小坂本町へ おかえりなさい『小坂本町一丁目映画祭vol.13』体験記
小坂本町へ おかえりなさい ――『小坂本町一丁目映画祭vol.13』体験記――
自主映画と地域を結び続けて、早や13年。三河を中心とした地元民に愛される『小坂本町一丁目映画祭(こざかほんまちいっちょうめえいがさい)vol.13』が、2015年2月22日豊田市福祉センター(愛知県 豊田市)で開催された。前回は2014年5月に「三河メディフェス2014」の一環として刈谷文化センター(愛知県 刈谷市)で開かれた為、豊田に“こざほん”が2年ぶりに戻ってきたことになる。
『小坂本町一丁目映画祭』はコンテストではなく、自主映画が広く人々に根付く為の交流の場であることを標榜している。毎年、全国の映画監督から沢山の応募があり、激戦を潜り抜けた作品が上映される。地元作品、特に三河の自主映画集団「M.I.F.(=ミフ:Mikawa Independent movie Factory)」が積極的に作品をリリースしているだけでなく、地元以外にも“常連監督”が多数存在する。
『小坂本町一丁目映画祭vol.13』では、一般作品、招待作品合わせて13作品が上映された。そう言えば去年『vol.12』では12作品であったので、ひょっとしたら来年は14作品が観られるかも知れない。
ほとんどの作品の製作陣が映画祭に参加されていたので、作品ごとに紹介する。
『公務員探偵ホーリー3~でも主役は、Star☆Tだけどね~』(清水雅人監督/42分)※M.I.F.作品※
牧野凪紗(出演:Star☆Tメンバー)「メンバーが怒ってるシーンで、よく笑っちゃってNGを出したんですけど……感動ありの面白おかしい良い映画になったので、皆さんたくさん観てください」
千賀璃奈(出演:Star☆Tメンバー)「これがStar☆T初の演技で、緊張で上手く出来ないこともあったけど、機会があればまたやってみたいなと思います」
橋本杏奈(出演:Star☆Tメンバー)「長い台詞のシーンで憶えるのが大変でしたが、共演者の皆さんが優しくしてくれて楽しく出来ました。是非皆さん観てください」
和久田朱里(出演:Star☆Tマネージャー兼リーダー兼メンバー)「私、怒るシーン多すぎですよね(笑)。常にキレてるみたいな感じなんですけど……」
清水雅人監督「普段どおりなんじゃないですか(笑)?」
『最後の面接』(吉富大倫監督/15分)
吉富大倫監督「元々コメディとかサスペンスを撮ることが多いんですが、たまには違うものに挑戦したいと思って……コメディなんですけど、ヒューマンドラマ系のものをやりたいなと思いまして。ちょうど次回作の脚本が出来上がったんですが、これもまた今まで全く撮ったことが無いロマンス映画です(笑)」
『HATTORI!!!!』(木場明義監督/20分)
木場明義監督「小坂本町一丁目映画祭は、三年ぶり三度目になります。今年は、やりました!それもこれも、この着ぐるみのおかげだと思います(笑)。真夏にお父さん役の石尾吉達さんと一緒に公民館みたいな所で作ってたんですけど、ウレタンをボンドでくっ付けてたら受付の小母ちゃんにシンナーやってんのかって怒られました(笑)」
『RELAY』(加藤慶吾監督・小向英孝監督/15分)
小向英孝監督「『RELAY』は大学時代に撮った映画です。『TOHOシネマズ学生映画祭』で“再生可能エネルギー部門”って言うのを募集してまして、卒業間際の一ヶ月くらいで作ったんです。急遽脚本を書いて、東京の山奥の廃校を借りて1日で撮り切りました。ちょいちょい入るセクシーショットは、一番拘った部分です(笑)」
『古本屋SOS!』(櫻井啓介監督/30分)
櫻井啓介監督「普段は映画の美術の仕事をしながら、こうやって映画を作りたい連中が集まって映画を作ってます。一応プロでやってるんで、劇中の美術はある程度拘ってやっていこうかなと……美術発信の映画を作りたいと思ってやってます。この映画用の雑誌を作るのに、グラビアの方を呼んで写真を撮ってる時が一番楽しかったです(笑)」
本多章一(出演)「撮影の時は、監督に任せてます。監督のOKは、OKなんで。何作か一緒にやらせてもらってて、お互いわかってますし」
『Seifish.(ButKind)』(谷口雄一郎監督/48分)※愛知県出身監督作※
谷口雄一郎監督「前回の『ゆびわのひみつ』に続く三部作の第二部なんです……後付けなんですけどね(笑)。元々は僕が講師をしたワークショップの企画で始まった映画で、三姉妹と妹の彼氏はワークショップから選びました。えぇと……去年、刈谷で「Star☆Tの映画を撮らせろ!」と言ってたんですけど……実は、今日は企画書を用意して、持ってきました(笑)」
『Answer』(SUZIE監督/15分)※愛知県在住監督作※
SUZIE監督「小坂本町一丁目映画祭は4年ぶりに呼んでいただきまして、とっても光栄です。私の実の弟が1型糖尿病を患ってまして、それをそのまま映画にしたんです。弟はドラマーなので、真実は少しも曲げてないお話になります」
エイジ・レオン・リー(主演)「この映画を通じて、1型糖尿病と言う言葉を皆さんに憶えて帰っていただけたらと思います。ありがとうございます」
