尾張ナゴヤに、震動はしる!!-ぴあフィルムフェスティバルin名古屋2013


sindo尾張ナゴヤに、震動はしる!!
--ぴあフィルムフェスティバルin名古屋 2013--

ぴあフィルムフェスティバル。新たなクリエイターの登竜門としてすっかり定着したPFFアワード(コンペティション)を、毎年楽しみにしている映画ファンは多い。東京開催から遅れること2ヵ月弱、11/12(火)~18(日)愛知芸術文化センターに詰めかけた観客の投票により、PFFアワード2013名古屋賞が決定した。

ノミネート作品は、今回も実に多彩だった。

閉塞感溢れる日常から弱々しくも手を伸ばす“家族”の物語『それからの子供』(加藤拓人監督)
日本でしか創りえないシニカルなユーモア満載のゾンビ映画『Living with the Dead』(富樫 渉監督)
シュールな会話と拘りの設定がスパークする新感覚お伽草紙『山守クリップ工場の辺り』(池田 暁監督)
疾走する青春が映画的文法をも突き抜ける痛快ロードムービー『夜とケイゴカー』(市川悠輔監督)

…ちょっと書き切れないほどである。

しかし、そんな強豪を抑えて名古屋賞を獲った作品には、納得の結果と思う他なかった。
平野朝美監督作品、『震動』である。sindo_sub2

作品情報に目を通した第一印象は、正直言って決して好いものではなかった。青春映画なのに、そこに障がい者問題や、養護施設問題を取りあげている。自主作品にありがちな、独り善がりの“盛り過ぎ映画”を予想した。だが、それが愚かな思い込みであることに、記者は存分に思い知らされることとなった。
…そう、まさにそれこそが独善的な先入観であることに。

施設で暮らす高校生・春樹(川籠石 駿平)は、アルバイトに明け暮れている。卒業したら同じ施設の“家族”と慕う直(北 香那)と一緒に暮らすため、資金を貯めているのだ。ひょんな(本当に!)理由でクラスメイトからバンドのメンバーに勧誘された日から、ハルキの、ナオの日常が変わり始める。出演者の瑞々しい演技に、とにかく魅了されるはずである。

松永拓野さん(町田役)「準備期間が非常に長くて…半年以上あったんですが、その間、みんな役作りしていました。長い時間を掛けたからこそ、共演者もお互いのことをどんどん知れて、楽しく演れて凄く良い時間になったかな、と…そう思ってます」

舞台挨拶で登壇した松永さんは、こう言った。彼が演じたマチダは、ハルキのみならず観客の心をも覆っていた分厚い偏見の壁を痛快に壊してみせた。

小川ゲンさん(洋輔役)「楽器が弾ける訳ではなかったので、何とかそれらしく見えるよう、ずっと練習してました。それでも、ライブハウスで撮影した時には物凄い快感で…とにかく楽しかったのを憶えています」

壇上で小川さんは、はにかむように笑った。距離を置いていたヨウスケが主人公と徐々に近付く様子は、観客と映画との距離をも近付ける繊細な演技であった。

『震動』の素晴らしさは、出演陣の熱演だけではない。繊細で緻密な脚本と、シナリオの佳さを最大限引き出す爽やかでダイナミックな演出にある。脚本も兼ねる平野朝美氏は、長編映画の監督は『震動』が初めてなのだそうだ。何故これほどまでの作品を産み出せたのか…その要因の一側面も、出演者の舞台挨拶で垣間見ることができた。

九太朗さん(菅原役)「『震動』は群馬県の中之条町と言う所でやっているシナリオコンテストのグランプリ作品なんですが、そのコンテストはルールがありまして…。グランプリを獲ったシナリオは、脚本家自らが監督して翌年のシナリオコンクールで発表しなきゃいけない…それをすると、支援金が出る…そう言う映画祭なんです」sindo_sub1

なるほど…『震動』は、自らの手で作品化すること前提でシナリオコンクールに出品した脚本だった、と。 作品全体を覆い尽くす“熱量”は、シナリオ誕生の時から既に身に纏っていたのだ。

話題に上った“シナリオコンクール”を調べてみると、『伊参スタジオ映画祭』のことだと分かった。2013年は11月23・24日の開催だそうなので、気になった方は足を運んでみては如何だろう。

ちなみにこの『震動』、「余りにも佳く出来すぎているから」との理由で他作品に投票した観客を、二人ほど知っている。そんなハンデ(?)を物ともしない、堂々の名古屋賞獲得である。変則開催だったため同時に発表されたアワード2012名古屋賞『かしこい狗は、吠えずに笑う』と併せ、自主制作映画からは本当に目が離せない。

ぴあフィルムフェスティバルは、今後、京都・神戸・福岡と全国を巡る。『震動』をはじめ佳作・快作が綺羅星の如く並ぶPFFアワード作品は、観逃すと下手すれば二度と鑑賞できないので、万難排して会場へ足を運んでほしい。そして、貴方好みの一本を見付けて、“ご当地アワード”に投票してほしい。

軽やかに独歩するインディペンデント映画は、観客の先入観を易々と踏み越えていく…否、踏み越えてくる。これからも観続けていきたいと思う…広い視野と、軽やかな視点をもって。

取材:高橋アツシ

『震動』
キャスト:川籠石 駿平、北 香那、松永 拓野、九太朗、小川 弦、金子 祐史、近藤 真彩 監督:平野 朝美

監督:平野 朝美  1984年東京生まれ。
大学文学部卒業後、出版社に勤務する傍ら、ENBUゼミナール夜間監督コースで一年間映像制作の基礎を学ぶ。
2009年『ヒーローはいつも眠っている』(脚本)伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞にて審査員奨励賞。
2010年『閃光』(脚本・監督)仙台短篇映画祭ノミネート。
2011年『震動』(脚本)伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞にて大賞。
2013年『震動』(脚本・監督)SKIPシティ国際Dシネマ映画祭ノミネート、ぴあフィルムフェスティバル映画ファン賞/名古屋賞、Raindance film festival招待。
2014年『ヒーローはいつも眠っている』(脚本)CTC地上波ドラマ上映予定。

『ぴあフィルムフェスティバル』公式HP:http://pff.jp/35th/index.html
『伊参スタジオ映画祭』公式HP:http://www8.wind.ne.jp/isama-cinema/

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