笑顔はいつしか、真顔になる『ザ・スクエア 思いやりの聖域』レビュー



前作『フレンチアルプスで起きたこと』で、ある瞬間露呈する人間の本性を描き、観客を身につませたスウェーデンの名匠リューベン・オストルンド監督の最新作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』が間もなく公開される。
本作は「第70回カンヌ国際映画祭」で最高賞のパルムドールを受賞し、各国の映画祭を席巻、「第90回アカデミー賞」外国語映画賞にもノミネートされるなど、各所から絶賛を浴びた、またも問題作である。

前作とは異なるアプローチで人間の本性を暴き出す本作の主人公は、現代美術館のキュレーター、クリスティアン(クレス・バング)。洗練されたファッションとスマートな身のこなし、バツイチだが二人の愛する娘をもつ自他共に認めるエリートだ。目下次回の展示会の準備に力を入れており、展覧会の目玉となるのは「ザ・スクエア」という地面に四角を描いた作品だ。
作品のテーマは「この中では誰もが平等の権利をもち、この中で人が困っていたら、誰であれ手助けをしなくてはならない」というもの。現代社会における個人主義の増大や、貧富の格差への啓発のメッセージを込めた作品だ。

ある日、財布と携帯を盗まれたクリスティアンはGPS機能を使い犯人の住むマンションを特定し、脅迫状めいたビラをマンション中に配り、返却するよう要求する。おかげで無事に財布と携帯は戻ってきた。
他方、展覧会の宣伝を請け負うPR会社は、あえて作品テーマと相反する動画を流し、炎上させることで情報の拡散を目論む。動画は予想通り注目を集めるが、世間に激しい論争と怒りを巻き起こし、クリスティアンを追い詰める事態となってゆく。
さらに、クリスティアンに泥棒扱いされたと激怒する少年が現れるが…。

美術館や現代アート、社会へのメッセージ、そんなモチーフに小難しい作品だと思い込まないで欲しい。ただ何も構えずに鑑賞すればいい。そこで感じる「違和感」こそが、本作の醍醐味なのだから。
「思いやりと信頼」がテーマの作品をプロデュースするクリスティアンが取る利己的な行動への違和感。街に蔓延するホームレスは、存在をそのままに、弱者の象徴として展覧会のPRに利用されるという違和感。自然な感情の「思いやり」が額縁に入れたアートとして形骸化する違和感…。

クリスティアンは形骸化を生きる人間の代表のようだ。形ばかりの思いやりに囚われ、身近な人々への配慮を欠く本末転倒ぶりは、美しい理想通りに生きること、自らを省みることがいかに困難であるかを思い知らせてくる。
個としての人間を表すのがクリスティアンならば、集団としての人間を象徴するのが炎上狙いの宣伝動画を製作したPR会社と、それを意気揚々と叩くマスメディアだ。涼しい顔をして、私達は日々とんでもなく誰かを傷つける。クリスティアンの不格好さや矛盾は苛立ちと苦笑をもたらすけれど、それは誰もが見に覚えのある本性なのだとハッとすると、そのまま笑ってはいられないのである。恐るべし、オストルンド監督。

クリスティアン役のデンマークの俳優クレス・バングは本作でブレイクし、『ドラゴン・タトゥーの女』の続編への出演が決定している。共演にはアメリカの女優エリザベス・モス、『トゥームレイダー ファーストミッション』などの俳優ドミニク・ウエスト、モンキー・パフォーマー役に『猿の惑星』でモーション・キャプチャーを務めたテリー・ノタリー(彼の出演シーンは最必見!)と、個性的で毒の利いたキャストが揃っている。

苦笑のち、ハッとして冷や汗。これぞまず、観るべき問題作だ。

文 小林サク

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
監督・脚本:リューベン・オストルンド『フレンチアルプスで起きたこと』
出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー他 2017年 / スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク合作 / 英語、スウェーデン語 / 151分 / DCP / カラー / ビスタ / 5.1ch / 原題:THE SQUARE/日本語字幕:石田泰子 後援:スウェーデン大使館、デンマーク大使館 配給:トランスフォーマー
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