愛らしい皇帝たちの神秘と生きざま『皇帝ペンギン ただいま』レビュー



動物園や水族館で人気者のペンギン。ヨチヨチ歩く格好やスイスイと泳ぎ回る姿を見ると、癒しとともに思わず微笑んでしまうだろう。フンボルトペンギン、ケープペンギン、キングペンギンなどは一度は見聞きしたことがあるはずだが実は18種類も存在しており、その中でも今回の主役として登場する皇帝ペンギンは『ピングー』のモデルにもなっていることで有名であり、体長100cm~130cmと最大の大きさを誇っている。

2500万人が観た奇跡のドキュメンタリー『皇帝ペンギン』から12年振りに愛らしい姿がスクリーンに戻ってくる。しかし、可愛らしさだけではない。世界でもっとも過酷な子育てをする鳥と言われている皇帝ペンギンに追った『皇帝ペンギン ただいま』は、夫婦の出会いから子ペンギンの旅立ちまでを、そっと見守るように撮り続けているのである。

本作の魅力の1つでもあるデジタル4Kカメラの迫力、極寒の水中撮影、いまや当たり前に使われるようになったドローンでの撮影がこれほどにも活かされる映像は、やはり壮大な自然界ならでは。陸と水中では別の生き物のように映り、動物園で見られる数とは桁違いの大名行列には圧巻。人間の手が一切介入しない地での彼らの本能や神秘をリアルに感じることができる。

天敵を避けるため、繁殖期になると海から100kmも離れたオアモック(氷丘のオアシス)へ向かうペンギンたちの集団。その数は数千を超えている。美しい求愛ダンス、マイナス40度のなかで身を寄せ合って耐えしのぎ、必死に卵を守ろうとする様子など、その地で命を繋いでいくための工夫を垣間見る。さらには、親と子が一緒にいられる時間はほんの僅かであるという知られざる生態に何度も驚かされるだろう。

親と別れ、自分の身は自分で守る覚悟をするヒナたち。敵もいれば立ちはだかる壁もあり、生きる厳しさと、何かに導かれるかのように習得する姿勢は生命の根底を感じる。グレーの羽毛を徐々に脱ぎ捨て、親と同じように生き、成長していくために。監督は前作同様リュック・ジャケが務めており、「一方的に人間が観察しているのではなく、侵略者である我々も観察され、親しげに接してくれる」と魅了されている理由を語っている。

知らないことを疑似的に得られるのがドキュメンタリーの醍醐味。演出が不要なこれぞ大自然を体感し、映し出された皇帝ペンギンの生きざまに惹きつけられ、人間たちが忘れたものも気付かされるだろう。85分間、一面に広がる南極という未知世界を彼らと一緒に旅するのである。そして、キュートさもスクリーンいっぱいに満載だ。

文 南野こずえ

『皇帝ペンギン ただいま』
(C)BONNE PIOCHE CINEMA-PAPRIKA FILMS-2016-Photo : (C)Daisy Gilardini 配給:ハピネット
8/25(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー!

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