刈谷日劇が あるじゃないか『止まない晴れ』鑑賞記
愛知県のほぼ中央に位置する西三河地区、尾張に接する西端に刈谷市はある。人口14万8千人、旧くは刈谷城の城下町として栄えた工業都市である。
刈谷市には8つの駅があるが、名古屋鉄道の「刈谷市駅」が今回の舞台である。JRとの複合駅である「刈谷駅」は隣駅なので注意が必要だ。刈谷市駅の改札を出て左手、南に目を移すと、すぐに地上6階建てのビルを見つけることが出来るだろう。刈谷市駅から徒歩1分、愛三ビルのエレベーターを5階で降りれば、そこは映画館のエントランス――「刈谷日劇」に到着である。
――撮影当時より、お若くなられてませんか?(司会進行:刈谷日劇 亀谷宏司マネージャー)
「そんなことないですよ!もう3年も前になりますが、撮影の時はほぼすっぴんだったので、きっとそのせいですよ(笑)」
刈谷日劇スクリーン2、壇上の女優・伊藤尚美さんは、そう声を弾ませた。
2015年2月11日、劇場では『山本政志監督withシネマインパクト特集』が組まれ、その中の1本『止まない晴れ』(2013年/熊切和嘉監督/32分)主演の伊藤尚美さんが舞台挨拶に立ったのだ。
「衣装は、なるべくダサく……「なんでそれ選んじゃうの?」って言うのを敢えて着ちゃうのが、あのキャラクターと言うか……共演した役者さんがいっぱいそう言う服を持っていて、「これ、無いよねぇ!」って言ってたヤツに決まっちゃったと言う(笑)」
――30分の短編ですが、凄く作り込んである印象でした
「そうですね。エネルギーを消費する感じですかね……熱量が高いとは良く言われます」
――撮影期間は、どれくらいで?
「3日で撮りました。大概一発撮りで……何回か演ったのは、走るシーンだけです。私、下駄で……靴擦れしちゃって何回も脱げたりして……。あと、「走り方を、もっと馬鹿っぽく」って言われて……それが、上手く出来なくて(会場笑)、色々馬鹿っぽく演ってみたら「やりすぎ!」とか言われて(笑)。苦労したのはそれくらいで……特に「こうしてくれ」って言うのが無いので。熊切さんには、「エモーションで演ってください」って言われてたんです。凄く委ねてくれるので、有り難くもあり、遣り甲斐も感じました」
『止まない晴れ』Story:
ささやかで平凡な生活を送っていた夫婦(伊藤尚美・関 寛之)。ある日同窓会に参加すると徐々に驚愕の事実が明らかになっていく……。
『止まない晴れ』は、二度観をしたい映画である。作品の構成上詳細は差し控えるが、鑑賞した方ならば肯いていただけると思う。即ち、刈谷日劇と言う劇場に打って付けの作品なのだ。
刈谷日劇には、2つの上映スペースがある。まず、スクリーン1は、定員77名。新作を中心としてシネコンでなかなか観られない話題作品を選りすぐって編成している。そして、スクリーン2は、定員55名。国内外の旧作・単館系作品を中心として複数立て上映し、一日自由な入場・退場・再入場が可能である。今では当たり前となった興行形態、“入れ替え制”ではないのだ。
『止まない晴れ』はスクリーン2の特集上映4本の内の1本なので、通常料金の800円(!)を払えば二度観できてしまうのである。
「そもそも私は、お芝居を6年くらい休んでいたんですよ。東京に出てたんですけど、30才で帰って仙台に6年間住んでたんです。震災などもありまして、思うところあって、「やりたいことをやって死にたいな」と考えたんですね。やりたくなってしょうがないところに『シネマ☆インパクト』の情報が飛び込んできて、応募したんです。初参加は、『ありふれたライブテープにFocus』(山下敦弘監督/44分/2012年)でした。山下さんとは同い年なので見てきた物が同じで、ノリが合いました」
――山下監督は3月21日から特集上映をやらせていただくんですが……出身の半田市って、お洒落な街なんですよね……刈谷の方が、名古屋に近いのに……(会場笑)
「刈谷には、ここ(刈谷日劇)があるじゃないですか(笑)!」
ローカル色豊かな亀谷マネージャーの自虐ネタに沸いた観衆だったが、続く伊藤さんの突っ込みに大きく頷いた。
刈谷日劇は今後も魅力的なプログラムを組んでいるので、是非ともチェックして頂きたい。
伊藤尚美さんの次回作はオムニバス映画『少年の詩(仮題)』で、『呪怨』(2003年)『魔女の宅急便』(2014年)の清水 崇監督が手掛ける1編だと言う。公開予定の8月が待ち遠しい。
取材:高橋アツシ