空想が現実に染みこむ、深田マジック『海を駆ける』レビュー



インドネシアを訪れた深田監督が切実に描きたくなった現実。
深田晃司監督×ディーン・フジオカのタッグで世界に向けて放つ、静かなる問いかけ。

舞台はインドネシア。2004年に津波による大きな被害を受け、今もなおその痕が残る街バンダ・アチェ。復興支援に力を注ぐ貴子(鶴田真由)のもとに、日本人らしき謎の男(ディーン・フジオカ)が海で発見されたという連絡があった。身元がまったくわからない状態で貴子の家でしばらく世話をすることになり、彼のことを海の意味を持つ「ラウ」と名づけ、息子・タカシ(太賀)も仲間とともに手がかりを探すのだが、ラウの周りで不可思議な現象が起こりはじめる――。

深田監督といえば『第69回カンヌ国際映画祭』での「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』を筆頭に、数々の映画祭で称賛されている逸材。故に世界に通じる作品を生み出すことが必然的といえる。インドネシアを訪れた際にここで撮りたいという思いをもとに、7年もの時間をかけてオリジナル脚本で制作された本作。フランスとインドネシア合作の日本映画という歴史的な作品でもあり、その期待は裏切らない。

異国の地で深田監督が初タッグを組むのは、中性的な存在感に惹かれて抜擢したという主演のディーン・フジオカ。映画やドラマだけにとどまらず、いまや幅広く活躍しているが、ディーン自身はアジアでも活動を行ってきた経緯がある。劇中ではあまり言葉を発しない分、ふとした表情や佇まいでの表現に尽きるが、演じたラウと見事に一体化。無邪気な子供のようなしぐさも見せ、もはや実在しているかのような錯覚に陥るほど、新たな魅力が存分に引き出されている。

見た目は日本人だが、生まれ育ったインドネシアの国籍を自ら選び、インドネシア人であることに誇りを持って生きているタカシを演じるのは、太賀。『ほとりの朔子』『淵に立つ』に続き、深田組の常連キャストとして3作目となる。物語が進むにつれ、文化の違いによる受け止め方を痛感する一方、若者の迷いや恋も描かれ、これがさりげないスパイスとなっている。大きなドキドキやハラハラは訪れないが、淡々と静かに響くのも特徴である。

ファンタジーの境界線は非常に難しい。現実離れした異空間であればその世界へ誘われやすいが、中途半端なとげとげしさのある日常では興ざめすることも少なくない。本作では“ラウが起こす不可思議な現象”という点でファンタジー要素が盛り込まれているが、いびつな違和感がない。空想を現実に融合させ、染みこませている。これぞ深田マジック。

文 南野こずえ

『海を駆ける』
配給:日活 東京テアトル ©2018 “The Man from the Sea” FILM PARTNERS
2018年5月26日テアトル新宿、有楽町スバル座ほか全国ロードショー

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