白か黒か。グレーの中で望むもの『望み』レビュー



白か黒か。物事はその二択で判断されがちであり、憶測で推理しても、事実が明らかになるまではただのグレー。しかし、どちらに転んでも八方塞がりな状況に陥らないとは誰も言い切れない。

家の隣に事務所を構える一級建築士の父(堤真一)、編集の仕事をしている母(石田ゆり子)、高校生の息子・規士(岡田健史)と中学生の娘・雅(清原果耶)とともにお洒落な一軒家で暮らしている石田家。建築家の住まいだけあって、開放感のあるリビングやこだわり溢れるインテリアに羨やむ。傍から見た絵に描いたような幸せとは、まさにこのことを言うのだろう。

TVドラマ「中学聖日記」で教師との禁断の恋に落ちる生徒を演じたことで大きな注目を浴びた岡田健史と、映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』で初主演を務めた人気急上昇中の清原果耶。そんな美男美女の両親役には堤真一と石田ゆり子が名を連ね、これまた完璧すぎる家族設定。と、軽い話はこのくらいで。

何を考えているのか読めない年頃の規士を心配しながらも、高校受験を控える雅に対して気配りしつつ、一家は平穏な日々を送っていた。だがある日、規士が朝になっても帰宅せず、連絡も取れなくなった。その矢先に高校生が殺害されたニュースが世間を震撼させ、事件への関与が濃厚な状況へと進んでしまう。

記者が周囲の友人からの聞き込みによって、徐々に明らかになる息子の知らない一面を耳にした母は混乱を隠せず、同時に彼の不審な行動に疑問を抱きはじめる父。追い込まれる中で息子像が崩れかけていく複雑な心境を、きっちりとやり遂げるベテラン2人の存在感は非常に大きい。

やはり殺人犯か、それとも被害者なのか――。
本作は『クローズド・ノート』や『検察側の罪人』などが映画化された雫井脩介による同名小説が原作となっており、幸せな家庭から一変、過激な中傷や報道に振り回され、父、母、妹の立場や思いからどの真実に望みを持ち、揺れる絆を描く衝撃のサスペンス。それぞれの思いに共感はできるが、誰に重ねるかもどかしい選択を迫られるはずだ。

小ネタが詰まった「TRICK」シリーズから社会派まで幅広く手掛ける堤幸彦監督がメガホンを握り、信じる強さと脆さを真正面から映し出すことで、リアルな動揺や緊迫感を観客にも与えている。最悪な展開から光を見出すことができるのか、固唾をのんで一家を見守っていただきたい。

文 南野こずえ

『望み』
(C) 2020「望み」製作委員会
配給:KADOKAWA
2020年10月9日(金)全国ロードショー

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