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「僕にとっての原恵一監督の“原点”は、『河童のクゥと夏休み』でした。2007年7月28日に――はっきり憶えてるんですが――初めて観て、「子供向けアニメなのに、何でこんなに突き刺さるような作風なんだろう?」って思って……自分の中でショックを受けて、5年くらい観返せなかったんですよ」

【モーレツ!原恵一映画祭 in 名古屋】主催者の一人・高橋義文は、こう言って笑った。

柴田英史、高橋義文と言う一介の映画ファンが立ち上げた【モーレツ!原恵一映画祭 in 名古屋】。二人の“映画愛”のみを武器として、アニメーション界……否、日本映画界の至宝である原 恵一監督ご本人を招聘した【第1回】から10ヶ月、早くも【第2回】が開催されることとなった。

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2015年12月19日、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)には滅多に観ることの出来ない貴重な作品を鑑賞しようと、大勢の映画ファンが列を作った。
【第2回 モーレツ!原恵一映画祭 in 名古屋】上映作品は、『エスパー魔美』(原作:藤子・F・不二雄)。テレビシリーズから、『たんぽぽのコーヒー』(第54話・1988年5月/23分/演出・絵コンテ:原 恵一)、『俺たち TONBI』(第96話・1989年4月/23分/演出・脚本・絵コンテ:原 恵一)、そして劇場版『エスパー魔美 星空のダンシングドール』(1988年3月/41分/監督:原 恵一)である。『星空のダンシングドール』は、なんと35mmフィルム上映なのだ。
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上映後10分間のインターミッションを挟み、柴田・高橋【モーレツ!原恵一映画祭】主催者トークは40分間会場を大いに盛り上げた。
発言内容を抜粋するので、是非とも作品の一端に触れていただきたい。

『たんぽぽのコーヒー』について
柴田「サブタイトルが出た後、パパと魔美が車の前で準備してる場面と高畑さんとで3~4回カットバックするんですよね……この回の演出は違うぞ!と言う意気込みを感じます。僕はちょっと個人的に“食べ物を粗末にする”シーンはダメなんですけど(苦笑)……あれは多分、原監督の“便利を否定する”姿勢なんですよね」
高橋「『オトナ帝国』(『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』2001年)も、そうでしたもんね……便利じゃなくてもいいじゃないか!って(笑)。それを言ったら、魔美の超能力もそうなんですよ。便利が良い訳じゃないって姿勢が貫かれてる気がします」
柴田「でも、僕が“明彦”の立場だったら、嫌だなあ……だって、無理矢理連れて来られて……」
高橋「それはね、続編を観なさい(笑)……続きがあるから。明彦くん、本当に成長してるんで(笑)」

『俺たち TONBI』について
柴田「最初観た時に、『魔女の宅急便』(監督:宮崎 駿/1989年7月)だ!って思ったんです(笑)」
高橋「『魔女の宅急便』では、“トンボ”が人力飛行機を漕ぐから……」
柴田「そうそう。「“魔法”で助けてやろう」みたいなところも……あ!と思って(笑)」
高橋「でも、こっち(『俺たち TONBI』)の方が、先ですよ(場内笑)」
柴田「桜の花弁が効果的に使われてますよね。絵コンテを同時に考えないと出来ないような」
高橋「結構『エスパー魔美』の中で、桜が重要なアイテムで使われてる回はあるんですよね。本郷みつる監督の演出回ですが、『サスペンスゲーム』(71話)とか」

『星空のダンシングドール』について
柴田「名古屋での上映って、中々ないと思うんです。一回目の【モーレツ!原恵一映画祭 in 名古屋】の時に、リクエストが凄く多かったんです」
高橋「色んな洋服に変わっていくオープニングから、劇中も物語に合わせた衣装で、とっても華やかですよね」
柴田「オープニング終わって、上から回転しながら一気に魔美に寄って目の前で止まるカメラワーク……描くと凄く時間が掛かるし、しかも実写では出来ないですよね」
高橋「アニメーションならではですね」
柴田「テレビシリーズに比べて、カメラワークは凝ってて……遠近法も凄く使ってるんですよね。手前に誰かが居て、奥で何かが起こってたりとか」
高橋「手前と奥でカメラのパンする速さが違っていて、遠近感を出してたり」
柴田「映画を初めてやるってことで、拘ったんじゃないかと思いました。そして、“人形劇”のシーンは……僕は涙が流れて前が見えなくなるくらい感動しました」
高橋「劇中で出てくる瀬戸内海の連絡船は“宇高連絡船”って言うんですが、公開翌月の1988年4月10日に無くなっちゃったんですよね。夢に破れて去っていく者と重ね合わせたんじゃないかと……監督がいれば、聞けたんだけどね(笑)」

そう。【第2回 モーレツ!原恵一映画祭 in 名古屋】、実は大変なハプニングに見舞われていたのだ。
メインゲストとして登壇予定だった原恵一監督ご本人が、風邪による体調不良で急遽欠席となってしまったのである。

柴田「こう言うことがあるって言うのは頭の中では想定してたつもりだったんですけど、安心しきってたので「まさか!」でした。頭の中で“代役”と言う言葉が駆け巡りましたけど、コネクションがある筈もなく……。なので、すぐ「自分らで何とかしなきゃ!」と思いました」
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予約者には原恵一監督欠席のお詫びとキャンセル案内の連絡が直ぐに入ったが、予約取消の返信は極く僅かだったそうだ。原恵一監督作品『エスパー魔美』が持つ力が、図らずも大いに証明された。

原恵一監督作品の劇場公開は、直近では12月26日から刈谷日劇(愛知県 刈谷市)にて『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(2015年)が上映される。この傑作をスクリーンで観られる機会は、今後そうそう無いので御観逃しなきよう。
また、1/2~1/7は『Making of “Sarusuberi” 百日紅は如何にして咲くか』(監督︰富樫渉/2015年)が上映される。こちらは『百日紅』本編の印象をガラリと変えてしまうほどのメイキングドキュメンタリー作品なので、併せての鑑賞をお薦めしたい。

映画ファンの情熱が結実した【第1回 モーレツ!原恵一映画祭 in 名古屋】
原恵一監督不在と言う余りにも大きな逆境を撥ね退けた【第2回】
【第3回】と言う名の次なる“奇跡”は、起きるのだろうか?二人に聞いてみた。

高橋「未定ですが……とにかくやりたいです!とにかく、原恵一監督の作品を多くの人に観てもらいたいので。原恵一と言う素晴らしい映画監督がいる事を知る切っ掛けになる――柴田くんと二人、そんな任務を担ってるんだと思ってるんです。作品の懐の深さだけでなく、監督自身の人柄を直接知って頂ける機会を、自分たちが設けていきたいと思ってます。そう言う意味で、今回は残念でしたけど……非常にいい経験をさせて頂けたと思いますので、それを次回以降に活かしていきたいなと思います。僕は『温泉わくわく』(『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』1999年)の“真摯にふざけた”原監督の一面をやってみたいなと言う気持ちがあります」

柴田「次回は、“復活祭”と行きたいと思います!【第1回】は柴田が観たい作品、【第2回】はお客様に応える作品だったので……【第3回】は、高橋くんが一番観たい作品なのかなと――今思いついただけですけど(笑)」
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――人間は夢だけじゃ生きていけないけど、夢を諦めて生きるのはもっと辛い――
『星空のダンシングドール』の一節が、原恵一監督の直筆メッセージに呼応した。

取材 高橋アツシ