_11204432016年10月29日(土)、朝から【名駅西TSUBAKIフェスタ2016】で沸く名古屋駅・太閤通口界隈で、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)にも黒山の人だかりが出来た。
この日は【第13回 伊参(いさま)スタジオ映画祭】《シナリオ大賞》を受賞し【あいち国際女性映画祭2015】《金のコノハヅク賞》の栄冠に輝いた『彦とベガ』(2014年/64分)の公開初日で、谷口未央監督と、主人公・比古朝雄役の川津祐介さんが登壇したのだ。

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_1120417MC. そもそも、この作品を作ろうと思った切っ掛けは、何だったんですか?(司会進行:涼夏)
谷口未央監督 私は介護士をやっていまして、認知症の方とも毎日接しています。ご家族の方には中々難しいかもしれませんが、介護士は認知症であるということをまず肯定するところから入ります。“認知症、良いじゃない”というスタンスじゃないと、仕事ができないです。そんな中で、認知症の方の問題行動といわれるものは、私たちは“きらめき”として見ることが多いんです。「この人は、今なんて輝いているんだろう。きらめいているんだろう」と思うことが毎日、毎瞬間ありまして、これを映画としてどう撮れるかなと考えて書いたシナリオが『彦とベガ』です。【伊参スタジオ映画祭】のシナリオコンペに応募するために書いていた脚本で、中々上手く進まない時に川津さんのトークショーを観に行ったんです。元々ファンということもあるんですけど、川津祐介さんという俳優さんは、今も見た目がお美しい、素晴らしい声をされている、未だに衰えていない……観させていただいて、この方はまだまだ映画の中で活躍される方なんだと思いました。その時、書いている脚本を川津さんで当て書きしたら進むんじゃないかと思ったんですね。川津さんが演じてくださったなら“比古朝雄”はどうなるんだろうと思い書き上げた脚本が、伊参でグランプリを獲りまして……断られても仕方ないと思いながら川津さんにオファーしないと次に進めなかったので、ダメ元でお話させていただいたところ、川津さんが一生懸命考えてくださって、最終的に出演していただけるという奇蹟のようなキャスティングが出来ました。

_1120422MC. 川津さん、監督からお話があった時、如何でしたか?
川津祐介 まず最初にお会いした時、「なんて可愛い女の子なんだろう」と思いました(場内笑)。映画を撮りたい人……とにかく映画が好きな方なんですね。私の作品も、何本も観てくださってて。
MC. 監督は、最初にお会いした時に、脚本をお渡ししたとか?
谷口監督 そうです。事務所さんにお送りするのが本来の筋なんですけど、それでは中々私のこの熱い想いは伝わらないと思いまして。川津さんのまた別のトークショーをもう一度観させていただいたんですけど、もう素晴らしいんですよ。ライトの下の川津さんは、これは変な言い方ですが、まず素材として素晴らしいんですね。「これは、やはりカメラを向けたい」ということを確認した上で、お客様をお見送りする川津さんに脚本と企画書を持っていきました。
MC. 脚本をお読みになられて、どうでした?
川津 介護ということに関しての見方が、ちょっと違うかなと思うところもありました。と言うのも、実は私の妻は10年ほど前に脳梗塞になり、半身が動かなくなり、言葉も聴き取るのが難しい状態になりました。とても困りましたけど、それを神さまから頂いた機会だと思ったんです。この方と暮すためにそれまでの人生があったのかなと思う中で、何にも出来なくても「(あなたが)大事です」と、役に立たなくても愛することは出来るという実践をしたいと思ったんですね。今は動きすぎるくらい動く人になりまして、喋りすぎるかなって思うくらい喋れる人になりました。今日も、客席に来ています(笑)。監督の脚本を読んで、もしかしたらそのことを皆さんに知ってもらうチャンスかと思ったんです。監督の考えとは違う動きになることもあって、現場では火花を散らすことになったんですが(笑)。有り難い時代だと思ったんですが、35mm(フィルム)の頃はリテイクするだけで何十万も掛かるからやってもらえなかったんですけど……今は、「押さえでこの演技も一つ撮っといて」ってことが出来るんですね。今回も、全編ではないですが、2パターン撮ってもらったところが幾つかあります。

介護職の現場に身を置く谷口監督が「ご家族の方には中々難しい」と表現したのが正に言い得て妙で、介護士と被介護者の家族では考え方、感じ方に違いが生じるものなのであろう。それは実際の介護を経験しているお二人だからこその魂の篭もった感情であり、そんな意見の相違を磨り合わせることが質の高いケアを生むのかも知れない。
現に、そんな二人が火花を散らせることによって、『彦とベガ』はこんなにも愛される作品となったのだ。

_1120410谷口監督 “お風呂のシーン”を一番好きな場面に挙げてくださる方も多いんですが、それを聞くと「ああ、私の負けだ」と思ってたんです。あの場面は、ほとんど川津さんがやりたいということをやってもらってるシーンなんです。私は、「そんなにやってくれるな」って言っていて(場内笑)。でも、川津さんは聞く耳を持たない訳ではなく、私の言っていることも一生懸命考えてくださって、川津さん自身の表現したい部分と合わせたちょうど良いところを残して頂いたんだろうなと思ってます。なので、今では良いシーンだと私も思っています。
川津 勝ち負けじゃないんだよ、未央さん。……未央さん、大好きだよ(笑)!『彦とベガ』は、全てに大切だっていう願いが篭もっていて、それがスパークした作品だと私は感じているんです。「大切だよ」って台詞を言いたかったけれど脚本に書いてなかったから、行動に込めたんです。戦いじゃないので、私は勝ったとは思っていませんよ。勝ったのは、監督です。映画は、監督の作品ですから。

そんな磨り合わせの結果、皆に愛される屈指の名シーンが生まれた……“スパークした”のだ。
そして、この会話のキャッチボールで、お二人の間の空気が更に温かみを増したように感じた。

谷口監督 この映画は、インターネットなどでは中々広がらないと思います。お友達や周りの方に口でお伝えいただいて、沢山の方に観ていただく機会を作っていただければ本当に嬉しいです。

_1120434そう言って舞台で深く一礼した言葉通り、上映後のサイン会では、谷口監督も川津祐介さんも、観客一人ひとりの言葉に耳を傾け、丹念に受け答えをされていた。

名古屋での上映が始まったばかりの『彦とベガ』は、今後シネ・ヌーヴォ(大阪市 西区)、ガーデンズシネマ(鹿児島市 呉服町)と、全国での公開が拡大していく。
谷口未央監督が語る“老いのきらめき”を、是非お近くの劇場で感じてほしい。
観る者がいて初めて完成するのが映画であり、観客が感じてこそ作品の化学反応……“スパーク”がある。
それぞ正しく、『彦とベガ』がいうところの“白い闇”なのだ――。

取材:高橋アツシ

『彦とベガ』公式サイトhttp://hiko-vega.com

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