来てくれたって“E”じゃない!『第5回 MKE映画祭』潜入レポート


今年も美濃に初夏を告げるご当地映画祭『第5回 MKE映画祭』が開催された。(2017年6月10日 岐阜県図書館)
全国から寄せられた20分以内の短編映画は昨年にも増して80作品となり、厳しい審査により選び抜かれた14作品が上映され、馳せ参じた制作陣が笑顔で作品を解説した。
水無月の岐阜は数日前に梅雨入りしたというのに、今年も汗ばむほどの晴れ空で映画祭に駆け付けた映画人と、沢山の映画ファンを迎えた。

『Instability』(2016年)
伊藤佑里香監督 中学生の頃、入っていた映画部は他の部に比べて人気が無く、中・高合わせて、7人くらいしかいなかったんです。これは廃部寸前の「もしかしたら、これが皆で作る最後の作品かも」って段階の時に作った作品で、大会に出すために必死で作ったんです。カット数が凄く多かったと思うんですけど、学校で他の部活の練習の迷惑になっちゃうから、ずっと同じ場所にいることが出来なくて(笑)。制約が多い中で作ったという印象が、自分の中で凄く強いです。
『ハグ!』(2016年)
小野光洋監督 『ハグ!』は、172作目になります。30数年間撮り続けていて、今は1年間に15~6本撮っています。千葉大学を拠点でやっていまして、外国人が出てましたけど、二人とも留学生です。

『逃げる男』(2016年)
直井康晃監督 実は、出演もしてまして……オカマの役です(笑)。制作の切っ掛けは、美術館で上映するので美術館を使った短編映画を、というお話が岐阜県美術館さんからあったんです。出演者は皆、素人軍団で、演技もしたことがなかったんですが、唯一“カヤ”役だけは演劇部でした。
『本末転倒』(2016年)
名倉健郎監督 YOUTUBEでアップする用に、自主制作で四文字熟語をテーマにした作品を7~8本撮っています。『本末転倒』は、2作目だったと思います。女子高生役の皆さんは、事務所に所属しているタレントさんです。

『犬も喰わねぇ』(監督:美濃輪泰史/2015年)
※中国で撮影のため、欠席
『もののけひとつき』(監督:妖怪班/2016年)
北見直子(妖怪班) 私たちは5人のチームなんですが、1年以上は掛かったと思います……延べ日数などは憶えていないですが。
MC アニメーションは、1秒撮るのに何時間も掛かる作業なんだと思いますが……1秒は、24コマでしたっけ?
北見 30コマです。

『ピンぼけシティライツ』(2016年)
東海林毅監督 昔は将来を嘱望されていたかもしれないけれど、今は売れないカメラマン、そして、もう一人……そんな“居場所のない二人”の話を書きたかったんです。亡くなってしまったグラビアアイドルが、いつまでも水着でしがみついてたら可笑しいな、と思いまして、こうなりました。
平井夏貴 私は、水着じゃなく出てました。済みません、水着の人じゃなくて(笑)
『ジェントリー土手』(2016年)
MC この作品は、ホームドラマのような、不条理劇のような……何故こんな作品になったんですか?
渡邉高章監督 ……その前に、このユニフォームにツッコんでいただけますか(場内笑)?岐阜といえば(元 中日ドラゴンズ)和田、大ファンなので着てきました(場内拍手)。『ジェントリー土手』は色々解釈されるとは思うんですけど、僕は常に「皆おかしなところがある」と思ってるので、登場人物、最終的には主人公も含め皆おかしいという話です。

『星野夢TV』(2016年)
高嶋義明監督 昔『ウゴウゴルーガ』って番組がありましたが、あの雰囲気を出したかったんです。ちょうど今、軍事政権的に“北の国”があるので(笑)
星野ゆうき 星野総統役の、星野です。繁田監督の作品と一緒ということで……凄いプログラムというか(場内笑)。ご覧いただいて、ありがとうございました。
『ときめき一念発起』(2016年)
繁田健治監督 僕は自分で出ることが多いんですけど、女性と立ってるだけでお客さんは勝手に「恋焦がれてる」ってスイッチを入れちゃうんです。恋愛感情を描いてるなら、手間が半分で済むんで良いんですけど。そういうことをやっているうちに、登場人物は女性のことが本当に好きなのかなと、自分でも悩む時期があって……そういう思い込みの話が作れないかなと思って、「引きずってると勘違いされちゃった人の話」がどんどん出来てきたんです。
井上茜 凄い緊張してたんですけど、客席で隣のお姉さんたちが凄く笑ってくださってて、ちょっと和みました。私は島根県から来てるんですけど、地元で開催された映画祭に監督として出品した時がありまして、その時に繁田さんも来られてて、打ち上げの席でナンパされて出演することになりました(場内笑)

