肌を撫でるは 中之条の風 『独裁者、古賀。』鑑賞記


肌を撫でるは 中之条の風
――『独裁者、古賀。』鑑賞記――
P1080473

“いじめ”、“恋”、そして“落語”がスパークする、前代未聞の“三つ巴エンターテイメント青春映画”『独裁者、古賀。』が、7月18日(土)より【K’s cinema】(新宿区 新宿)で公開となる。

“ハラハラ”では無く、“ドキドキ”でも無い。『独裁者、古賀。』に流れているのは、もっと肌を撫でるような感覚……“ザワザワ”だ。
高校生・古賀祐介(清水尚弥)は、黒柳(芹澤興人)の力を借り、青木(臼井千晶)・本田(輿 祐樹)のいじめに立ち向かう。これは、恋する副島裕子(村上穂乃佳)の為?……いや、“劇的に行く”為だ!
古賀が、走る。胸のすくような“疾走”ではない。生ぬるい風が肌にまとわりつくような、心臓の鼓動が皮膚を伝って耳に届くような、等身大の“走行”である。彼は……古賀は、地べたを這いつくばり、泥水を啜りつづける、虫けらなのだ――私たちと同じように。

『独裁者、古賀。』は7月4日(土)からの3日間、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)で先行上映された。初日には飯塚俊光監督の舞台挨拶があり、実に貴重な話を聞くことが出来た。
全国公開に先立ち飯塚俊光監督の発言を再現するので、鑑賞の一助にしていただけると幸いである。

