希望の彼方へ踊る『盆唄』公開記念舞台挨拶
『ナビィの恋』『ホテル・ハイビスカス』などで知られる中江裕司監督の最新ドキュメンタリー映画『盆唄』の公開を記念し、中江裕司監督と本作に出演している福島県双葉町の人々が舞台挨拶に登場。「双葉盆唄」の演奏が披露され、駆けつけた満員の観客を巻き込んだ盆踊りが繰り広げられた。(2019年2月16日テアトル新宿)
東日本大震災が起こって4年が経過した2015年、福島県双葉町の人々はそれぞれの避難先で生活を送りながら、先祖代々守り続けていた「盆唄」存続の危機に心を痛めていた。そんな中、100年以上前に福島からハワイに移住した人々が伝えた盆踊りが「フクシマオンド」となり、現在でも日系人に親しまれ踊られていることを知る。
その事実を知った双葉町の人々は盆唄を披露するため、ハワイ・マウイ島を目指す。自分たちの伝統を途絶えさせず、後世に伝えたい。失望から新たな希望へ。故郷で親しんでいた盆唄が、故郷を離れて生きる人々のルーツを見つめていく。
盆踊り、移民、そして唄とは何か……。200年という時を超えて物語が紡がれていく、中江裕司監督が3年の歳月をかけて撮影した渾身のドキュメンタリーだ。
上映後、満員の観客で埋め尽くされた会場に中江裕司監督、本作に登場した福島県双葉町の「盆唄」メンバーが登場。それぞれ挨拶を行なった後、観客に向けて盆踊りのレクチャーを行なった。そして太鼓、笛の演奏に合わせて、約10分間盆踊りタイムが始まり、まさしく“お祭り騒ぎ”の笑顔あふれる舞台挨拶となった。
冒頭、中江監督は「双葉の方々と3年間にわたって作り上げた映画です。この映画が全国に届いて『双葉盆唄』が届いたら幸せなことだなと思います」と本作への想いを語った。
また、本作の中心人物である横山久勝さんは「この映画を撮り始めた頃、双葉町は『帰還困難区域』でした。30年間は除染も何もしない、だから帰れませんと政府から言われていました。この映画を撮り始めた後半には『特定復興区域』という新しい言葉ができました。双葉町も除染して帰れるようになると思いますが、まだまだ帰還するには時間がかかると思っています」と、双葉町の現状を話した。
そして、「『盆唄』の私の目的は後世に残すこと。これは双葉町の住民がやがて年を取って帰れなくなった場合でも、ハワイから盆唄を双葉町に伝えてほしい、そんな思いでこのプロジェクトに参加しました。もう一つは、きちんとした映像と音で双葉町の各地域の盆踊りを残したい、その気持ちを監督に相談したところ、8台くらいのカメラを使って記録してくれました。それを各地区の盆踊り保存会に配布しました。この2つの大きな目的を果たすことができました。これからも双葉町がどうなるかまだ分かりませんが、私たちの目が黒いうちは、盆踊りは消滅させません。私たちがいなくなっても盆踊りを必ず復活させるように段取りをしたいと思っています」と、双葉町の“誇り”を保つための決意を語った。
最後に中江監督は、「双葉のみなさんとこの映画を作れた3年間はいろんなことがあって辛いこともありました。でも、楽しくて豊かな時が過ごせたと思っています。住民のみなさんは双葉の故郷に帰りたくても帰れない。でも辛い顔ばかりされているわけではありません。普段は明るく前向きに生きておられる。そこから勇気をもらって、希望の持てる映画にしたいと考えて作ってきました。この映画が全国、世界に広がることが、双葉町の現状を伝えるとともに、日本人の力強さを伝えられると思っています」と、撮影を振り返りながら話した。
取材 吉田遊介
『盆唄』
©2018テレコムスタッフ
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