『社畜ゾンビ』(2017年)
山後勝英監督 会社のYOUTUBEのチャンネルで色んな動画を作ってるんですけど、今回はアクションを撮りたいと思い、中年のおじさんがバッタバッタ活躍していくのが良いなと思ったのが制作の切っ掛けです。「頑張ってるサラリーマンは、実は強いんだぞ!」って思いから、ブラックな環境で働いた経験のある身としては(笑)……何か、ゾンビになっちゃいました。
井上勝馬 社畜ゾンビ役の。井上です。実は僕、芸能事務所のマネージャーなんですよ。一緒に出てるメンバーは皆うちの所属俳優なんですけど、普段から僕は彼らと一緒にトレーニングしてまして。
『菊とサカツキ』(2013年)
下向拓生監督 去年は『N.O.A.』でこちらでもお世話になったんですけれども、それより前の作品なので、凄く粗が目立って……久しぶりに観たんですけれど、恥ずかしいなと思っております。

『ガチャガチャ』(2016年)
松本動監督 この作品は、エンターテイメント性を重視して、一人でも多くの人が楽しめるような作品を目指して作りました。
『テンプル・ナンバー・ゼロ』(監督:松本卓也/2014年)
中島巧(シネマ健康会) 済みません、今日は代理で来ました。松本監督は何本か岐阜でシネマ健康会として制作してまして、下呂温泉で『七子の妖気』を、岐阜市で『マイ・ツイート・メモリー』を撮っています。僕は『七子の妖気』の時に知り合いまして、今日は下呂から応援ということで駆けつけました。僕はどちらかというと上映担当でして、中々上映機会のない作品が上映されるというと中部の色んな所に行かせてもらってます。

作品の上映が終わると、観客からの投票によるグランプリ作品の集計を待つ間アシスタント高羽ゆかとのジャンケン大会が行われ、豪華賞品を賭けての悲喜交々で場内は大いに沸いた。
そして、各部門賞が発表された。『MKE映画祭』は、作品と賞の両方を一般公募している世にも珍しい映画祭である。趣旨に賛同したプレゼンターは、自由に賞を設定し、自ら選出した作品・人物に賞を授与できるのだ。今回は、9部門の賞が設けられた。

【いつかこの映画を思い出しきっと笑ってしまう賞】『本末転倒』
【-INFERNO NAPALM-ベストバトル賞】『犬も喰わねぇ』
【My Fair Actress賞】『ときめき一念発起』井上茜
【STEP賞】『逃げる男』
【ブレイクスルー賞】『菊とサカツキ』
【ほのぼのSchool Life賞】『Instability』
【隆盛(りゅうせい)賞】『社畜ゾンビ』
【GEO HyperMedia賞】『本末転倒』
【Director of Directors賞】『本末転倒』名倉健郎監督

グランプリを残すのみの段階で、『本末転倒』が三冠を達成した。
名倉健郎監督 実はこの『本末転倒』、撮る前日に子供が生まれたという作品でして(笑)……賞を頂けて、大変嬉しく思います。

そして、栄えある【第5回 MKE映画祭グランプリ】を獲得したのは、松本卓也監督『テンプル・ナンバー・ゼロ』であった。
中島巧 僕が代理出席の時はいつもグランプリを逃すので「シネマ健康会の疫病神」と呼ばれてるんですけど、初めて良い報告をすることが出来ます。投票していただきました観客の皆様、大変ありがとうございます。松本監督はよく地方で映画を撮るんですが、地元の人間を使って、地元の良さを引き出して、先ずは地元の人に観てもらうんです。その次は、こんな風に違う地方で上映して、地元(撮影場所)の良さを広めていくのが地方映画の魅力だと、松本は言っています。今回それが叶って、こんな素晴らしい賞をいただいたと報告したいと思います。

授賞式が終わり、メインMC児玉篤史の「見てくれたって……」の発声に「……“E”じゃない!」と応えた入場者全員による記念写真で『第5回 MKE映画祭』が幕を閉じると、会場を移し自由参加の懇親会が始まった。
映画談議に色とりどりの花が咲いた一次会が終わる頃には岐阜の空も暮れなずみ、バスで移動した柳ケ瀬で行われた二次会も大いに盛り上がった。
深夜まで続いた二次会だったのだが、実は終盤にサプライズがあったのだ。なんと、『MKE映画祭』には参加が叶わなかった『ピンぼけシティライツ』主演の星能豊が、急遽打ち上げの会場に現れたのだ。
いつの間にか岐阜市は、映画を愛する者たちを惹きつけて止まない“Beautiful(美)”で“Deep(濃)”な土地と化しているのだろう。

取材・文 高橋アツシ

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