キラ星 集める“山戸銀河”『5つ数えれば君の夢』鑑賞記


キラ星 集める“山戸銀河” --『5つ数えれば君の夢』鑑賞記--

「今回は、主演のボーカル&ダンスグループ『東京女子流』さんがありきで始まった、ちょっと特殊な企画なんですよね」yamato

2014年4月13日、名古屋シネマスコーレ。舞台挨拶で壇上に立った直井卓俊プロデューサー(SPOTTED PRODUCTIONS代表)は、映画『5つ数えれば君の夢』のことをこう述懐した。

「そうですね…今回は自分にとって初めての商業映画だったんですけれども…」

話を受けた山戸結希監督は、マイクを両手で持った。

山戸「『東京女子流』さん5人を主役にすること以外は何も言われなくて…本当に「こんなに自由にやっていいのか?」って言うくらいやらせていただきました。予算的に学園物は出来ないって言われてたんですけれど、もう“SPOTTED魂”で(場内爆笑)」

直井「…よくわかんない魂が(笑)」

主演を務める東京女子流と言う星々を繋いでも、五芒星(ペンタグラム)には成らない。綺羅星の如く輝く彼女たちから放たれた光は、規則正しくお互いを目指す訳ではない。そもそも、直線ですらない。5本の光線は、時に交差し、時に遠ざかり、時に並行し……奇妙な星座と成り、観る者を幻惑する。

山戸「凄くスタッフさんにも恵まれて撮らせていただけたなと言う感じでしたね。すみれちゃんはもう大人なのに、(『5つ数えれば君の夢』劇中で)立派に高校生として(場内爆笑)…」

山戸監督は、もう一人の登壇者に話を向けた。山戸監督作品には欠かせない学生時代からの“盟友”、女優の上埜すみれさんである。

上埜「…リアルJKの中で(笑)」

直井「高校生と言えば、その(上埜さん着用の)制服…」

上埜「はい」

直井「映画用に、FELISSIMO(フェリシモ)さんと言うブランドが、オリジナルで作ってくれた制服で。映画の中で凄く印象的でしたが、監督どうですか、この衣装は?」

山戸「これ…いつの間にか、発売まで…」

直井「そうなんですよ。9800円で、haco.(ハコ)と言う雑誌で通販が(場内笑)」

山戸「FELISSIMOの方が凄い熱心に作ってくださって…そのお陰で「制服が可愛い!」って女の子の間でも勝手に広がって…。本当に、熱意のある方に係わっていただくと、予期せぬことがたくさん起こるんだなと思って(場内爆笑)…あれ、ここ笑うとこですか!?(笑)」

直井「本当、驚きましたよね。Twitterとかのリアクションも凄くて…5,000リツイートとかされてて…。映画とは違うところで、凄い話題になって」

山戸「皆さん、是非…あ、男性の方が多いんですけど…プレゼントに、是非(場内爆笑)」

都(小西彩乃)は、習い事に身が入らない。楽譜がなければ、弾ける曲はひとつしかない。
委員長(中江友梨)は、届かない背中から目が離せない。幼い頃から、縛られ続けている。
宇佐美(庄司芽生)は、鳴らないスマホを手放せない。常に相応しさを求め、渇望している。
りこ(新井ひとみ)は、空気が読めない。身体性と精神性との距離感に、戸惑い続ける。
さく(山邊未夢)は、自分が分からない。因果と応報の狭間で、ひとり膝を抱えている。
「5つ数えれば“君”の夢」が見られる程の想いに身を焦がしながら、少女たちは陰鬱で煌びやかな日常を、重苦しく軽やかな足取りで、這い蹲って駆け抜けてゆく。

直井「監督…だと、言いづらいかも知れないんで…上埜さん、作品の見所などを」

上埜「いや…多分、結希さんも色々喋ると思うんで(笑)。私はミスコン委員で最後チラッと出てるんですけど、それ以外でも女子高生役として女子流さんの後ろの方とかにボヤボヤっと出てるので(場内笑)…隠れミッキーを探す感じで見つけていただけたら嬉しいです(笑)」

山戸「きっと、すみれちゃんが出すぎてて気が散ると思います(場内爆笑)…端っこで、凄く存在感を主張してくる人だから(笑)」

直井「(笑)…じゃあ、監督からも、作品の見所を」

山戸「今回1個だけのお題が、逆に凄い特殊で…5人主人公ってことで…。観終わった時、皆が魅力的な映画になっててほしいと思うんです。なので、是非5人に注目しつつ…“ウォーリーをさがせ”的に(場内笑)楽しんでいただくと、本当に嬉しいです」

東京女子流の5人の中に、『あの娘が海辺で踊ってる』の“舞子”が、“ホトケの菅原”が居る。のみならず『Her Res』の“みなみ”も居れば、『おとぎ話みたい』の“しほ”も、果ては『映画バンもん!』の“みさこ”と“かっちゃん”まで居る。山戸結希監督の商業デビュー作は、驚くべきことに過去作の集大成なのだ。
これは、山戸監督が一貫して描き続けた“少女”への訣別を意味するのか。はたまた、深化への試金石なのか。それは、次作を待たねばならないだろう。山戸作品は、毎回のことながら本当に目が回る。

直井「最後に、一言ずつどうぞ」

上埜「愛知に来たのは、去年の9月…『あの娘が海辺で踊ってる』・『Her Res』・『映画バンもん!』の上映があった「あいち国際女性映画祭」ぶりなので、嬉しいです。名古屋の美味しいものを食べて帰ります(場内笑)」

山戸「私は愛知県出身と言うことで、シネマスコーレみたいな素敵な劇場で、しかもジュンジさん(記者注:シネマスコーレ木全純治支配人)(場内爆笑)のご英断で、最初からロングランでやっていただける…月並みですが、本当に感謝の気持ちで一杯です。地元にこんなセンス溢れる映画館が在るってことが、本当に嬉しいです。今日は是非楽しまれて行ってください。本当にありがとうございます」
※画像:山戸結希監督、 “ジュンジさん”(木全純治支配人)、 上埜すみれ

“愛知”とは即ち、「知を愛す」……“哲学”と同義語である。愛知で生を受けた山戸結希が哲学を学んだのは、当然の成り行きなのかも知れない。哲学者が映画と言う方法論を身に就けた時、表現は群星の如く大きな光量を持つに至った。
スクリーンから放たれた五色の光は、観客の眼に耳に脳髄に深い爪痕を残し、銀幕へと還っていく。少女たちが帰還した星の巣は、星雲(ネビュラ)と呼ぶのが相応しいほどの光の集積体となる。私たち観測者は、こうしてまた山戸結希と言う銀河から目を反らせなくなるのだ。

取材 高橋アツシ

『5つ数えれば君の夢』 公式サイトhttp://5yume.jp/

 

記事が気に入ったらいいね !
最新情報をお届け!

最新情報をTwitter で