人の心を救いたい――『いってらっしゃいの花』椎名零監督インタビュー


生きていく上で誰もが避けられない「死」という別れ。叶うのなら、もう一度会いたいと願う人たちに優しく寄り添う物語『いってらっしゃいの花』。「十三下町映画祭2025」にて観客賞を受賞した本作が、9月5日より大阪・シアターセブンにて上映となる。劇中のロケ地となった場所で、作品への思いとスタンスを椎名零監督にうかがった。

■「さようなら」ではなく「いってらっしゃい」
――タイトルについて。
映画を観ていただければわかると思いますが、本作では「いってらっしゃい」「いってきます」というやり取りが何度も象徴的に使われています。死者を送るにあたって「さようなら」では悲しすぎる。でも「また会おうね」は保証がないので、「いってらっしゃい」という言い方しかできないんじゃないかなというのが、私の死に対する思いとしてあります。

葬儀やお墓参りなどにはお花がつきものですが、お花ってすごく気持ちを表すものだと思っていて。映画の中でもお花のエピソードが出てきますし、「いってらっしゃい」という気持ちや花を手向けるような気持ちが、この映画に現れている死に対する思いです。

■「この人」を思い浮かべながら脚本を書く
――キャスティングのこだわり。
オーディションはほぼ行っておらず、ほとんどオファーで進めさせていただきました。というのも、私は脚本を書くときに誰かを頭の中で動かしながらじゃないと書けないんです。引き受けてもらえるかどうかはわからないのですが、その方を念頭に置きながら書いていました。そういう意味では、あて書きのようなところがあります。

ただ、実際にオファーを受けていただくことが決まってからは、よりその人にフィットさせるためにかなり調整を加えましたね。最初の脚本は60~80分くらいの尺でしたが、一緒に話し合いながら厚みを持たせました。最終的には102分になったので、最初の脚本とは随分と印象が違います。

■普遍的な風景の中に、馴染みのある場所を
――ロケーションについて
私のこれまでの映画は、ひとつの街に依存しているような、その街そのものを映し出した作品が多かったんです。ただ、本作に関してはフィクション性が強いですし、どこか固有の街にこだわったわけではなくて、わりと普遍的な風景を撮ろうと思いました。その一方で、自分に馴染みのある場所も使いたかったので、回想シーンやあやか(森本あお)とちあき(福田麗)の思い出の場所は、土着感のある風景を使っています。

あと、待合室のバーはいくつか候補があった中のあるお店にロケハンで訪れた際、たまたまお店の中に私の1本目の劇場公開作である『グラデーション』のステッカーが貼ってあるのを発見したんです。お店のマスターが当時映画を偶然観てくださっていて、それからずっとステッカーを貼ってくれていたことがそこで分かり、ものすごく驚いて。その瞬間に「絶対にここで撮ろう」と決めました。

■「死」は耐えがたいほど悲しいもの
――死というものについて。
めちゃくちゃ悲しいです。普遍的に人の人生に起こることとして、こんなにも悲しいことはないと思うくらい耐えがたい悲しさですね。それを人は物語を紡ぐことでなんとか乗り越えたり、乗り越えられなくてもやり過ごしていったりしているのかなと思っています。

「物語」というのは映画とか大きな話ではなくて、例えば、なにか物が倒れたときに「あ、誰々さん来たのかな?」と思う、みたいなことや、幽霊っぽいものを信じることもある意味物語だと思っていて。せっかく自分が映画を撮る側の人間なので、そういう物語を制作しようと思いました。

■「心の叫び」からファンタジーへ
――これまでの2作とは異なるテイスト。
過去の2作品(『グラデーション』『ここ以外のどこかへ 』)は、私自身の社会への怒りや心の叫びのようなものを込めていて。もちろん、その「叫んでいる感じがいいな」と思ってくださった方もいたと思うんですけど、ただ、これをどこまでやるのかという疑問もありました。自分発信の心の叫びを突き詰めれば突き詰めるほどニッチになってしまい、共感してくれる方は減ってしまうことを2作目で感じていました。

その方向をもっと突き詰めていくのか、それとも全然違う方向に振り切るのかと考えたときに、むしろファンタジーでフィクション性の強いものをやってみたい気持ちが生まれました。過去2作を撮ったときにリアリティの追求にこだわっていたのですが、そのリアリティへの執着心があればフィクションもフィクションっぽくなく、本当のことのように描けるんじゃないかと思ったんです。

