空気も映す ご当地映画 『あしたになれば。』レビュー


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――空気も映す ご当地映画―― 『あしたになれば。』レビュー

“ご当地映画”なる作品群が、映画の一ジャンルと認知されて久しい。
大林宣彦監督の「尾道三部作」(『転校生』/1982年・『時をかける少女』/1983年・『さびしんぼう』/1985年)を真っ先に思い浮かべるが、『幸福の黄色いハンカチ』(山田洋次監督/1977年)もロードムービーではあるものの映画ファンによってはご当地映画に分類するであろう。定義は人それぞれだろうが「ロケ地を容易にイメージ出来る映画」とするならば、ご当地映画とは極めて広範囲に及ぶことになり、最早ジャンルとしての意味を成さないのかも知れない。
文化庁の助成により各地のファイルム・コミッションが積極的に映画製作を誘致し始めたことから自らをご当地映画と名乗る作品が増えた今、“ご当地映画”なるジャンルを見直す良い頃合いなのであろう。
実際、地域振興を目的にご当地映画を誘致したフィルム・コミッションの思惑とは裏腹に、ロケ地の特色が前面に出ない作品も多い。そして、そんな“地方推し”が希薄な映画に傑作が次々と生まれている皮肉――映画とは、奥が深い。

映画『あしたになれば。』は、大阪府・南河内地区に位置する羽曳野市・藤井寺市・太子町の2市1町が、「シネマプロジェクト」と称し、映画製作への支援やロケ地の提供を行って製作されている。
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Story:
大阪府南東部に位置する南河内市。ぶどう畑に囲まれた自然豊かな郊外を舞台に、高校2年生の大介(小関裕太)は、夏の甲子園予選に負けたことが原因で野球部から足が遠のいてしまう。夏休み、暇を持て余す大介だったが、ひょんなことから友人の元(葉山奨之)や、健二(小川光樹)、昭吾(山形 匠)、そして隣の女子高に通う美希(黒島結菜)と玉子(富山えり子)の6名で、地元の町おこしのためのグルメコンテストに出場することとなる。
当初は美少女の美希が目当てで参加していた大介たちだったが、徐々に料理の奥深さに気づきはじめる。同時に、大介と元が抱く美希への思いも強くなっていく。
そんな中、美希が突如練習に来なくなる。いったい美希が抱える悩みとは……。果たして彼らは無事にコンテストを迎えることができるのか。そして、大介、美希、元の三角関係の行方は。

主人公・大介とヒロイン・美希がキャッチボールをするシーンは、『あしたになれば。』屈指の名場面である。自らの殻に閉じこもりがちになる青春時代……大切なのは、自分のボール(想い)を真っ直ぐ相手に投げること――そんな映画のテーマが凝縮されている。
小関裕太の飾らない演技は大介のぶきっちょな人柄にリンクし、応援したくなる主人公像を見事に表現している。
黒島結菜の可憐さは、青春映画のマドンナとして非の打ち所がない。
そして、『渇き。』(中島哲也監督/2014年)で鮮烈な不良少年ぶりを見せ『超能力研究部の3人』(山下敦弘監督/2014年)ではチャラいモテ男ぶりを見せた葉山奨之(はやま しょうの)が、主人公のライバルを好演する。CMでの共演経験のある黒島との息の合った芝居は言うに及ばず、小関との絡みが素晴らしい。
また、共に戦う健二(小川光樹)、昭吾(山形 匠)、玉子(富山えり子)が、見事なコメディリリーフを演じ、物語を和ませつつも引き締めている。子役の杉本湖凜の存在も光る。
更に、熱演を見せる若手たちの家族役を務めるベテラン勢が素晴らしいのだから堪らない。赤井英和、赤間麻里子、清水美沙は言わずもがなで、鴨 鈴女、荒谷清水(あらたに きよみ)、安田勝子、玉暉やよい……いずれの演者も、若者の背中を温かく大きな掌で優しく押す。
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キャスト陣の演技を引き出しつつ南河内の雰囲気を表現できたのは、京都府出身で地元・関西で映画を撮り続けている三原光尋監督ならではの境地である。
そこに、宮島竜治氏の編集が“気温”となり、きだしゅんすけ氏の音楽が“匂い”となる。弦楽器とアコーディオンの音色が“風”となり、奥 華子の主題歌・佐々木友里/タカハシコウスケの挿入歌が“想い”となる。
また、主人公たちが奔走する町おこしのイベントは、正に地域振興を目的とした映画製作のオマージュとも受け取れ、観る者には出演者たちの等身大の青春模様が透けてみえる。小森まき氏の脚本が“真実味”となる。見えるはずの無い南河内の空気が、スクリーンに映し出される。

“ご当地映画”の範囲を逸脱した青春映画の好編『あしたになれば。』が、南河内の空気感をしっかりと画面に封じ込めたれっきとした“ご当地映画”として成立している――そんな奇跡の矛盾を、どうか劇場で確かめてほしい。
映画とは、誠に奥が深い。

文・高橋アツシ

『あしたになれば。』
キャスト:小関裕太 黒島結菜 葉山奨之 小川光樹 山形匠 富山えり子 赤間麻里子 / 清水美沙 赤井英和 ほか
監督:三原光尋  (C)「あしたになれば。」製作委員会
2015年2月14日(土)よりあべのアポロシネマにて先行公開!
2015年3月21日(土)より角川シネマ新宿ほか全国順次公開!
『あしたになれば。』公式ホームページ

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