撚り 紡ぐ 糸『つむぎのラジオ』鑑賞記


木場明義――日本インディーズ映画界が誇る、“映像のファンタジスタ”である。
『キャッチボールとヘヴィメタル』(2007年/14分)、『山に登ろう!』(2013年/20分)、『ゴイスト』(2013年)、『HATTORI!!!!』(2014年/20分)のような練りに練ったシナリオや会話劇が光るコメディ映画で名を馳せているが、木場監督の抽斗は測り知れない奥深さを持っている。
『着ぐるみちゃんのハッピーホリデー』(2014年/10分)、『サイキッカーZ』(2016年/7分)のようにスラップスティック劇の皮を被った実験作で観客を唸らせたかと思えば、『あゆみちゃんと妖精たち』(2008年/34分)、『昼下がりに死闘』(2012年/7分)のような心理描写で度肝を抜く。
『渚の妖精たち』(2009年/14分)、『さよならファンタジー』(2015年/20分)のように人間ドラマを喜劇に忍ばせたと思えば、『ハワイアンドリーマー』(2011年/30分)のようなスリラーや、『スリッパと真夏の月』(2015年/30分)のようなSF映画で観る者を魅了する。

そんな映像作家を、映画界が放っておくはずもない。
【Cathy!シネマ一揆】(入選)、【第4回 ぐんまショートフィルムコンクール】(入選)、【福岡インディペンデント映画祭】(優秀賞)、【伊賀の國忍者映画祭】(準グランプリ)、【第7回 したまちコメディ映画祭in台東】(入選)、【古湯ムービーアワード2014】(富士町民賞)、【新人監督映画祭】(入賞)、【MKE映画祭】(プルチーノ賞)、【長岡インディーズムービーコンペティション】(準グランプリ)、【福井駅前短編映画祭】(フクイ夢アート賞)、【おもいがわ映画祭ショートフィルムコンペティション】(入賞)、【つくばショートムービーコンペティション】(入選)、等々々……スペースが足りなくなってしまうため、全ての受賞歴を網羅することは容易いことではない。

さぞかし木場監督の部屋は賞状や盾の数々で手狭になっているのだろうと要らぬ心配をしてしまうが、この度さらにトロフィーを増やしそうな傑作が完成した。
作品のタイトルは、『つむぎのラジオ』。木場監督にとって、久々に手掛ける長編映画である。
クラウドファンディングで製作資金を募った際、30万円の目標額に対して、瞬く間に92万円が集まったことを見ても、映画ファンからの期待のほどが伺える。大好評だった東京での試写会に引き続き、シアターカフェ(名古屋市 中区 大須)で開催された名古屋試写に押し寄せた満員の観客を見て、記者も人気のほどを実感した。

『つむぎのラジオ』ストーリー:
綱島こより(米澤成美)はある日、小学校の同級生と鉢合わせた。20年ぶりの再会を懐かしむ二人の前を通り掛ったイチャつくカップル(大澤真一郎、小宮凜子)の片割れは、なんとこよりの彼氏・黒田だった。こよりは、猛然と黒田に詰め寄る。
居酒屋【ああ星菫派】のマスター(藤井太一)の下で働いている糸井結太郎(中山雄介)は、合コンで店を訪れる度に吐くまで飲む女性客と、ひょんなことからデートすることになった。恋愛経験のない糸井は、身近な女性に助言を求める。
織原つむぎ(長谷川葉生)は時折漏れ聴こえてくるラジオの声(もりとみ舞)に心を乱され、声に出して文句を言う。そんな姉の様子に、弟・海斗(藤原かずま)は心配を募らせる。つむぎは、後悔してもしきれない過去を抱えていた――。

84分の上映が終わると、シアターカフェの椅子を埋め尽くした映画ファンは、万雷の拍手でファンタジスタを迎えた。
笑いを鏤めつつも深いテーマを投げかける最新作『つむぎのラジオ』は木場作品の集大成で、作品自体のみならず映像作家・木場明義の未来をも明るく照らすようなラストは大いなる希望に満ち溢れていた。

