遺産を手にした先に「ふさわしい人生」は待っているのか――『大富豪になるための正しい殺し方』レビュー


お金のために、やりたくない仕事を引き受ける。暮らしに余裕ができたら、と大切な人との時間を後回しにする。よい暮らしを望むあまり、大事なものを見失うことは誰にでもありうる。映画『大富豪になるための正しい殺し方』は、遺産のために親族を殺す男の物語だ。かなり極端な話に聞こえるが、彼が求める「ふさわしい人生」とは何かを考えると、他人事ではなくなってくる。

主演は『トップガン マーヴェリック』『ヒットマン』のグレン・パウエル。『エミリー・ザ・クリミナル』のジョン・パットン・フォードが監督・脚本を手がけた。着想の源は、1949年の英国映画『カインド・ハート』。フォード監督は、英国の階級制度を風刺した同作の物語を、現代アメリカの貧富の格差を描くために生かしたという。本作では、富への欲望がブラックユーモアを交えて描かれる。

主人公ベケットは、生まれてすぐに大富豪レッドフェロー一族から追放され、貧しい暮らしのなかで育った。母から教養を授けられた彼は、自分にはもっと豊かな人生がふさわしいと信じている。その人生を手に入れるために狙うのが、一族の280億ドルの遺産だ。ベケットは、相続の妨げとなる親族たちを事故に見せかけて殺していく。彼にとって一族の富を手にすることは、自分が与えられるはずだった人生を取り戻し、母の願いをかなえることでもある。

ベケットが許せないのは、自分と母を追い出した一族が、贅沢に暮らしていることだ。しかし、遺産を手に入れることに夢中になるほど、彼自身も金のために人を犠牲にするようになる。憎んでいた一族と同じように、人より財産を大切にしてしまうところに、本作の皮肉がある。

そんなベケットに、愛する人と穏やかに暮らす幸せを感じさせるのが、ルース(ジェシカ・ヘンウィック)だ。彼女と過ごす時間には、巨額の遺産を手にしなくても得られる喜びがある。一方、初恋の相手ジュリア(マーガレット・クアリー)を前にすると、金持ちになって彼女に認められたいという思いが強まる。ルースと穏やかに暮らしたいと思う一方で、ジュリアに認められ、母の期待にも応えたい。ベケットは目の前にある幸せと、長年憧れてきた人生の間で揺れる。それでも彼は、親族の殺人計画を実行していく。

幸せになるために求めていたお金が、いつしか人生の目的になってしまう。ベケットの犯罪は私たちの日常から遠くても、その危うさには覚えがある。彼の行く末を見届けたあとで、自分にとっての「ふさわしい人生」とは何なのか、立ち止まって考えたくなった。

文 山崎裕太

『大富豪になるための正しい殺し方』
監督・脚本:ジョン・パットン・フォード
出演:グレン・パウエル、マーガレット・クアリー、ジェシカ・ヘンウィック、ビル・キャンプ、ザック・ウッズ、トファー・グレイス、エド・ハリス
配給:KADOKAWA
(C)2026 / STUDIOCANAL S.A.S. All Rights Reserved.
2026年11月13日(金)全国ロードショー

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