戦友(とも)よ、お前の為ならば! 『ドラゴン・ブレイド』レビュー


ドラゴン・ブレイド_メイン

中国甘粛省河西回廊の東部にある金昌市内、永昌県焦家荘驪靬村に高さ4m、底幅4m、長さ30mの古代城壁がある。『驪靬』はLiquan、Li-ganなど様々な発音で読まれるそうだが、“Regum”の字を当てると特別な意味を持つ。Regumは、“王たち”を表すラテン語なのだ。
驪靬古城遺跡と古代ローマとの関係性は、1950年代にオックスフォード大学・中国歴史専門家ホーマー・H・ダブス教授が指摘している。紀元前53年、パルティア軍に敗れたローマ軍第一軍隊がローマに戻らず神秘的に失踪したと伝えられている“カルラエの戦い”。ダブス教授は、失踪したローマ軍は東へ進む際に匈奴(フン族)に捕まり、紀元前36年に驪靬村に定住したとの説を発表した。
発表当時は注目されなかったダブス教授の新説だが、2006年に中国で報道されたことで俄然脚光を浴びることになった。研究が進められ、甘粛省金昌市永昌県者来寨(しゃらいさい)村の村民の約3分の2がコーカソイド(白人)の遺伝子を持っていることが判明したのだ。

悠久なる刻を越えて、シルクロードの砂漠に埋もれた壮大な歴史のミッシング・リンクが今、紐解かれる――『三国志』(2008年)『処刑剣 14 BLADES』(2010年)を手掛けた名匠ダニエル・リー監督入魂のスペクタクル巨編『ドラゴン・ブレイド』、タッグを組むのはご存知我らが大哥“成龍”ジャッキー・チェンだ!

主演・製作・製作総指揮・主題歌、そして勿論アクション監督と、今作も5役をこなすジャッキー・チェンのこと、アクションシーンが素晴らしいのは言わずもがななので、余り触れたくないのだが……とにかく凄いので、やはり言及せざるを得ない。個、集団、演武、乱戦、一騎打ち……どれもこれも、名場面のオンパレードなのだ。
ジャッキー・チェン扮するフォ・アン(霍安)率いる西域警備隊が持つ剣が、とにかく格好いい。長穂剣(ちょうすいけん)の型を応用したトリッキーな動きは必見である。剣の柄の一部を外し、手甲に装着する――誰もが「やってみたい!」と心を奪われる、小粋なガジェットだ。
また、対決の場面では相手役を務める共演陣にも注目を。ムーン(冷月)役のリン・ポン(林鵬)は、ジャッキー作品の常連として、堂々の体を張った熱演を見せる。『マルコヴィッチの穴』(監督:スパイク・ジョーンズ/1999年)『推理作家ポー 最期の5日間』(監督:ジェームス・マクティーグ/2012年)のジョン・キューザックは、今作の為にマーシャルアーツ、キックボクシング、剣術などを鍛練し、“ローマ軍最強の戦士”ルシウスを見事演じきった。
そして、『シン・レッド・ライン』(監督:テレンス・マリック/1998年)『戦場のピアニスト』(監督:ロマン・ポランスキー/2002年)のエイドリアン・ブロディが演じるティベリウスに、是非とも注目を!意外にもカンフー映画マニアを自認するブロディは、驚愕のアクションを見せ、悪役として圧倒的な存在感をこれでもかと見せつける。

アクションが見逃せない『ドラゴン・ブレイド』であるが、実は単なるエンターテイメント大作ではない。“友情”と“博愛”、そして“平和”と言うテーマを内包しているのだ。その象徴としての存在が、ウィリアム・フォン(馮紹峰)扮するフォ・アンの育ての親・フォ将軍と、ジョゼフ・リュウ・ウエイト(西蒙子)扮するルシウスの主・プブリウスである。
フォ(霍去病)将軍は、前漢・武帝の時代に匈奴征伐で名を上げ大司馬まで昇り詰めたものの24歳で夭逝した悲運の将。プブリウス・リキニウス・クラッススは、ローマ帝政の基礎を築いたユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)飛躍の切っ掛けになった“第一回三頭政治”の一翼を担う元老院議員・クラッススの実子で、“若きクラッスス”とカエサルに呼ばれた有能な軍人。共に実在の人物で、物語に大いなる説得力を齎す存在である。
ダニエル・リー監督が、霍将軍とプブリウスに託した、国、人種、民族を越えた“絆”をどうか見逃さないでいただきたい。

そしてもう一つ、忘れてはいけない存在が『ドラゴン・ブレイド』にはあるのだ。是非とも、防具に注目して欲しい。
西域警備隊が装備する籠手、ローマ軍の強さを支えるタワーシールド――“盾”の存在は、勝敗をも左右するのである。

右肩に輝く“護”の一文字――“護る者”の強さ、然とその眼に焼き付けよ!

文 高橋アツシ

『ドラゴン・ブレイド』
2月12日(金)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかロードショー
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