の活躍が期待されるフレッシュな面々が揃っており、エネルギッシュな中にある飾らない佇まいは、いずれ役者としての代表作になるはずだ。彼らが高崎に残したのは「落書き」ではなく、まぎれもない「未来への爪痕」である。

文 南野こずえ

『高崎グラフィティ。』
制作プロダクション:オフィスクレッシェンド 配給:エレファントハウス
©2018 オフィスクレッシェンド
8月18日(土)シネマテークたかさき、イオンシネマ高崎にて先行公開
8月25日(土)より アップリンク渋谷、イオンシネマ シアタス調布ほか全国順次公開

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