今回、名古屋試写に登壇した木場明義監督、もりとみ舞さんにインタビューすることが出来た。

Q. 久々の長編、お疲れ様でした
木場明義監督 前の長編『モンタージュライフ』(2010年/83分)は、複雑な構成でSF要素が強すぎたせいか、イマイチでした(笑)。自主映画だからって怖気づいて手を出さないのも良くないなと思っていて、SFは挑戦したくなるジャンルなんです。長編の企画は常に持ってまして、『つむぎのラジオ』も書きはじめたのは5年くらい前なんですよ。脚本も1年半くらいはネチネチ書き直してます。

Q. 苦労した点はありますか?
木場監督 撮影よりも、編集です。音声、特に波の音とか……海辺のシーンの(カラー)グレーディングとか……編集は、やり出すと正解が分からなくなっちゃうんですけど、かと言って無難にやったら負けなので(笑)。

Q. 統合失調症をテーマにしたのは、何故ですか?
木場監督 過去の作品にもそういうテイストのものがあるので、ある種作り直し的なところもあります。あまり意識せず作っていたことに、重点的に視点を置いたと言うか。統合失調症の話をやりたいって言うよりは、ミステリーがやりたかったんです。お客様の気持ちをどれだけ引っ張れるか、とか……展開をガラッと変えていく、とか……やりたいことは色々とプロットを書くとどんどん浮かんでくるので、脚本は色々と試行錯誤しました。

Q. もりとみさんをキャスティングした決め手は?
木場監督 もりとみさんの役は、元々は男性のイメージだったんです。
もりとみ舞 藤井(太一)さんだったんですよね、確か?
木場監督 そうなんです。でも、岐阜でやってるもりとみさんのラジオ(FMわっち)に出演させてもらった時、役者としてのもりとみさんとは全く違うラジオパーソナリティとしての声を聴いて、プロだなと思ったんです。こんな特技は是非使わせてもらわなきゃなと(笑)、この才能は活かさなきゃなって思ったんですよね。
もりとみ 藤井さんはとても上手い方なので、そのレベルを求められてるのか……と、色々考えました(笑)。撮影が夏で、声を入れたのは年末くらいでした。自分の中で何パターンか準備してたんですが、木場監督が明確に指示してくださったので、仰るとおりに演らせていただきました。つむぎ役の(長谷川)葉生さんがどんな風にやってるかを見ながら求められているものを掴みたいのもあって、撮影にはスタッフとしてくっ付いていました。見て良かったんですけど、見れば見るほど緊張も高まりました(笑)。台本を読んだ時点で絶対に面白いとは思ったんですけど、撮影現場でそれが実感できました。木場監督の作品は、面白いだけではなく、どの作品も優しさが入っているところが好きなんです。

Q. 「ここを観てほしい」ってシーンはありますか?
木場監督 そうですね……何回も観たくなる作品にしたつもりなんです。なので、細かい所を観て楽しんでもらえたら嬉しいですね。
もりとみ やっぱり、クライマックスのシーンです。あれ、撮り直し無しの一発で撮ってるんですよね。これで何も感じない人はいないシーンだと、個人的に思っています。
木場監督 クライマックスは、大変でした(笑)。編集で(カットを)割ってるんですけど、実は長回しで撮ってるんです。役者さんのモチベーションを考えると気持ちが篭もるシーンは何度も出来ないので、本当に大事なところは「これ以上回さないよ」って前置きでやったりします。長回しの場面は、飽きさせないカメラワークが難しいんです。長回しに限らずカメラワークを面白くしたいと思うのは映像クリエイターとしては重要なことですから、永遠の課題ですね。
もりとみ あと、黒田役の大澤(真一郎)さんがつむぎに誘われてやってくるシーンで、ちょっとスキップして入ってくるんです(笑)。そこをハマる人は、私と好みが合います(笑)。

3月12日(日)天劇キネマトロン(大阪市 北区)で行われる大阪試写で完成披露が一段落つく『つむぎのラジオ』は、今後は様々な映画祭に出品される予定だという。続々と入選が決まるはずなので、是非お近くの映画祭で上映される際は劇場に足を運んでほしい。
「“映像のファンタジスタ”飛躍のターニングポイントとなった『つむぎのラジオ』をリアルタイムで観た」ことは、映画ファンにとって何よりの自慢になるに違いない。

取材・文:高橋アツシ

©イナズマ社

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