『みんなのアムステルダム国立美術館へ』レビュー
レンブラントの「夜警」、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」などの名画や多数の美術品を所蔵する、アムステルダム国立美術館。100年以上の歴史をもつ、オランダが世界に誇る名美術館だ。
2004年、改修のために美術館は閉館。2008年の再開を目指し、工事が始まった。これは、アムステルダム国立美術館が再びオープンするまでを追ったドキュメンタリーである……
と言うと、「えー、美術なんて興味ない。つまんなさそう。」と思う人がいるはず!
いやいや、美術館のドキュメンタリーだからと、身構えることなかれ。
美術そのものより改修工事に携わる人々の泣き笑いに重点を置いた、とても愉快でウィットに富んだ作品なのだ。
張り切って改修工事にとりかかったものの、大問題が発生する。自転車大国オランダには、自転車をこよなく愛するサイクリストたちがワンサカいる。改修後の美術館のエントランスは、自転車が通りにくい構造で、これにサイクリストたちが猛抗議。行政を巻き込んだ大騒動へと発展し、エントランスのデザインは却下されてしまったのだ。
美術館側は館長のロナルド・デ・レーウを筆頭に解決を図るが、事態は全く好転しない。2008年どころか、再開の目処が全く立たない不毛な年月が始まるのだったー。
カメラがあると取り澄ましてしまいそうだが、登場人物たちは誰もが本音をぶちまけ、あけすけなぶっちゃけっぷりがたまらなく面白い。
状況打開のため、エントランスのデザイン変更を検討する美術館側に、今度は建築家チームが不満顔。
「ウチはあのデザインでコンペに勝ったのに、却下されるなんて!」
美術館:「そんなこと言ったって、サイクリストが反対するから変えなきゃいけないだろーっ?」
サイクリスト:「いいから自転車が通りやすくしろ!」
とまあ、あっちでもこっちでもイライラが発生する。誰もがそれぞれの立場で主張し合い必死なのだけど、悲壮感は無く、むしろクスッとさせられる。
気づけば閉館から4年の月日が流れた2008年、進まぬ事態と度重なる妥協に疲労した館長ロナルド・デ・レーウが退任を発表する。やり手のヴィム・パイベスが新館長に就任、好転の兆しが見えたと思いきや、ヴィムが却下されたエントランス案を再検討し始めてしまう。
「ま、またか……」
再びカオスに陥った現場に追い討ちをかけるように、入札の不調、内装担当のフランス・ウィルモット社との意見の食い違いなど更なる問題が降りかかる。トラブルばかりが目立つが、しかしその裏で、美術館スタッフは着々と努力を重ねていた。
学芸員はコレクションの展示に熱い想いを抱き、新設されるアジア館の部長は日本の金剛力士像を新たに所蔵品に加えるべく奔走する。彼らからはもう美術品、美術館への深い愛が溢れまくっているのだ。忘れてはならない、作品の修復チームや、美術館の全てを知りつくし「美術館は女房」と豪語する管理人まで、表と裏で美術館を支えるあらゆる人の思いを乗せ、息切れしながら、転びながらも、改修工事は少しずつ進む。
多様な立場・意見・感情のぶつかり、せめぎあいが再開を遅らせたのは確かだけれど、それは誰もが美術館に愛着と関心をもち、「みんな」で作り上げたことに他ならない。何だかちょっと、アムステルダム市民が羨ましくなってしまう。
長い長い10年を経て、大団円と呼ぶにふさわしいラストシーンに辿り着くまで、決して見逃せない。
さあ、みんなのアムステルダム国立美術館へようこそ!
文・小林麻子
『みんなのアムステルダム国立美術館へ』
監督:ウケ・ホーヘンダイク
2014年/オランダ/カラー/97分/オランダ語・英語/DCP/日本語字幕:松岡葉子 配給:ユーロスペース
©2014 Column Film BV
公式サイト http://amsmuseum.jp/
12月20日(土)より渋谷・ユーロスペースにて公開 他全国順次