――『独裁者、古賀。』は2013年の作品だと思うんですけど、出来上がるまでの経緯をご説明していただけますか?(司会進行:シネマスコーレ坪井篤史氏)
飯塚「群馬県の中之条と言う所に【伊参スタジオ映画祭】って言うシナリオコンペがありまして、そこで運好く大賞を頂いたんです」
――監督が(シナリオを)書いて?
飯塚「そうです。岩田ユキさんが出身で、篠原哲雄監督とかが審査員の映画祭です。作品で写ってたのは、中之条の風景なんです」
――【伊参スタジオ映画祭】に応募したのは、初めてだったんですか?
飯塚「2回目です。1回目は2次くらいまで受かったんですけど、落ちて。体が調子悪かったこともあって、1年くらい掛けてホン(脚本)を書いてたんですよ。だから、引きこもってる女の子って言うのは、実は僕の姿で……「誰か来てくんないかな?」って思って、書いてた感じです」
――作品の内容ですが、インスパイアを受けた何かがあったんですか?
飯塚「僕自身が、凄く人見知りなんです。中学くらいの時に「大人になったら治るんだろうな」と思ってたんですけど、どんどん酷くなってきちゃって(笑)。エレベーターとかでちょっと知ってる女の子と二人っきりになると、あがっちゃうくらいのタイプなんです、未だに。僕が作る主人公って、やっぱり何処か内向的になっちゃって……自分を投影してたら、ああ言う主人公になったんです。ただ、そう言う映画はいっぱいあるし、いじめを題材にした映画っていっぱい出来てたんですけど、自主映画の中でいじめを取り扱うと最終的に凄く暗くなっていく嫌いがあって……死んじゃうとか、殺しに行くとか……凄くそう言うのが多かったってイメージがあったんです。そう言うのじゃなくて、違うテーゼがあるんじゃないかと思って……凄くデリケートな話なんですけど、いじめをエンターテイメントに出来ないものなのかと思って、こう言う感じにしてみたんです」
――いじめのシーンは、とってもリアルに感じました。“ストッキング”とか
飯塚「僕が中学校、高校の時と今とは、時代が違うとは思います。今はよく言われるLINEのいじめとかあるとは思うんですけど。でも僕は、インターネットのトレーサビリティがどんどん上がっていってるんで、最終的には昔のように戻っていくんじゃないのかな、と思ってるところがありまして。“ストッキング”に関しては、実は“新しいヒーロー”みたいな形に出来たら面白いのかなと思って、ああ言うことにしたんです。だから、逆算ですね。いじめのシーンは、最初屋上で撮る予定だったんです。でもロケハンしてみたら“抜け”が綺麗すぎて、違うな、と。初めはなるべくダウナーな感じで入っていきたかったんで、もっと暗い場所にしてみました。「最後まで観られない」って言う人もいらっしゃったので、本当に申し訳ないことしたなと思ってます」
――キーワードの一つに、落語がありますね
飯塚「僕は人見知りなんで、よく落語の演芸場に行ってたんですよ。それと、「寿限無」を呪いの言葉のようにしたかったんです。『独裁者、古賀。』は、僕の一つの落語だったんです」
――それは、キャストの皆さんにも説明して?
飯塚「全員の年表を書いて、一緒にディスカッションしたんです。役者さんは子役からやってる方もいらっしゃって、芝居が凄くよくなりました。この映画はシーンの裏で重要なことが起きてる事が多いんです。だから、「シーンの間に何があったのか?」って言うエチュードもをやりました。芝居をよくするにはシーンを抜いちゃうことが効くって思ってるところがあるんです……解りやすいシーンを入れると、考えなくなる傾向があるんじゃないか、と。お客様にはちょっと解りにくい部分もあるかも知れないんですけど、敢えて引き算のアプローチをしてました」
――黒柳(芹澤興人)のインパクトが凄かったです
飯塚「シナリオコンペなので、印象に残さなくちゃと思ったんですよね。いざ大賞を頂いた時、「やっべ、黒柳どうしよう?」と思いましたが(笑)」
――『独裁者、古賀。』は、何本目の作品になるんですか?
飯塚「学校(ニューシネマワークショップ)で、課題として自主作品を2本撮りました……1本目とかは、僕が主演してるんですけど(笑)。卒業して1本撮って、この作品です。なので、4本目ですね」
――長編としては……
飯塚「初めてですね。僕は、短編であんまり評価されなかったんです。今回長編やったら賞を頂いたので、長編の方が向いてるのかなと思ってるところはあります」
――撮影日数は?
飯塚「6日間です。超タイトだったんで、あんまり憶えてないくらいです(笑)」
――次回作は決まってるんですか?
飯塚「短編を、今ちょうど製作してます。それから『独裁者、古賀。』を撮った後には、文化庁の『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』って言う……」
――あ、ひょっとして、35mmの……
飯塚「そうです。35mm(フィルム)で撮影できると言う作品があって、2014年に撮り終わりました。これもいじめを題材にした作品で、『古賀。』がダークだって言われすぎたんで、もうちょっとポップに……下らないいじめにしてみました。僕が映画を撮りだした頃は、もうデジタルになってたんですよ。よく「フィルムがいい」とは言われてたものの、分かってなかった部分があったんですけど……デジタルだとプレビューが出来るんですが、フィルムだとモニターってフレーム感しか分からないんで、実際にどう写ってるかってラッシュまで分からないんですね。現場では「これ、どうなってるんだろうな」って不安になってたものが、IMAGICAでフィルムのルックで観た時、これはやった人にしか分からない感動なのかなと、「これか!」と思いました。昔の映画に名作が――今も名作はありますけど――名作が多いって言うのは、ワンカットに懸けるスタッフの緊張とか、NGを出すとフィルム代がなくなる……どんどん製作費がなくなるので、それが違うのかなと思いました」
P1080480
『独裁者、古賀。』は、話題に上ったフィルム作品『チキンズダイナマイト』にも直結する超重要作である。
今後ますます脚光を浴びるであろう飯塚監督の作品の中でも語り継がれていく類の映画であることは間違いないので、どうか御観逃しなきよう。
7月18日(土)よりK’s cinemaで始まる上映は、10:50からのモーニングショーだと言う。遠方からの映画ファンや、高校生などの若年層、また年配の方々が終電を気にすることなく観ていただける様、監督ご自身が配慮されたそうだ。
『独裁者、古賀。』が放つ唯一無二の“皮膚感覚”が、あなたにはどんな風に届くのか――是非とも、御自身の“肌”でお確かめを。

取材:高橋アツシ

『独裁者、古賀。』公式サイト

記事が気に入ったらいいね !
最新情報をお届け!

最新情報をTwitter で