HOW TO BE A…お坊さん!『ボクは坊さん。』レビュー


bousan
「お坊さん」。
このワードに何を連想する?
お寺、お経、お葬式、お墓、、そんなところだろうか、なんだか近寄りがたいイメージ?
知ってるようであまり知らないお坊さんの世界を知るチャンス、本作の主人公はなんとお坊さんなのだ!
お坊さんが主人公だからと身構える必要は一切無い、何しろ主人公こそがお坊さんビギナーなのだから。

弘法大師空海が開いたとされる四国八十八ヶ所霊場。
愛媛県今治市にある第57番札所、栄福寺で生まれ育った24歳の白方光円(伊藤淳史)は、住職である祖父の突然の死をきっかけに住職になったばかり。
仏教の聖地、高野山にある高野山大学で学んだものの、卒業後は書店員として働いていた光円が初めて知った「お坊さん」の世界は驚きの連続だった。

お坊さん必須アイテムの数々、個性溢れるお坊さんたちとの出会い、なんとお坊さんの野球チームだってあるのだ。
そして、檀家とのお付き合いもお坊さんの重要な仕事だ。
檀家の長老、新居田(イッセー尾形)は、頼りない光円が気に入らず何かと文句をつけてくる。
落ち込む光円を励ますのは、幼なじみの京子(山本美月)と真治(溝端淳平)だ。二人は光円がお坊さんになることを応援してくれ、京子は自分の結婚式も栄福寺で光円に執り行ってもらったのだ。

高野山大学時代の親友、孝典(渡辺大知)は実家の寺を継いだが、広太(濱田岳)はお坊さんにならず一般企業に就職している。
心を病んだ広太が会社を辞め、自宅に引きこもってしまった時、光円は孝典と二人、広太の自宅に押し掛け、共に学んだ高野山に連れていくのだが、悩み苦しみを洗い流してくれるような高野山、奥の院の清々しい情景が心を打つ。

悩みながらも少しずつお坊さんとしての経験を積む光円のもとに、思わぬ知らせが舞い込む。
お産を間近に控えた京子が、病院に搬送される途中で脳内出血を起こしてしまったのだ。赤ちゃんは無事に産まれたものの京子は意識が戻らず、植物状態となってしまう…。
意識が戻らず、子供を抱くことも出来ない京子にしてあげられることは何だろう?
自分の無力さを痛感し、悩み抜いた光円が取った行動はシンプルだが、思いやりに溢れていた。周りの人々のため、自分にできることをするーたったそれだけ、だがそれは確実に何かを変える。
光円の行動は長老の新居田の心にも響き、新居田は初めて光円に心を開く。人を変えようとしてはいけない、自分がまず変わらなければ。

生きるとは、死ぬとはいったいどういうことだろう?
壮大なテーマだが、お坊さんとしての光円の成長を通し、生と死を身近なものとして考えさせられる。
光円が葬儀の際に説いた死についての話には、ハッとさせられる。死を恐れず、そこに寄り添うお坊さんこそ生の喜びをも誰より知っている存在なのだ。

自らの道と向き合う光円を、若きベテラン、安定の実力を誇る伊藤淳史が好演している。
彼以外誰が演じられるだろうという適役ぶりで、誠実で優しい人柄そのままを光円に映し出している。
原作は実在の栄福寺の住職、白川密成氏が7年間にわたり「ほぼ日刊イトイ新聞上」に連載し、書籍化された人気エッセイに基づいており、栄福寺のシーンは実際の栄福寺で撮影されるなど、リアリティは充分だ。

作中には仏の教えや生きる知恵がちりばめられているが、決して堅苦しくなく、すっと心に染みて行く。
知ってるようで知らない、お坊さんの世界。観終わった後にはきっと、周囲の人達、生きていることに対する温かな想いが沸き上がるに違いない。

文 小林サク

『ボクは坊さん。』
10月24日(土)より全国ロードショー 10月17日(土)四国エリア先行ロードショー
配給:ファントム・フィルム (C)2015映画「ボクは坊さん。」製作委員会

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