10歳と6歳の兄弟が母を捜す3日間『ぼくらの家路』レビュー
2014年の『ベルリン国際映画祭』に出品され、演技を絶賛された“逸材”イヴォ・ビッツカーの俳優デビュー作『ぼくらの家路』が、9月19日公開される。
10歳のジャック(イヴォ・ビッツカー)は、6歳になる弟のマヌエル、若いシングルマザーの母と3人で暮らしていた。ある事件から施設に預けられることになるが、友達もできず、施設に馴染めない毎日を送っていた。
やがて、施設からの外出が許される夏休みが訪れるが、母からは迎えが3日後になるという電話が入る。落胆したジャックは施設を飛び出し、夜通し歩き続けて家にたどり着くが母は不在で電話もつながらない。
伝言を残し、預け先にマヌエルを迎えに行ったジャックは、兄弟2人で母を捜すため、母の仕事場や昔の恋人の事務所などベルリン中を駆け回る。
かわいらしいタイトル、幼い兄弟のビジュアルからうけるイメージとは違って、物語はとても過酷なもの。若い母は恋人との時間を優先し、頼れる大人もいない2人に次々とトラブルが襲いかかるが、まだ靴紐も結べないか弱い弟を守るために、ジャックは勇気と知恵をふり絞り次第に逞しくなっていく。
撮影当時わずか11歳だったイヴォ・ビッツカーの演技に見えない戸惑い、計算とあざとさを感じない表情が胸に突き刺さり、のめり込みすぎるとただ傍観者として見守ることしかできない自分にもどかしさと苛立ちも感じるほど。観終わってしばらく経った今も、どこに向ければいいのかわからない強烈な余韻が残り続けている。
それほどリアリティのある演技ができるのは、純真無垢な子どもならでは。笑顔や晴れやかな表情はほぼ見られないが、母親を3日間捜し回ったのちにある決断をするジャックが大人の目をする瞬間に、やっと自分も息苦しさから開放された。
まだ体も小さい子どもの勇気ある決断をする姿を見て、ふと自分がいつ大人になったのか考えてみたが思い出せず。大人の自分にはもうジャックの思いに共感もできないことに虚しくなったが、それ以上に兄弟の成長を見届けるという忘れられない映画体験をできたことに小さな喜びを感じた。
文 佐藤久美
『ぼくらの家路』
© PORT-AU-PRINCE Film & Kultur Produktion GmbH.
公式サイト http://bokuranoieji.com/
2015年9月19日(土)公開