竹谷岳(出演)「本日はお越しいただきありがとうございます。いくつか作品も観せていただきましたが、本当に素晴らしい映画祭にこうして係われたことを嬉しく思います」
『侍心』(中川寛崇監督/24分)
中川寛崇監督「僕は大学で映像の勉強をしてまして、『侍心』は授業の一環で制作しました。テーマがタイムスリップで、初めは“百姓をしている女の子がタイムスリップして来てギターを弾いてる少年と恋をする”って話を渡されたんですけど、ちょっとピンと来なくて(笑)……で、勝手に書き変えて、先生たちに怒られながらも撮ったと言うような……そんな経緯で作った作品です」
『カルピデューム~絆~』(洞 泰志監督/28分)※M.I.F.作品※
いっこ(出演)「役名が金田だったんですが、「主治医の金田です」って台詞がとっても言い辛かったです(笑)」
兵藤和美(出演)「監督さんはじめ本当に素晴らしい仲間と、今日来てくださってる皆さんの繋がりが出来たらいいなと思っています」
渡邉暖花(出演)「今日は沢山の人に来ていただき、ありがとうございます。撮影をやって、とても楽しかったです」
林 晴世(主演)「初めての経験で分からないことだらけで「こんなでいいのか?」と毎日思ってばかりだったんですけど、洞監督さんはじめ皆さんの優しい眼差しで……失敗だらけだったんですけれど「大丈夫」と声を掛けてもらえて凄く楽しく演じられました」
林 貴子(主演)「今回の映画を撮るに当たって本当にドキドキの連続だったんですけど……監督をはじめとした皆さんが凄く優しくて、凄く面白くて……人生でいい経験が出来たなって凄く思います」
洞 泰志監督「自分的には苦労をした部分が多かったんですけれど、振り返ってみると楽しかった思い出ばっかりです。キャストさんに恵まれ、スタッフやロケ先の方々も凄く協力してくれて、本当に救われたと思います。初監督作品だったんですけれど、完成させることが出来て良かったです。本当にありがとうございます」
『小さな机と小さな椅子』(中屋充史監督/94分)
中屋充史監督「これは2年半くらい前の作品なんですが、長いので出しにくかったんです。今回も、「感想をもらえるだけで」ってつもりで送ったんですが……選んでいただいて、ありがとうございます」
松本高士(主演)「地元・豊田の出身なんで、こちらに来られて本当に嬉しいです。御覧いただきまして、ありがとうございます」
岩佐裕一郎(出演)「約3年前の『vol.10』で中屋監督と一緒に参加させていただいて本当に良くしていただいて、またここに来られたことを非常に感謝しております。長丁場お付き合いいただきまして、ありがとうございました」
一般作品はこの他『虹の麓まで』(高岡尚司監督/20分)が上映された。計11本の大ボリュームであった。
これだけでも映画ファンは充分に満足できる質と量なのだが、“こざほん”には招待作品がある。今回は、“ティーンズ教教祖”にして、“制服至上主義の大家”、勝又 悠監督の短編2本なのだから、映画好きにとっては本当に堪らない。
『大雄山線に乗って』(2013年/15分)
全編のほとんどが1カットで撮られた、濃密な15分。ある女子高生のほんの一時を切り取ったはずが、普段の彼女が見えてくる“勝又マジック”に、誰もが息を呑む。そして、心の声が歌になる奇跡の一瞬に、鳥肌を立てることになる。
勝又 悠監督「実は、ワークショップで俳優さんたちの演技のレッスンの一環として撮ったんです。正反対な感じの女子高生が二人、話をする訳でもなく、目を合わすこともなく……でも、ああ言うのって、日常生活でよくあるじゃないですか。お互い相反する人が来た時に限って、見てしまう……そこで、如何に視線をかわすかと言うゲームがあったりとかして」
『忘れられない夏になる、かも』(2014年/20分)
女優・森 累珠の高校2年のひと夏を追ったドキュメンタリー。ダニエル・ブーンで始まりカーナビーツで終わる夏休みは、いつしか“実”と“虚”のボーダーをもふわりと跳び越える。いつしか、その夏には“、かも”は要らなかったのだと気付くのだ――森 累珠も、それを観る者も――。
勝又監督「16才、17才……高校2年生の夏休みって、大人になるにつれて一番大事な時期じゃないか、と。ちょうど累珠さんって女の子がいて仲良かったんで、「ちょっと、撮らせてくれないか?」と。ガチなドキュメンタリーは撮ったことなかったんですよ……好き勝手回したって感覚が近いかも(笑)。ただ、外部から見ると「職権濫用して遊んでるんだろう」って思われがちなので、そこは一線引かないとと心掛けました」
客席からの大きな拍手に包まれて『小坂本町一丁目映画祭vol.13』が閉幕すると、会場を移して交流会が行われた。
“こざほん”は賞レースでない代わりに、監督一人ひとりに記念の盾を贈呈するのが恒例である。今回は、ひとつサプライズがあった。中屋充史監督に、5年連続出場と“こざほん”最長の94分と言う長尺の作品『小さな机と小さな椅子』を出品した偉業を讃え、賞状額が贈られたのだ。
「え……これ、「もう“こざほん”に出すな」的な意味じゃないですよね?来年も出しますよ!」
軽口を叩きつつ表情を崩しっぱなしの中屋監督に釣られて、笑顔が溢れっぱなしのまま、祭の夜は更けていった。
取材 高橋アツシ