笑って、泣いて、興奮して『おやじ男優Z』鑑賞記


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笑って、泣いて、興奮して ――『おやじ男優Z』鑑賞記――

「昨年11月、こちらで『ニューインディーズ映画総選挙』と言うことで上映させて頂きまして、幸いにも一等賞を頂いて今回のリバイバル上映となりました。皆様のおかげです、本当にありがとうございます」
2015年3月7日、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)の壇上に立った池島ゆたか監督が声を弾ませると、観客席から「おかえり!」との歓声が上がった。
その映画は、『おやじ男優Z』。“シル男優”にスポットを当てた初の作品として、AV・ピンク映画・一般映画の垣根を越えて業界を騒然とさせた話題作である。
昨年の『第2回ニューインディーズ映画総選挙』の時と同様、空乃雲之プロデューサーが“Zパンダ”に扮して、ビラ撒きに司会にと奮闘していた。
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「この映画は……Zパンダが先ほど外で言っていたように、ただのエロ映画です(場内爆笑)!」
上映前の挨拶で池島監督がこんなことを言うので、観客席は否が応にもボルテージが上がり銀幕を観詰めた。

『おやじ男優Z』STORY:
早期退職制度で会社を辞めスナック経営に失敗、借金を抱えた豆田満男52歳(なかみつせいじ)は妻知恵(竹下かおり)と一人娘あかり(星野ゆず)にも愛想をつかされ独り身に。きついバイト暮らしの中、ネットカフェで見かけたAV男優募集の広告に目を奪われてしまう。面接に行ってはみたものの怪しげなオトコ熊さん(世志男)から紹介されたのはAV男優の中でも最下層の“シル男優”という仕事。
他に行き場のない豆田はAV撮影現場でベテランシル男優の蜂谷岩男65歳(牧村耕次)と大前静夫47歳(竹本泰志)に出会う。面倒見のいい蜂谷の好意で豆田は彼らと“どん底ハウス”と呼ばれるボロ屋で生活することに。久しぶりの人の温かみに触れる豆田。彼らもそれぞれ複雑な事情を抱えながら懸命に生きていた。
そんなおやじ達の“どん底ハウス”にある日スター女優夏目ゆりあ(坂ノ上朝美)が押しかけてくる。なんとゆりあは“どん底ハウス”に自分も同居させて欲しいと懇願する――。
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「思ったより沢山のお客さんが来てくれて、ちょっと吃驚と恐縮な感じです。最後まで観ていただいて、ありがとうございました」もう一人の登壇者、主演のなかみつせいじ氏が頭を下げると、観客席から惜しみない拍手が送られた。

池島「去年は渋谷、大阪、名古屋と上映させて頂いたんですが、名古屋で終わったんですよね。今年に入って単発のイベント上映はありましたが、こうして劇場でやるのは初めてなんです。去年は名古屋で終わって、今年はまた名古屋でスタートを切る、と(場内拍手)……ありがとうございます!」
なかみつ「ヒロインは、坂ノ上朝美さんって言うグラビアアイドルの方で、今作を最後に引退されたって言う……それまではずっと水着で、脱ぎではなかったんですけど、この映画に出演すると言うことで初めて脱いでくれたんです。本当に、体当たりの芝居をしてくれました。その後、出された写真集が大評判だったらしくて……」
池島「『わすれな草』って写真集で、出たらアッと言う間に品切れの大ヒットだったそうで……」
なかみつ「作品の内容と、リンクしてるんですよね。凄い置き土産をしてくれて、僕らはその恩恵に与ったんです」
池島「ピンク映画って、観てる人も少ないかも知れませんが……観てる人にとっては、このなかみつせいじは嫌になるほど見てるでしょうが(笑)……」
なかみつ「……済みません(場内笑)。つまり、この『おやじ男優Z』は8割方ピンク映画に出演してる男優だったり女優で固められた映画なんですよ」

池島「私ピンク映画は今年で35年になるんですけれど、劇場公開した商業映画が126本なんです(場内拍手)。127本目の『おやじ男優Z』はそんな私の初めての自主映画であり、一般公開される初一般映画なんですね。ピンク映画の専門ミニコミ誌『PG No.105』で、私がピンク映画50年の歴史を語り尽くしてるんですが……さっき読み返してみると、こちらの劇場の創始者・若松孝二監督のことから語り始めてるんですよ!私はピンク映画を観始めた頃はエロにしか興味がなかったんですが……ある日突然、「ピンクは映画だ!」って気付いたんです。その切っ掛けが、若松孝二監督の映画だったんです……若松孝二の映画は、ピンクであって且つ映画でもある……これは凄い、と。得だ、と。エロを見て興奮できて、且つ映画的な感動も味わえる――これダブルに、得なジャンルじゃないかと、18~9歳の頃気付きまして」
池島監督のインスピレーションは、まさに『おやじ男優Z』の印象そのままである。

笑いがあり、涙があり、そして勿論、エロもある――作品を彩る、一抹のアイロニーと、紙一重のペーソス、そして、さり気ない人間賛歌――。『おやじ男優Z』の内包する懐の深さは、そのものズバリ、ピンク映画が持つ奥ゆかしさである。
木全純治シネマスコーレ支配人から『第2回ニューインディーズ映画総選挙』の特大トロフィーが贈られると、客席からの拍手はいつまでも続いた。

余りの大きさに転びそうになる池島監督を慌てて支えるなかみつさん――と言うお約束(笑)のコンビ芸が飛び出すと、満場の拍手に歓声も交じり、観客席はいつまでも笑顔が溢れていた。
『おやじ男優Z』はリバイバル公開中、毎日ゲストが登壇するスペシャル上映となる。
滅多にない鑑賞体験が待っているので、この機会をどうぞ御観逃し無く!

取材 高橋アツシ

『おやじ男優Z』公式ホームページ
シネマスコーレ公式ブログ『おやじ男優Z』来場ゲスト

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