銀幕に映る“運命の三女神”【第30回自主製作映画フェスティバル】潜入記


2016年12月22日(木)、名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)の名物企画【自主製作映画フェスティバル】が幕を開けた。
今年は30回という節目に当たり、30年間で上映した作品は300本を超えるという。同じ映画とはいえ商業作品とは出自がまるで異なる自主製作映画のことを、名古屋シネマテークでは“未来の傑作”と呼ぶ。
第30回である2016年の【自主製作映画フェスティバル】は、A・B・C・D、4つの多彩なプログラムが用意され、豪華なゲストが登壇した。

Aプロ山川智輝監督特集
『けいどうみゃく』(2012年/12分)
『傷跡』(2013年/17分)
『透明』(2014年/67分)
『瓜二つ』(2015年/14分)
山川智輝監督 監督作品を一度に4本も上映していただくのは初めてなんですけど、出演者の方に結構大変な思いをさせてるなと、改めて感じました。出ていただいた方には、本当に感謝しています。
青島礼奈 出演作以外は『傷跡』をチラッと観た程度だったんですが、今一緒に観ていて凄く圧倒されて……引き込まれる世界観があって、とても楽しませていただきました。私は監督と同じ(名古屋)ビジュアルアーツの、パフォーミングアーツ学科・俳優専攻で勉強していて、それで『透明』のオーディションを受けたんです。
MC. 初期の3本は暴力描写に溢れた作品でしたが、『瓜二つ』は随分毛色が違いますね?
山川監督 3作品は僕が10代で撮ってて、『瓜二つ』は二十歳の頃の撮影でした。10代の頃は今より荒れてるって言うか……怒りまくってたな、と自分では思います(場内笑)。前よりは少し落ち着いてきたのが、『瓜二つ』には出てるのかも知れません(笑)。

Bプロ『私は兵器』(2016分/88分)
MC. 前の2作(『ユートピアサウンズ』2012年/80分『らもトリップ』2011年/119分)と比べ暴力的なテーマになってるようですか、何か意識されてのことなんですか?
三間旭浩監督 『ユートピアサウンズ』は大学院の修了制作なんですが、撮った後にどうしても長編をもう一度挑戦してみたいと思ったんです。3年くらい撮れてなかったんですが、前々から暴力を描きたかったっていうのがあったんです。今は物凄く暗い時代にあると思っていまして、暗い時代だからこそ明るい映画を作るのではなくて、もっと逃げずに今こそ闇の部分を描かなきゃいけないと思ったんです。この映画を作るに当たって、【CO2】(シネアスト・オーガニゼーション大阪)という助成金制度に応募しました。企画が通って、一気に映画が動き出しました。

Cプロ『キスして。』(2012年/66分)
ほたる監督 私は1994年に瀬々敬久監督のピンク映画でデビューして以来、ずっと役者をやっていました。離婚した際に、「せっかくの経験なのでネタを提供してください」と堀禎一監督に言われ(笑)、ちょっとまとめてみたら脚本に出来るかも知れないと思ったんです。で、何人かの監督さんに「これで映画が撮れないでしょうか?」と相談をしたんですが、「無理です」と断られまして……でも、「自分で撮ったら良いんじゃないですか?」って複数の監督に言われたので、全くやったことはないけど初めて撮ってみた……『キスして。』は、そんな作品です。実は撮影したのは2007年と、結構前なんですね。私は出る方しかやったことがなかったので、編集などの仕上げをどうしたら良いのか困って、目茶目茶色々な人にご迷惑をお掛けしてようやく公開に漕ぎつけたんです。出演していただいた伊藤猛さんが亡くなられたり、ロケで使わせていただいたお家や写ってる街の風景も変わってしまってる部分もありまして、私の中では本当に大事な作品です。出てるだけの頃は「まだ公開しないの?」「いつ公開になるの?」なんて急っついていたので、今は反省しています(苦笑)。

Dプロ『百年の絶唱』(1998年/87分)
井土紀州監督 ちゃんと劇場公開できた最初の映画ですから、こうやって時間が経ってからも評価していただけるのは、初志貫徹できたような気持ちです。
吉岡文平プロデューサー 当時はフリーターのような感じで井土監督と映画を撮っていたんですが、ちょっと事情があって仕事を始めた頃だったんです。仕事をやりながら『百年の絶唱』の上映に携われたりしていて、「仕事しながらでもやれるかな?」と思っていた時期でした。仕事は大変ですけど上映も楽しいから、寝る時間を削ってやれば何とかなるかな、と。今回の上映は、オリジナルの8mmフィルムなんです。福岡市総合図書館に受託収蔵という形で、最もフィルムを延命させる温度・湿度管理を提供していただいて預かっていただいています。
井土監督 どこか刹那的なところもあって、でかい花火を打ち上げて終わるなら終わっても良い……そんな思いでした。仕事にすれば映画と向き合わざるを得なくなってくるので、『百年の絶唱』は映画で遊べた最後の作品だったんでしょうね。
ほたる(葉月螢) 演技を始めたばかりの頃で、よく分からずに無茶なことをしていましたね……蹴りをまともに入れたりして(笑)。
井土監督 主演の平山くんが、どんどん削られていってましたよね(笑)。
ほたる 当時の人たちには、今は謝りたい気持ちです……ごめんなさい(苦笑)。
MC. 『百年の絶唱』は、【自主フェス】30周年記念のリクエスト企画で1位を獲得した作品です。選ばれたポイントは、何だと思われますか?
井土監督 ……逆に聞いてみたいですね、何なんでしょう?でも、先ほどの話じゃないですが、“初発の思い”が焼き付いてるんじゃないかと思います。自分が係わってきた映画は全て愛おしいですけど、とりわけこの映画は愛情が深いですから、有難うございますとしか言い様がないです。

自主製作映画の“現在”を切り取り、“未来”を切り拓いてきた【自主製作映画フェスティバル】は、“過去”を振り返ることで自主製作映画の新たな地平を示してみせる。
【第30回自主製作映画フェスティバル】は、12月24日(土)最終日を迎える。ウルズ(過去)、ヴェルザンディ(現在)、スクルド(未来)……スクリーン狭しと唄い、舞い踊る“ノルニル(運命の三女神)”を、どうか御観逃しなきよう――。

取材:高橋アツシ

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