青春はいくつになっても色あせない『世界でいちばん長い写真』レビュー
笑って、悩んで、バカやって。いつまでもこんな毎日が続くような錯覚と将来への不安で揺れる、高校生という名の儚い時。がむしゃらに何かを成し遂げようとする、大人への最後の抵抗。
『武士道シックスティーン』『ストロベリーナイト』などを手がけてきた誉田哲也の人気小説を映画化した本作は、愛知県の学校で実際におきた出来事を基にしており、冴えない少年が1台のカメラをきっかけに突き進んでいく姿を描いた群像劇。写真部という少し地味な部活をクローズアップしての描写はなかなかイメージが湧かないが、青春の1ページならぬ青春の1枚を軽やかにテンポ良く映し出しており、忘れかけていた甘酸っぱい記憶に思いを馳せずにはいられない。
写真部の副部長である高校3年生の宏伸(高杉真宙)は、部長の三好(松本穂香)から幽霊部員と言われてしまうほど消極的な性格。部に所属していながらも、ろくに作品も撮らず、だらだらとした生活を送っていた。ある日、いとこの温子(武田梨奈)が働くリサイクルショップで、大きな謎のカメラを見つける。実は世にも珍しいパノラマカメラであると知り、興味を持った宏伸は360度の景色を撮ると決心し、たどり着いたのは一面に広がるヒマワリ畑。さらには本当に撮りたいものを探し、あることに挑む――。
主役の宏伸を演じるのは、映画やドラマに引っ張りだこの人気の若手俳優・高杉真宙。『トリガール』『PとJK』など話題作に立て続けに出演し、2017年の「第9回TAMA映画賞」では最優秀新進男優賞を受賞している。高校最後の夏に本当に撮りたいものを模索するに連れて、自分自身への確信に変わるかのごとく、にじみ出るほど成長していく宏伸をさわやかに好演。スクリーン越しに思わず応援したくなるはずだ。クセのない役どころだけに、どれだけ等身大かつ違和感のない存在でいられるかがネックだが、高杉のキャスティングは素晴しい抜擢である。
やはり大人の手助けも少しは必要だ。キーマンとも呼べる天真爛漫な温子を演じるのは、武田梨奈。宏伸たちを容赦なく振り回しているようにも見えるが、彼女なりに力強く背中を押しており、なんとも頼もしい。また、物語の冒頭ではウェディングドレス姿で登場するが、結婚相手がいったい誰なのか……。温子をめぐる駆け引き(?!)も見逃せないポイントになっている。
人生の一瞬に一生をかけてみたくなる日々を、人は青春と呼ぶ。それは長い歳月を経て、かけがえのない時間だったと懐かしんでは力に変わってくれる。まだ遅くはない、青春はいくつになっても色あせないのだ。
文 南野こずえ
『世界でいちばん長い写真』
配給:スターキャット/キャンター
(C) 2018 映画「世界でいちばん長い写真」製作委員会
2018年6月23日(土) シネ・リーブル池袋・イオンシネマ全国順次ロードショー!