嘘だとすぐにわかるフィクションはすごくダサいと思うんです。自分ならダサくならずにリアリティを持って描けるんじゃないかという、ちょっとした自信もありました。やっぱりジブリとかも好きでそういうものへの憧れも一生あるので、インディーズなりの予算がない、技術がないなりの中で、形にできたらカッコいいんじゃないかと。

■忘れられない存在になりたい
――上映して嬉しかった反応は?
映画祭での上映時に「生涯イチ泣いた」とおっしゃっていただけたのはすごく嬉しかったです。正直、そこを目指してはいました。私が映画でよく泣くタイプで、泣いた映画って忘れられないんですよね。だから忘れられない存在になりたかったという意味でも嬉しかったですね。

■何でも自分でやる、長所な短所。
――制作で苦労した点は?
何でも自分でやってしまうという、長所であり短所があるんですけど、美術もすべて自分でやりました。それは私がやりたくてやっているので、人手が足りないからとかではないです。本作は地味に布団が映るシーンが多くて。「なんでこんなにいっぱい布団を買わなくちゃいけないんだろう」と思いました。あと、よく言われるのは待合室のバーですね。映っているものでもともとお店にあったものはほぼ無くて、引っ越しくらいの物量で持ち込んで。帰りが大変でしたね(笑)

■監督として「いい芝居を引き出す」
――撮影でのこだわりポイントは?
とにかく、いいお芝居を引き出すことですね。映画監督の役割って、作品や人によって様々ですが、私の場合はいい脚本を書くことと、それに基づいていい演出をつけることが自分のいちばんの仕事だと思っています。ヘビーなシーンも多かったので、役者の方ともすごく向き合いましたし、撮影しながら脚本もどんどん改訂していったので、自分自身の気持ちも追い込んでいった部分はあります。

「亡くなった主人公の棺にお父さんが入れたもの」として何を用意しようか考えた時に、はっきりと「子供の頃から使っていたもの」と分かるものがあったら画面映えするだろうなと思って。このしまじろうのぬいぐるみは、いつから持っているのか覚えていないくらい、人生を共にしてくれている存在なので、ちゃんとそれらしく経年劣化もしていて説得力があるなと(笑)。今までも留学に連れて行ったり仕事で使ったり、色々と活躍してくれていたので、そろそろ映画にも出てみる?とオファーさせていただきました(笑)

■「現場が楽しかった」と思ってもらいたい
――椎名組のモットー。
楽しくやることです。もちろんパワハラ・セクハラはもってのほかで、ハラスメントに関することもわざわざ文章化してみなさんにお配りするぐらい、そういう点には気を使っていました。

特にスタッフは、普段は会社員だけど土日に手伝いに来てくれる大学の後輩や、映画を専門に勉強しているわけじゃないけど手伝ってくれる学生の子がほとんどです。彼らは仕事としてプロフェッショナルの意識は持っているけど、本当の部分では仕事ではない。だから、楽しくないと意味がない。

「椎名さんの現場って楽しかったな。また来たいな」と思ってもらえるようにしたいというのは、もうずっと何年も考えていることです。あと、温かいお弁当をよく出します。その手配とかも全部自分でやってます。助監督もいないんですよ(笑)

■「映画を撮ったほうがカッコいいかな」から始まった
――映画監督を目指したきっかけは?
映画監督を目指したことなんて一度もないんですよ(笑)早稲田大学に入って、サークル文化が非常に豊かな大学なので、いろんなサークルがあったんですが、高校生の時にやったことがないことをやってみようという気持ちで映画サークルに入りました。ただ、せっかく入ったなら映画を撮ったほうがなんかカッコいいかな、みたいな感じだったんです。

それで1年生の夏にはもう撮影をしていました。先輩に「映画の作り方がわからないので教えてください」とお願いして、一から教えてもらいました。サークルは勉強する場ではないので、いるだけだと誰にも教えてもらえないんですよ。自分から「撮りたい」と思って動かないと。最初は全然うまくいかなくて、先輩にもボロカスに言われて悔しくて。そうなると、じゃあ、もうちょっといい作品を撮ろうと。それが続いて、続いて、今です。

