撫で 揺らし 訴える 『ら』鑑賞記


ra_1_20150418撫で 揺らし 訴える ――『ら』鑑賞記――

シネマスコーレ(名古屋市 中村区)で、【第3回 ニューインディーズ映画総選挙】が始まった。
新作インディーズ映画を短期間で上映し、観客による採点と動員数で順位を競い、見事1位になるとリバイバル上映される名物企画である。【第1回】では『FLARE フレア』(大塚祐吉監督/94分)が、【第2回】では『おやじ男優Z』(池島ゆたか監督/100分)が栄冠に輝き、見事アンコール上映を勝ち獲った。

【第3回 ニューインディーズ映画総選挙】対象作品は以下の4作品で、スタンプラリーが開催され全作鑑賞で『燃える!インディーズ福袋』が贈呈される。

『スキマスキ』(吉田浩太監督)
4/18(土)~21(火) 17:35~19:00

『ら』(水井真希監督)
4/18(土)~21(火) 19:30~20:45

『死神ターニャ』(塩出太志監督)
4/25(土)~27(月) 17:30~18:55

『乃梨子の場合』(坂本礼監督)
4/28(火)~5/1(金) 17:30~18:45

4月18日、【第3回 ニューインディーズ映画総選挙】初日を飾る『ら』舞台挨拶に登壇した水井真希監督・加弥乃(主演)・西村喜廣プロデューサーを取材した。
ra_3_20150418
水井「はじめて(シネマスコーレ来場)の時は『劇場版 はらぺこヤマガミくん』(監督:井口 昇・西村喜廣・塩崎 遵/79分)で、役者として来させていただいたんですが……2度目はなんと、監督として来る事になってしまいました(場内拍手)!」
西村「上映前なのであんまり内容は話せないかもしれないんですけれど、どう言う映画ですか?」
水井「この物語は、加弥乃ちゃん演じるマユカが拉致されるところから始まって、犯人の男が連続少女拉致事件を起こすんですけれども……大体のストーリーラインは私が実際に体験した出来事をモチーフにしています。加弥乃ちゃんは、私自身が体験した部分を演じていただきました」
西村「撮影は、もう1年半前ですか」
加弥乃「そうですね……撮った後、どんな風に観ていただけるのか全く分からなかったじゃないですか。だから、こうやって劇場で掛けてもらえるのは凄く嬉しく思います」

『ら』Story:
マユカ(加弥乃)はアルバイトの帰り道、見知らぬ男(小場 賢)に拉致される。長い夜が明けやがてマユカは解放されるが、男は次の獲物にみさと(ももは)を連れ去り手に掛ける。男の凶行はエスカレートし、駅から帰宅中のリナ(衣緒菜)に目を付けるが……
解放されたマユカは日常生活に戻るが、心は暗い森に取り残されたまま。心の傷は具現化し、負うべきのない責に苛まれる。フクロウの道標に立ち上がったマユカがたどり着いた言葉は……

上映後、再び登壇した三人は、“御色直し”をしていた。上映前は名古屋と言う土地に因んでか織田家ゆかりの“五葉木瓜”紋が鮮やかな黒いツナギを着ていた西村プロデューサーの変わりっぷりも驚愕だったが、水井監督の体を張った赤い全身タイツ姿に度肝を抜かされた。これは『ら』劇中にもチラリと登場する千葉県の公認キャラクター“チーバくん”だそうで、横から見たシルエットが千葉県の形になると言う。なるほど、だからお腹に詰め物をして膨らませているのか。「“リアルチーバくん”としてどの劇場でもこの格好をしてるのに、全然評価してもらえない!」と監督が嘆くのを受けて、西村プロデューサーが「それは、記事に書いてもらえばいいじゃない」と言ったのを聞き、記者の使命感が首を擡げたのであるが……「エラい人に怒られかねないから、大丈夫です」との監督の言葉で、この程度の触れ方が妥当だと判断した。

西村「この『ら』、こないだ国会の答弁で取り上げられたとか……」
水井「つい3~4日くらい前の話なんですが、性犯罪被害者の資料として、『ら』の話とインタビューを参考にしてくれたそうで」
西村「『ら』は抽象的な表現が多いので、幾つか解き明かしていこうと思うんですが……先ず、マユカが花を手に取るシーンがあるんですが、あれは……」
水井「劇中でも描かれてるんですけれど、警察って意外と優しくないんですよ。調べたら違うみたいなんだけど、私警察のマークって花だと思ってたんで、あんなシーンになりました。あの黄色い花は、警察のマークっぽく見えるようにわざわざ切り込みを入れてもらったりしたんです」
西村「じゃあ、マユカの脚の傷は、何かの象徴なんですか?」
水井「目に見えない心の傷を、目に見えるようにしたらどんなかなぁ……って思ったら、ああなったんです」

タイトルバックになっている紅い光点の集合体にも通じる、独特の色彩感覚が強烈な嫌悪感を齎す。
観客の網膜を突き刺す――皮膚を逆撫でする。

西村「加弥乃さん、撮影はどうでした?」
加弥乃「私、血が苦手なんです。超リアルな傷で、貧血で倒れそうになって……自分の脚にそんなのがあるのはメイクと言っても気持ち悪くって……しかも、その上にお弁当を乗せて食べる訳ですよ!もう………………スゴいですよ(場内大笑)!そう言うメイクによる精神的ダメージもあったし、脚本と言うか“マユカ”になっている5日間はメンタル抉られ感もあったし……暗い中でのシーンが多かったこともあって、気分は滅入ってました」
ra_2_20150418
物語を熱く彩る加弥乃の熱演に、小場 賢、ももは、衣緒菜ら脇を固める競演陣が厚く応える。
観客の胸に迫る――感情を揺さぶられる。

西村「現場では全然喋らなかったよね」
加弥乃「皆さんと喋っちゃいけないって思ってたのかな……何でなんでしょう……」
水井「いや、単純に人手が足りなさ過ぎて、皆忙しかったからだよ(場内大笑)」
西村「忙しかったのは確かにあるけど(笑)、何か誰にも話しかけられないような雰囲気があったよね」
加弥乃「監督が目の前に居たって言うのも、ちょっとはあったんだと思います。実際に体験をしてる方の前で、自分が今から演るんだ、って……」

そして、監督の実体験に基づくと言う強烈なバックボーンが、『ら』と言う作品を特別なものとする。
観客の脳髄を鷲掴みにする――理性に訴えかける。

この後観客からの質問が20分以上も続き、コール&レスポンスの活発さは『ら』の熱量をまざまざと実感させた。
その熱量は上映後も冷めることなく、シネマスコーレ前の沿道はイベント終了後1時間半が経過しても人の波が引かなかった。

『ら』は、第七藝術劇場(大阪市 淀川区)で5月9日(土)~22日(金)、シネマルナティック(松山市 湊町)で5月9日(土)~15日(金)、それぞれ上映が決まっている。サンピアザ劇場(札幌市 厚別区)でのイベント上映は7月25日(土)で、こちらは企画が進行中と言う。
皮膚を逆撫でし、感情を揺さぶり、理性に訴えかける――映画『ら』、今後の上映情報にも要チェックだ。

名古屋ではシネマスコーレの上映が、4/21(火)まで。【ニューインディーズ映画総選挙】と言う特別プログラムのため、通常より公開期間が短いので注意して欲しい。
リバイバル上映のためにも、シネマスコーレに足を運び、御自身の手で評価して――票を投じて欲しい。

水井真希監督 映画『ら』
シネマスコーレ公式サイト

記事が気に入ったらいいね !
最新情報をお届け!

最新情報をTwitter で