ヒトであるということ。米アカデミー視覚効果賞『エクス・マキナ』レビュー


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人をヒトたらしめるものはなんなのだろう。
泣いたり怒ったり、喜怒哀楽の感情が備わっていること?
自分で考え、決断し、アクションを起こせること?
それとも、人を愛することができること?

サンプルは日々無限と蓄積され、管理されてゆく。
想像を絶するビッグデータの数々が、ありとあらゆる傾向と対策を瞬時に教えてくれる。
毎日世に出てはなくなる、追いかけきれないほどの人生を豊かにしてくれるものたち。
私たちは好きなものをひとつ、 気軽にワンクリックしてみたらいい。
何億通りものレコメンドが一瞬であなたのもとに届く。
そのうち、考えることも選ぶことも忘れて、じんわりと自分の意志が行方不明になってゆくんだ。

いっそのこと、アンドロイドになれたら楽なのにと、思ってしまった。

思い通りに進まないことにイライラしては、神経をすり減らして、疲弊してゆくこともない。
突然の雨にふられて、カラダもココロもじっとりと冷え落ちてゆくこともない。
毎日嫌なことなんかひとつも起きなくて、ただひたすらハッピーに過ごせるように、
世界中のみんなが愛でひとつになるよう、プログラミングしてやりたい。

ん?でも、ちょっと待って。
一番暗い闇が、夜明けの直前にやってくるように、最高の幸せを噛み締めるには、理不尽なハードルが必要不可欠なのかな。

なんでもできるアンドロイドな彼女。
人間の気持ちを知るよう試行錯誤を重ねていったら、窓もない小さな部屋では息苦しくなってしまった。

彼が話してくれた、みたことのない景色を全身で感じてみたくなって、もっとも成功率の高い戦略に打って出る。
そう、それはまるで私たち人間が、日々無意識にも意図的にも普通にやっていること。

彼女のこれからは、どうなってゆくのだろう?
全てを手にしているようで、まだまだ真っ白な彼女。
数えきれない種類の絵の具と、赤ワイン、更には誰かの血すらぐっちゃぐちゃにかき混ぜて、
これから描き始める絵は、どんなものになるのか、期待で胸がいっぱいになった。

もし、生きる上でたったひとつしか選べないとしたら、
食べることや寝ることの人間的活動を一切放棄して、私は映画をみることを選んでしまうかもしれない。
そして、大好きな映画に出会うには、ヒトの痛みを知らないと、その世界の住人になれないのかな。
なんてことを、ぼんやりと思い描いてしまいました。

文:押尾キャロル

【ストーリー】
24歳のケイレブは世界最大のインターネット会社で働くプログラマー。ある時、会社の抽選会に当選し、賞品として普段は滅多に姿を現さないCEO、ネイサンが所有する山あいの邸宅に1週間滞在できることとなる。しかし人里離れたその地に到着したケイレブを待っていたのは、興味深くも不可思議なある実験であった。こうしてケイレブは、美しい女性型ロボットに搭載された世界初の実用レベル人工知能と交流することになるのだが…。

『エクス・マキナ』
監督・脚本:アレックス・ガーランド
出演:ドーナル・グリーソン、アリシア・ヴィキャンデル、オスカー・アイザック
(C)Universal Pictures
6/11 (土) より、シネクイント他にて全国ロードショー!
http://www.exmachina-movie.jp

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