■映画を作るのは「人と一緒に何かを作りたい」から
――なぜ映画を作っているのか?
人と一緒に何かをすることが好きなんだと思います。例えば絵を描く、漫画を描く、音楽を作るなど、一人で完結できることがいくらでもある中で、私は人と一緒に生きていきたいし、人と一緒に何かを作りたい。そうじゃないと面白くない。その中で映画だったんですよね。

だから、撮影ってパーティーだと思っています。自分の好きな人たちを呼び集めて、自分の好きなことをやってもらえて、自分も好きなことができる。宴会のような感覚で映画を撮っています。

■「人の心を救いたい」――本作に込めた思い
――いちばん伝えたいことは?
私は常に人の心を救いたいと思っています。作った作品によってベクトルは違えど、今回の『いってらっしゃいの花』に関しては、やっぱり人が亡くなることはとても悲しいので、その救いになるような映画を撮りたいという思いが強くありました。ただ、時として刺さりすぎて傷つけてしまう場合もあることを東京での上映で学びました。最近身近な方を亡くしたばかりの方が本作を観てしまうと、ちょっとトラウマの再現じゃないですけど、おそらく映画の内容以上に刺さりすぎてしまうところがある。

それは今まで意識していなかったことなんです。でも、実際にそういう方に出会ったことで、自分は無邪気に「自分の映画を観てほしい」という気持ちで宣伝もすごく頑張っていたけれど、「そんなに軽い題材じゃないな、これは」と改めて思いました。自分が作家として何かを生み出してしまうことの責任感も改めて感じました。なかったものを自分が作って、それによって波及して何か現象が起こってしまうことは、非常に責任が重いなと思います。

■映画だけにこだわらず「書く仕事」も
――今後の展望は?
まずは、本作をもっといろんな方に観ていただきたいですし、出演している素晴らしいキャストたちの魅力を多くの方に届けたいと思っています。

そして椎名零としては、ネガティブな意味ではなく、必ずしも映画を撮ることだけにこだわらなくてもいいかなと。映画に対する関わり方は様々な形があるというのを、制作して公開する中でいろんな方と出会って知りました。あと、映像を撮ることよりも脚本を書くことに重きを置いて活動しているので、なにか書く仕事もやってみたいなと思っています。

■映画祭で出会った仲間たち
――観客賞を受賞した「十三下町映画祭2025」。
完全にワールドプレミアで映画が初めて世に出た瞬間で、そのドキドキも込みで劇場に行きましたが、そこで拍手をいただき、観客賞までいただき、非常にいいスタートを切れました。

横のつながりができ、他の作品の監督や関係者たちと友達になって、今でもその仲が続いています。勝手に「十三フレンズ」と名乗っているんですけど、東京でもまたそのつながりが続いていたりして、非常に温かい映画祭という印象でした。

■シネマ・ロサでの上映に感じた特別な意味
――東京での3週間の上映を終えて。
撮影担当の河内彰さんは映画監督でもあり、監督作がシネマ・ロサで上映されている経験があります。キャストでは、ロサで10年ほど上映され続けた『隣人のゆくえ』に出演している福田麗さんや、その他もロサならではのキャストやスタッフが名を連ねている作品なので、そういった意味でも本当にシネマ・ロサさんで上映していただいて良かったなと思っています。

■シアターセブンでの“凱旋上映”へ
――これから観る方々へのメッセージ。
シアターセブンさんには、「十三下町映画祭2025」でお世話になり、観客賞までいただいたので、今回は凱旋というような形になります。編集もちょっと変わったので、映画祭でご覧いただいた方にももう一回観ていただけたら、また違ったものも感じてもらえると思います。
もちろん初めましての方にもぜひ観ていただきたいです。シアターセブンさんのミニマムな劇場空間と本作の世界観が非常にマッチしていると思うので、ぜひ劇場でご覧いただきたいと思います。大阪の温かいみなさまにお会いできることを非常に楽しみにしております。

取材・撮影 南野こずえ


『いってらっしゃいの花』
脚本・監督・編集:椎名 零
出演:森本あお 福田麗 山田ジャンゴ 須永祐介 藤田健彦 湯本智恵美 小夏いっこ 辻創太郎 清水博仁 渡邊麻梨奈 辻莉仔 瀧マキ
(C)椎名組 2025
9月5日(土)よりシアターセブン(大阪)、10月以降シネマスコーレ(名古屋)ほか全国順次公開

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